勇者無双
勇者無双1 - ドキドキ
| 白崎 莉里衣
アルバイトを始めて一月。木曜日の放課後と日曜日の半日。週2回の私の特訓の日。
元来、人付き合いが苦手な私は、高校二年生になってから一念発起し、計画を練り出した。せめて人並みに話せるようにと接客業を選んだ、と親友二人には伝えている。
表向きは。
でも本当は違う。女子校だし、こんなんじゃ彼氏も出来やしない。ファミレスで出会いとかちょっと想像と違うけど、まあお試しだ。そして、一度で良いからデートしてみたいんだ。そう、素敵な私の……。
そう思って始めてみたけど…未だに噛む。カミカミだ。なんで噛んじゃうかなー。
何でサ行ばっかり噛むかなー。ましゅってなんなのよ。でしゅってさー。はー…
親友二人は今日も来てくれている。生まれた時からの幼馴染たち。みんな3月14日のホワイトデーが誕生日。同じ日に生まれたことを特別視して以来、ずーと親友だ。高校も同じ、大前女子。
赤城麻理、マリちゃん。まっすぐとした長い黒髪を今日はポニテにしてる。実家は赤城一刀流の道場で、そのせいか刀のような凛とした佇まいが格好良い美人な女の子だ。そのせいか学校ではモテモテだ。女子校で。本人は気にしてたけど。
けど見た目とは正反対のズボラさで、いつも私とクロちゃんに怒られる。そういう時は目を開けたままだいたい貝になる。
雨宮クロエ、クロちゃん。お父さんが外国人のハーフ。小顔でふわふわ金髪、ぱっちりお目目に深緑の瞳、背は三人の中で1番低い。背だけお母さん。二人が高いだけだ!っていつも怒る。運動音痴。それを言うといつもかなり怒る。
今日は雨だから髪が決まらず機嫌が悪いはず。そして胸が1番おっきい。いつもマウントを取ってくる。
私はそれなりにある。麻理ちゃんより。
そんな昼時に不幸はやってきた。男6人のテーブル席。オーダーはぐちゃぐちゃ。テーブルの上もぐちゃぐちゃ。ドリンクバーのグラスも大量。用もないのに呼び止める。
わたしの愛想が無いのを見抜かれたのか、下げようとしたグラスを持った時、肘を押されて一人にこぼさせた。
無茶苦茶だ。この人たち…。
ずーと女学校だったから男の人は小説や漫画で想像するだけで、こんなにも野蛮だなんて思っても見なかった。はー…百合に走る気持ちがわかってしまった。
とりあえず謝ろうとしたら思っても見ないことにまた遭遇した。
この人達は出会いのきっかけを自作自演したんだ!
私がどれだけ出会いに妄想染みた思いを秘めてると思っているんだ!
ワナワナと震え、腹が立ってきた。
そう思ったらカミカミ癖は鳴りを潜め、毅然とした態度をとれた。やるじゃんわたし。
ただこの人達は諦めなかった。声も荒げ、半ば恫喝するように誘ってきた。流石にそれには昂った気持ちも萎み、怖くなってきた。
でもお店にいる以上、ある一線までは超えないだろうと思い、諦めてくれるまで謝ろうとした。
それに我慢ならなかったのは親友二人だった。あ!止めて。私は店員だから最悪警察呼べばいいけど、二人が関わったら帰り道になにされるかわからないよ!流石の麻理ちゃんも竹刀がないとどうしようもない。クロちゃんは運痴で逃げれない。
どうしようどうしようどうしよう………よし、この二人が嫌な目に合うくらいなら連絡先を渡そう。
そう決意した時だった。
軽い調子で話かけてきた男の子。まるで揺るがない様子で、恫喝する6人にも何にも臆することなく対峙した。私達3人を背中に回して。
私は不謹慎にもドキドキした。同じ男性店員も助けにこない。周りのサラリーマンも見て見ぬふり。男なんてこんなもんなんだなんて考えていた私の前に立ってくれた……。
まるで、あの絵本の……。
は! いけない! 相手は6人だ。勇気を持ってくれたのはいいけど、そこまで強そうには見えない。むしろ華奢で…オシャレで…清潔感があって…
は! いけない! 止めないと!
「あ、あの!」
「君が犠牲になる必要はないんだよ」
私の目を真っ直ぐ見て、朗らかに笑い、まるで今日の雨を吹き飛ばすような、そんなお日さまみたいな笑顔をして……そう言って6人と出て行ってしまった…
……なんで私の考えてたこと、わかったんだろう……
これが……夫婦?
……つまりわたしは、嫁?
「莉里衣、大丈夫?」
「大丈夫だったか?」
は! いけない!
「もう! 二人とも心配は嬉しいけど私は店員だから大丈夫なのに! 麻理ちゃんは竹刀ないと何もできないし、クロちゃんは運痴だから逃げられないのに! 心配させないで!」
「…なんかめっちゃ腹立つ。けど言い返せない」
「……竹刀ないと何もできない……」
もっと反省して! 二人に何かあったら、ほんとどうしようかと思ったよ……
「それよりさっきの人…大丈夫かな…」
「わからんが、見に行ってくる。傘もある」
「そうだね。ボクが暴行の現場を押さえるよ」
「は? 私の言うことちゃんと聞いてた?」
何言ってんの、このポンコツたちは。
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