血の日曜日3

| 藤堂 京介



あれからいろいろとおかしら達から聞き出していた。


僕は脳筋だが、人救いには自信がある。でもこれはなあ…



「あの……」


「…ああ、もう少しその部屋で待っててくれないかな。あ、服も着ててね」



放心状態から回復したのだろう女の子の一人が、監禁室から頭だけ出してキョロキョロしながら僕に聞いてきた。サラサラとした長い髪の女の子だ。浴室にあった真っ白なバスタオルを渡しておく。



「いったい何が……ヒッ」


「ああ、ちょっと別の用事で来たら…君たち二人が居てさ。あまりにも可哀想な目に遭ってたから助けたよ。もう大丈夫だからね」



まあ意味がわからないだろう。


散々酷い目に遭わされてきたコックローチ達は壁際に綺麗に横に並んで座ってアヘアヘ言ってるし、ガラスの天板のローテーブルには全員の千切った右耳を並べてるし。


やっぱり一人欠けるとかないしな。耳。討伐部位だ。これを冒険者ギルドに持っていけば、換金してくれる。


違くて。


このおかしらの部屋は全体的に洒落ていた。家電なんかも最新のものなんだろう。


そこに、耳。


TVのリモコン、エアコンのリモコン、ブルーレイのリモコン、耳。


こいつら一人一人のスマホの上に、耳。


いろいろ試したが、違和感は消えなかった。

最後にフローリングはなんか似てるからいけるだろとばら撒いてみたけど、駄目だった。


アレフガルドでは見慣れた光景でも、現代テクノロジーと並ぶとダメだな…やはりファンタジーと科学は相容れないか……


違くて。



「私達、帰…れるんですか?」


「もちろんだよ。ただ、あまりにもコックローチが酷くてね。どうしようか考えてたんだよ。君たちを帰したら警察の証拠としても弱いかな、なんて考えてたんだけど」



「こっくろーち?」


「あ、こいつらの事ね。ああ、良かったら君たちの事、教えてくれないかな?」





話を聞けば、この子たちは隣の県に住んでいる高校三年生。友達同士だそう。学校帰りに立ち寄った公園で急に男たちに襲われ、連れて来られたそうだ。今日の日付けを教えると監禁5日目のようだ。



「私はまだ大丈夫なんですけど…」


「ああ、もうひとりの子か…」



僕に話しかけてきた色素の薄い髪色の子は真弓まゆみさん。サラサラとした長い髪の女の子だ。


もう一人の黒髪ショートの子は麻実まみさん。暴行を受けていた子だ。


二人は監禁されてから陵辱されたそうだ。真弓さんはまだ経験があったから耐えれたけど、麻実さんは未経験だった。痛いのに散々犯され、騒ぐからと暴行され、半ば錯乱していたが、何かをされてからは大人しくなった、という。今も呆けている。



「これかな?」


「わかり、ません。ただ、わたしのせいで…ぐすっ」



宝箱は薬物だった。


薬草じゃないのか…おかしらに命令したらすぐに場所を教えてきた。


ケバケバしい色の錠剤が2種類。なんでも合成カンナビノイド系と合成カチノン系らしい。騒ぐ女の子にはカチノンらしい。ファンタジーに科学はわからないよ。とりあえず左のすねを折っておいた。



「君は救いを求める?それとも勝手に助かりたい?」


「……私に何かできるなら、お願いします」





「……ま、真弓?」


「あさみぃ、麻美!ごめんね、ごめん、あの時公園行こうなんて言わなきゃ、わた、わたし…」



真弓さんには、まずはこんな事をすると回復撫で撫で魔法を使ってみた。違う意味で呆け出していた真弓さんにGOをもらい、麻美さんにも施した。



真弓さんの放心状態は回復し、意識を取り戻した。これはバッドステータスだと何と言うんだろ?混乱…?いや、混乱だったら回復の魔法は効かないし、もっとこう、目が明後日に行くというか。なのに後ろから的確に斬ってくるというか。


直接の回復魔法は薬物には効くのか…ならさっきの範囲回復が効かないのは直接かどうか?



