恋した人は魔法使い3
| 首藤絹子
さらさらと雨が降る中、緑色の傘をさしながら、私はエリカちゃんのマンションに向かうため足早に歩いていた。待ち合わせの15時はとっくに過ぎている。遅れてるけど、傘をクルクル回してしまう。
ブルーシートとチェコ軍雨ガッパは卒業だ。
「ふん、ふん。ふへふ、…間違えた」
罪と罰から一夜明け、世界は大きく変わった。鼻歌なんてお風呂でしかしたことなかった。慣れないこともしたくなる。する時はベストショットが撮れた時。その第一位が…いや、もうランキングは乱れてる。順位なんてつけれない。過去もこれからも全部一位。
写真には映らない美しさが、ある。
ほんとにその通り。
声色、感触、吐息、そして、匂い。
エアコン設定、黙って2℃上げてて良かった。思ったとおり。時間とともに脳が揺れた。
それに、魔法。
本当に美しくて、全てを塗り替える。私の白い塗料もキレイに消え去った。鼻先に付いた白くて熱くてすごい匂いで塗り替えてもらった……あんなに出るんだ。すごい。人間の神秘。京介くんだからか、魔法使いだからか……いや違う。あれは、
愛。
今日の雨は感動の涙だ。祝福が私の上から降り注ぐ。湿気はカメラの敵だった。だから雨はキライだった。でも今日から違う。空を見上げ、雨粒を受け止める。手のひらのキズはもう無い。
違うキズはつけてもらった。ふへ。
浮かれる、そうだ。浮かれていた。昨日から私はずーと、おのぼりさんだ。打ち上がったまま落ちてこれない。落ちてきたくない。
雨雲を見上げ、思った。
みんなと、ずっと浮かんだままでいたい。
◆
円卓の間に着いた私は、昨日のことを全て二人に話した。ショックで固まってしまった二人には悪いけど、元々協定には書かれていたことだ。
だから協定に従い、今度はみんなをバックアップする。ま、お姉さんに任せて。
「本当に、本当に、本当ですの? 本当にこんな事をするんですの?」
「私はこれで、成功した」
「絹子と瑠璃が嘘をつくとは思わないけど…」
「京介くんは嘘がつけない。私もつかない」
エリカちゃんは世間を知らない。聖ちゃんは美学を間違えている。私は絶対に負けられない戦いに勝った。勝者の歴史に学ぶべき。でも試合はコールド負けだった。
「それにしましてもこれは…恥ずかしいですわ…」
「昨日はクオリティが低かった」
「絹子、私、アオハルしたいんだけど…」
「これも一ページ」
はー。これだから乙女はめんどくさい。
羞恥一杯の胸の扉を無理矢理こじ開けられるズッキュンも、お腹の奥が青い稲妻で痺れる春も、そこにあるというのに。
はー。生娘はこれだから。やれやれ。
「仕方ない。私と京介くんのラブ動画を見せる。寝ないで編集した」
「それで遅刻したんですのね…」
「…そんなの、撮ったの………」
…遅刻したのは朝から昂ったせいだけど、黙っとこう。
「京介くんは知らない。三脚は魔女が動かしてた。私も後で動かした」
「……」
「…その、それで、実際の京介さんは…」
「魔王」
「…」
「…今、なんと?」
「魔王、だった。まさに恐るべき魔法使いの王様。レベル100。私はしもべ。何回天国に行ったかわからない。奉仕も出来ないダメしもべ。特に最初。身体の撃ち抜き洗浄からの……」
「絹子さんの独白を…なんといいますか……エロ、」
「言わせないわよ」
「だから策を用意した。みんなもセイコーしてほしい」
きっと、みんなで浮かぶと楽しい。
◆
「本当だ。青い光で絹子の小さな小さな胸が…」
「そこじゃない。でも京介くんは可愛いって言ってくれた」
「……腹立つわね」
「絹子さんの身体から塗料が消えていきますわね。綺麗ですわぁ……」
「そう、チラリズム」
「チラリじゃないじゃない。丸見えじゃない」
「どういう意味ですの?」
はー。これだからバージンは。やれやれ。
恥ずかしさで実を取る事を優先できない。コンセプトを理解してない。やれやれ。
「違う。さっきまでチラリとしか見えなかったものにピントが合った。その感動を利用する」
「整う刹那でこころを掴むのですわね」
「………」
「京介くんの目は特別。して欲しいことを見抜く。だからプラスアルファ」
「……そうよ。して欲しいことはしてくれてた。でもそれ以上にはいけなかった」
「突いて欲しいところは見抜かれた」
「絹子、黙って」
「聖さんの前で言うのは
「もうやめて、って言っても無駄だった」
「黙ってってば。…いいわ。この写真の京介君、久しぶりに見たし、ね。愛香に唆されてないなら良い。だけど、このラブマシンめ。どうしてくれよう…………」
「…抵抗しても、無駄ですのね………ぃぃ」
エリカちゃんはわかってる。聖ちゃんは拗らせすぎて抵抗がまだある。最高のシーンを求めてるせいだ。そんなの後で全部サイコーになるのに。
はー。これだから童貞女は。やれやれ。
仕方ない。この経験者様に任せて。迷える未体験者たち。その必中の策を授けるから。
「だから罰はこれ、全裸ボディペイント、バージョン、ラバー」
「………」
「それほんとにいろいろ大丈夫なんですの?」
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