恋した人は魔法使い4

あ、と僕の口から声が出た。


円卓のたまり場、1201号室の玄関を開けるとそこは花園であった。


出迎えてくれたのは、先に向かっていた四人。みんな裸にエプロンをしていた。胸の谷間から始まり、股下15センチくらいまでの長さの、とても立体感のある白と黒のエプロンだった。


「い、いらっしゃいまし。きょ、京介さん。絹子さんも、ごご苦労様でした」


「…お、お疲れ様、きょ、京介君。き、絹子も」


元は色白な肌を、恥ずかしさからか赤らめたエリカと聖が、黒ベースのエプロン。


「お疲れ様!藤堂くん!」


「おかえりなさい、と、藤堂くん…」


もういろいろ振り切っているこの二人。日焼けした肌の麻実さんと健康的な肌の真弓さんが、白ベースのエプロンだった。



そして、そのエプロンには色とりどりの花が咲いていた。とても綺麗な花柄だった。


彼女達が動く度に、その花は微風に揺られるように動いている。まるで身体に花が咲いているかのように躍動感に溢れて……



いや、知ってた。


ちょくだね、これ。



これは、裸エプロン?……いや、なんて呼ぶんだ、これ。裸にエプロンを着てたら裸エプロンだろ? 下着にエプロンだと、下着エプロンだ。水着もしかり、水着エプロンだ。



では問題。

裸にエプロンを描いていたら?



全員全裸……?



ま、可愛いからなんでもいっか。



「お邪魔するね。…みんな、すごく可愛いし、似合って、る……よ」


感想を伝えながらチラリと見た絹ちゃんは、眉を顰め、さっきまでのご機嫌さんが一変し、不機嫌な顔になっていた。あれ? これ絹ちゃんの案じゃないの?



「……誰の仕業?」


「真弓さんですわ。描いていただきましたわ」

「結構上手いのよ、彼女」



絹ちゃんの問いに対する黒エプ二人の返答に、絹ちゃんは納得のいっていない表情をしていた。



「……ふー。なんで二人も?」


「なんか、その、ずるいだろ?」


「そうですよ!ナ、ナースが負けるなんて考えていませんでしたよ!」



勝つとか負けるとかないけど…白エプ二人は頬を赤らめながらそんな事を絹ちゃんに言った。



「ずるいのはあなた方先輩でしょ?」


「まあまあ、聖さん。せっかく可愛らしい花が咲いたのですから。本当に可愛いですわぁ」


黒エプ二人は白エプ二人に対して温度差があるな。もめなきゃいいけど。


なんとなく、このままわちゃわちゃしそうだなあ。なんて考えていたら唐突に絹ちゃんは指令を出した。



「みんな、回って。………よし、やめ」


「……」



どうやら絹ちゃんぷろでゅ〜す、罪と罰2を改悪されたらしく、大変ご立腹だ。冷たい絹Pの声に、みんな黙ってくるりと一回転。


僕にはただのサービスショットだった。


ィタッ





僕はリビングのソファに案内され、丸いローテーブルを囲むようにして立つ彼女達のやり取りを眺めていた。


流石にラバーの匂いがきついので、洗浄の魔法で消しておいた。多分四人とも鼻がバカになってるな。


1201号室に入る前に、絹ちゃんは言った。昨日はクオリティが低くてごめんなさい、今日は大丈夫。と。



これは……Pとして羽ばたこうしているな。


どこに向かうかはわからないけども。

 


だが、見た限り完成度はとても高いと思う。完全な完成形がどんなものかはわからないけども。


しかし、いったいどこに不満があったのだろうか?


まあ、逆に完成度が高すぎて、芸術品のように見えるからか、眺めてるだけではあまり僕の僕は反応しない。


クオリティを高めたと言う白と黒のベースエプロンは、立体感のあるラバー素材のようで、怪しくヌルっと光っていた。みんなラテックスアレルギーは大丈夫らしい。


そこに大小様々、色々な花が描かれている。


その花、綺麗だね、なんて言えば、



『桜蘭高校三年! 美術部所属! 浅倉真弓作! 題、『新・L.H.O.O.Q』!!』



真弓さんは腰に手を添え、自信満々に言った。


言葉の意味はよくわからないけど、とにかくすごい自信だった。いろいろすごいな、この人…


ただ、それより気になることがあった。



胸の突起と、股のωが、無い。



これはシールで隠しているのだろうか。ラバー素材の厚みと花柄効果で全くわからない。ある種、別生命体に見える。淫魔かな? 



「その、京介君! も、もう今日することは、その、お、終わった!?」



淫魔代表、聖が顔を赤らめ、少し覗き込むようにしながら聞いてくる。そのせいでボリュームのある胸が、まるで熟れた果物のように垂れ下がる。あ、ラバーがきちんと仕事してる!すげぇ!



これが科学か……イタっ



…確かにここで出来る事は終わった。もう僕に出来ることはない。本日のクエストは終了だ。なんかこう、現代のクエストはスッキリしないな。モヤモヤする。


探偵なんかもこんな気持ちなのかな。



「そうだね。もう無いよ」



そう言って改めて一人ずつ見てみる。みんな本当にスタイルいいな。



……ん? よく見ると真弓さんだけ、ωが……



…僕はもしかしたら名探偵なのかもしれない。いや、対面で座ってるから気づいただけだった。でも、これはみんなには黙ってるやつだ。絶対。僕は勘が良いんだ。


よく見れば一人だけ微妙に手をワキワキさせてるし…。隠したいけど隠したくない。バレたくないけどバレたい。そんな感じだ。ヘタッピな口笛でも吹きそう。


「………」


ここから導き出せる答えはすなわち、ノーパン健康法は………建前だということだ。





「京介さん、よろしければお食事にしませんか?」


「そう、みんなでご飯たべましょ。簡単なものしか出来ないけどね」


そういえば時刻は19時あたり。お腹も空いた。未羽には連絡を入れてあるから、それは構わないけど、エプロンはスルーする感じ? というか、そのエプロン、エプロンじゃないから危ないよ。


「構わないけど、その格好じゃあ火傷が怖いよ。僕が作ろうか?」


「藤堂くんは座ってて!助けてもらったから!私が作るから! 大丈夫、チェコ?軍?の被るやつ借りるから!」


真弓さんが勢いよく右手を上げる。形の良い胸がぷるんと揺れる。


「…お料理勝負といきたいところですが、突然でしたのであまり材料がありませんわ。ではお礼ということですし、真弓さんにお任せしますわ。わ、私達は、その、き、京介さんを歓待しますので」


「じゃ、じゃあ私もー。ま、まずはお茶を淹れましょ。そうしましょ」


真弓さんが作り、エリカと聖でお茶をしようと提案された。まあ火傷が大丈夫なら良いんだけど。


「あ! ん〜! はー…でもそうか、そうだ。今日しか無い! 真弓、頑張るのよ! 麻実、手伝って!」


「え〜お尻すーすーするし、私も座りたいんだけど。真弓はノーパン健康法で慣れてっからいいけどさ〜。2年くらいだっけ?」



それは建前だと思うよ。だから健康法健康法言わない方が良いんじゃないかな。履歴も言わない方が良いんじゃないかな。



「しぃー!しぃー! いいからっ! 助けてもらったでしょ!」


「え〜」



そこまではしなくても良いんだけどさ。もらい過ぎだよ。


いったい、ナニで返せば良いのだろうか。


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