まあ、とりあえず正気には戻せると。なら、いやコックローチ撫でるとかいやだな…というか治さなくていいのか。



「二人とももう少しこの部屋で待っててくれないかな?」


「だ、だれよ!アンタ!」


「麻美!違うよ、この人は藤堂さん。わたし達を助けてくれたの!ありがとうございました、本当にありがとう…ぐすっ」



「良いんだよ。気にしないでいいからね。とりあえず着替えてて………あ、二人は復讐する?」





二人の制服も下着も探したけど見つからなかった。おかしらに聞くと売って処分したらしい。スマホも。とりあえずもう片方の脛も折っておいた。


仕方がないからクローゼットを漁る。

さすがにバスタオルじゃ復讐できるか不安だろう。


何か、勇者してるな。僕。


おかしらのクローゼットは衣装で溢れていた。


でもそこにあるのはコス衣装とエロ下着だけだった。


なんでだよ。


復讐だっつってんだろ。





「あの、その、あの藤堂さん、違うんです!対価です!」


「そうよ!対価よ!そいつらが悪いのよ!」



少し経ってから監禁室から出てきた二人はスカートの前を押さえながらモジモジしながらそう言った。



「……僕はまだ何も言ってないけど、でも似合うね。かわいいよ」



二人がチョイスしたのは、キツめのピンク色したミニスカナースだった。


似合う、がこの場において不謹慎なのはわかっている。何せ救いたてだ。ただ、何故か聴診器とナースキャップまで装備しているからこそ出たセリフだった。ゲームかな?


下着は着けていない。なんかここにあるのを履くのは気持ち悪いし、なんなら対価にしちゃえ、だそうだ。……ま、かわいいからなんでもいっか。



「さあ、どうしたい?」


「どうしたら良いと思いますか?」


「んー、とりあえず殴る!それから考えましょ!」



なんというか、麻実さんはたくましかった。さっきまでの状態が嘘みたいに快活な様子で、コックローチたちを殴っていった。


真弓さんは、元来そういう事が向いていないのだろう。ヘナチョコパンチだ。でもそれで良い。復讐のために拳を振った。


その事実が前を向くのに大事なんだ。



僕はソファに座っておかしらとコックローチを眺めていた。瞳の色が変化するかの観察と検証だ。微に入り細に入り、だ。



一人ずつ殴って疲れたのか、真弓さんが僕の横に腰掛けてきた。二人で麻実さんの復讐を眺めながら喋る。


二人とも中学からの友達で麻実さんは中高共にバレー部、真弓さんは中学の時は演劇部、高校では美術部に所属しているそうだ。好きな食べ物はオムライス。運動部と文化部であまり最近話せてないからと部活帰りに公園に立ち寄り、おしゃべりしていた。苦手な食べ物はザーサイ。思ったよりおしゃべりに夢中になってしまい、さあ帰ろうかと思った時に攫われたという。実家では犬を飼っている。


監禁中は、これでもかと犯されたらしい。初めてのデートは公園が良い。大人なおもちゃや、電動なマシン、プラスチックな注射器、アフターピル、なんでも用意されていたらしい。一緒に川とか眺めたい。演技には自信があったから感じ過ぎたフリをして、早めに相手を止めさせていたらしい。星座を見ながらキスしたい。そんな中、助けに来てくれたのが僕だった。今彼氏はいません。



「………」



あれ? 回復撫で撫で魔法効き過ぎてない?



麻美さんは三周目に突入していた。勢いよく殴るから、見えてはいけないものがチラチラ見える。いや対価だから良いのか。……とりあえず目を背けてみた。すると真弓さんと目が合い、真弓さんは頬を染めた。


やっぱりイエスか…



違くて。



とりあえずだいたいわかった。


ここにいる葛川聡くすかわ さとしは、あの葛川の7歳上の腹違いの兄だそうだ。


その葛川兄がこんな場所でおかしらとつるんでいるということは、葛川のノウハウはこいつらからだろう。


表札は違ったが、この部屋の名義も葛川らしい。なんでも葛川の家は古くから政治家を輩出している家系で、地元での顔役でもあるらしい。まあ、貴族でいっか。わかんないし。


葛川弟はここには来たことがないが、同じような物件を持っているらしいが、葛川兄は行ったことはないそうだ。住所は聞いた。


あとは、ここにあるデータとか、被害者とかか。絹ちゃんに頼もうか。拡散とかわからないしなー。光の魔法とは違うだろうし。一応連絡するか。



「ね、藤堂さん。藤堂さんには不思議な力がありますよね。麻実を正気にしてくれたし、この人たちも…起きてるのにひとつも声を出しません。なんなら瞬き全然してませんし…」


「そうよ!なん、なの!この無抵抗さ、はっ!」



今度はミドルキックか。腰入ってるなー。ナース服がピチッしてるからか、お尻がすごく格好いい。たまにずり上がってるけど。あ、トゥキックに変えた。


いやビクンビクンしてるし、反射はあるよ。自分じゃ声は出せないし、身体は動かせないけども。



「まあ、そうだよ。今は沈黙させているだけだよ。信じられないかもしれないけどね。やり返されたら二人がケガするかもしれないし、一応ね。あ、ダメージはきちんと入っているから心配しないでね」



最後に回復かけたら辻褄合うし。


いっちゃっていっちゃって。

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