血の日曜日2

| 藤堂 京介



「アッヘッ、アッヘッ」


「はははは。どこへ行こうというのかね」



まだ頭と身体が不一致なのだろう。真っ直ぐ走りたいが走れない。そんな感じだ。僕は小石に後彩色が走らないくらいの魔法を宿し足に投げた。



「うがっ」


「…監視カメラが厄介だな。死角は死角…」



足をもつれさせておかしらは倒れた。よくよく考えたらここに至るまでに結構カメラに写り込んでるはずだ。はー…これが脳筋たる所以か。何にも考えてなかった。



ま、いっか。


しかしレベル1 だとなんと不便な。カメラに写るとか…ないわー。ふー…。仕方ない。



回復魔法で、殴るか。





「鍵」


「ア、ハイ」



最初からこうすれば良かった。


素直パンチはあの時以来、ローゼンマリーとティアクロィエに禁止されていた。


だがその当時19歳のまだまだ好奇心旺盛な僕は、魔物相手にこっそりと魔石無しバージョン、つまり回復の魔法を発動前で留め、素手で殴る、素直パンチ改を試していた。


まあ、効果は抜群だった。まるで薬物に囚われているかのような狂いっぷりだった。


全然素直じゃなかった。いや、素直なのか。


その時はバレないように瞬殺に切り替えて事なきを得たが、それ以来封印してた。


レベルに合わせたから、強力すぎたのだと反省した。


おかしらには効き過ぎなかった。多分、位階が下がったからだろう。けど石より良い。回復魔法の強弱を瞳の色を見ながら見極めれば早かった。まあ後彩色は若干漏れるが仕方ない。調整次第だ。



僕は職人なんだ。



時には大胆なアプローチをする事で技術は進化し、そして、やがてそれが歴史の大きな礎になる。


やっぱり手だよ、手。


職人は手、動かさなきゃ。






広い玄関から廊下を通り越してリビングに出る。迷わず一つの扉を開ける。


索敵によって気づいていたが、部屋には女の子が二人、いた。


全裸にされ、アイマスクをされ、手枷をめられ、排泄の用意だけされた、人の尊厳を踏みにじる、おぞましくて痛ましい仕打ちだった。



瞬間、おかしらの前に立ち、つま先に回復魔法を宿し、蹴って両膝を割る。



「……これ、お前らが?」


「ア、ハぃ」



倒れそうなおかしらの髪を掴み、それを止める。とりあえず左耳を風魔法で千切る。あ、千切ったらダメか。部位欠損回復の練習しよっか。いや、要らないか。いや…途中で止めてみよ。



「関わったやつ、全員呼び出し。今すぐね」


「ア、ぎゃ、ハィ」





それから1時間ほど過ぎた。

車の中のやつも全員連れてきた。



一人来ては素直パンチ改。一人来ては素直パンチ改。そうやってリバーシの盤面を白にしていった。とりあえず全員左耳を千切り、半分回復し、揃えた。これをおかしらのなかまの証にした。わかりやすい。



「これで全員?」


「あと一人は服役中です」



とりあえず言ったそいつの右耳を落とす。プチプチが揃わないだろ。


集まっては素直パンチ改、膝を割り、左耳を千切り、左耳上半分残し回復、それをルーティンにした。


職人は何より反復練習だ。良い感じの加減を学んでいく。



………面倒だな。


ブチ殺すか。


いや、慣れようか……職人職人。



床に這いつくばって、身動きが取れないこいつらは、まるでコックローチホイホイの中のコックローチだ。


合計8匹か。


1匹みたら100匹いるとか言うけどなあ。まあ、今日のコックローチホイホイはここまでか。


コックローチが集まってくる最中に聞き出したが、なんでもこの女の子二人を攫ってきてここで飼っていたそうだ。


飽きたら新しいのと交換してました、なんて真面目に言うやつがいたから、とりあえず右耳を千切り落としておいた。


女の子二人は憔悴し、一人の子は青痣も酷い。アイマスクをされていたから洗浄魔法と回復魔法を強めにかけた。その際、なんとなく嫌だったので部屋全体にも掛けた。


でもなんで部屋まで掛けねばならないのかと、横にいたコックローチの右耳をとりあえず千切っておいた。



八つ当たりとも言う。





リビングから外を見渡せる大きな窓ガラスに、組織図を太マジックで書かせた。



そうそう。これでわかりやすい。


全体の詳細はこうだった。このおかしらが一応おかしらで、残りは実行班と撮影班に分けられ、だいたいはお金が欲しい女の子をSNSで誘い出し、飽きるまで拉致し、映像販売で利益を得ていたそうだ。撮影班は時に遠くまでターゲットを探しに出ては実行班に攫わせていた。


やり口がなんか似てるな……


その指揮を取っていたのが、最後に来たこいつ。


「名前は?」


「…葛川聡くすかわ さとしです」


はー…。


とりあえず右耳を千切る。

なぜならこいつの瞳には狂ったように明滅を繰り返す暴力の色が見えていた。この粘りは………やっぱり薬物かな。



はー…。戦闘でもないのに薬物って。


この世界は本当に異世界すぎる。


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