魔女の森と円卓の乙女2

| 和光 エリカ



魔女たちと連れ立って訪れたのはファミリーレストランでした。あまり来たことがないため、手順がわかりません。案内は後輩である魔女たちに任せ、彼女たちは手際よく整えてくれました。



「あまり勝手がわからないの。感謝致しますわ」


「和光先輩が世間知らずなのは存じています。お気になさらず」


「それで、相談って?」


「純。先ずは注文の品が届いてからにしましょう?」


「東雲先輩、秦野先輩に言っても無駄ですよ〜。家業のせいか、のーきん?なんでしょ〜クスクス」


「あ?」


「蘭華さん、よしなさい」


「そうですよ、蘭華さん。宇御さんがこの場を仕切るのでしょ。まずは任せましょ」





「ご覧いただきたいのは写真です。ドロップしますからお受け取りください。先ずは私の憂鬱をご覧いただき、その後、相談をします」



音野さんから送っていただいたその写真を拝見した時、心臓が止まりそうになりました。


小学生の時の悪夢の再来、そう感じました。



「これを撮ったのは間宮さん。時刻は昨日の夕刻。間宮さんは動揺して私に送ってくれました。私の憂鬱は、間宮さんの動揺がわからないことです。私は京介さんの笑顔が輝いているのなら、別に成瀬愛香は気にならないのです。黙っていてすみません、杏樹さん、蘭華さん」


「宇御さん、聞いてないんですが〜」


「間宮さんを問い詰めればいいのかしら」


「…間宮さんは、なんと?」


「あまり益体のない話でした。ですので円卓の皆さんならわかるかと」



「……この愛香さんの笑顔は、かつて私達が束になっても敵わなかった時の笑顔ですわ。中学校の時も高校に入ってからも浮かべなかった、勝ち誇り花咲いた笑顔。私達円卓にとっての悪夢ですわ」


「悪夢、ですか?」


「…やっぱりきっかけは暴行の件じゃないかな」


「東雲先輩、なんですか、それは」





暴行の件を伝えましたが、魔女達はあまり動揺しませんわね。御堂さんだけが無言…いやブツブツと呟いていますね…。


絹子さんが現場に着いたときは魔法まで10分くらい前でした。


だからもう調べはついていますわ。


絶対に許しませんわ。



「後日情報と動画をお送りしますわ」


「ありがとうございます。まあクズは調べて締めるとして」



そう。締めるのは確定です。音野さんの計画も知っておきたいですわね。


もしかしたら今回は魔女と組んだ方が良いかもしれませんし。



「暴行事件発生が木曜日の夕方ですわ」


「間宮さんが見たのは昨日の夕方です」


「この間に何かあったってこと?」


「ええ。私達の集まりも金曜日の夕方でした。純さん、聖さんの話では京介さんと愛香さんは学校に来ておらず、お昼休みでも義妹は取り乱してはいなかったとおっしゃってましたわね?」


「そうだな」



それに、高校に入ってからますます曇っていた京介さんの笑顔が、いくら魔法があるとはいえ、暴行を受け落ち込んでいるはずなのに写真には輝く笑顔の二人………つまり、



「…………ヤッたな」


「宇御さん、出てる出てる。魔女モードになってますよ〜」


「…もう。はしたないですわね。ただ……推測の域は出ませんが、私もそう感じました」


「エリカちゃん」

「エリカ」


今まで追ってきたからわかる空気感。同級生ならわかるでしょう………つまり、



「つまり、……チャンスだ」


「…ええ、そうですわ」



「え?」


「なんでよ?」



「京介さんは潔癖なまでに下心を感じさせた事はなかった。こんな人、ほんとに居るのかってくらいの王子っぷりだった。あの時は自尊心なんてなかったけど、そりゃ落ち込んだ。

それなりに美人で発育も良い私達全員漏れなく興味を持ってもらえなかった。先輩達もだろ?ぶっちゃけ自分らのプライドを守るためでもあったが、森が出した結論は、まだ京介さんは春機発動期じゃないって事だった。

だけど、この写真では人前で腕組み。なんとなく心の距離も近く見える………腹は立つが、今までなかったことだ。思春期が始まったのかもしれない。成瀬愛香のおかげだ」


「…宇御さん、魔女モードのままでいくのですね〜」



中学の頃、それは私達も一度出した結論でした。だから露骨なアピールは避け、いつかその時のためにと自分を磨いてきました。なぜならそれは、



「…愛香さんは幼馴染ポジションに異様にこだわっていましたわ。

ありとあらゆる同じ歳の幼馴染キャラクターを模倣していました。清楚系、ゆるふわ系、元気印系、スポーツ万能系、優等生系、クール系など、まるでグラデーションのようにその時々で使い分け、本当の幼馴染である聖さんや瑠璃さん、桃さんも模倣し、駆逐してもなお続けていました。

さまざまなラブコメディのヒロインを演じ、京介さんを掴んで離さなかった、狂愛の愛香。その愛香さんが自らでその幼馴染ポジションに配慮していたのか、付き合っても一線だけは超えなかったのです。それが一変して、この前方彼女ヅラ」


隠し撮りにも関わらず、京介さんのポジションはあたかも後方彼氏ヅラに見えますわ。こういう360°に気を張り、対比を見せつける愛香さんが何より厄介でしたわね。


すぐに周りを味方につけ、その味方につけた生徒の性格を観察し吸収し、また模倣する。誰だって自分の真似をされるのは嫌でしょう。そんな時はすぐにでも戻したり変えたりしていました。まさに千変万化。


ある一定のライン、オリジナル成瀬愛香からははみ出さずにやってのける天性の才。だから誰も気付かない。だから私達は結託したのですわ。



「…そうだったのか。やっぱり成瀬愛香はヤバいんだな」

 


今は模倣する相手も駆逐する相手もいないはずですのに…にも関わらず、あの花咲く笑顔…二人の近い空気感…



「…そうですわ。あと、その、同衾したとは認めたくはありませんが…」



多分、事実なのでしょう。



「どう計算したらそうなるのかわかんねーけどさー。音野は二人の確信を得たわけじゃん?なのにチャンスって具体的に何する気だ?」


「だって秦野パイセン。考えても見ろよ? やっとだぜ? やっと思春期だぜ? つまり」


「つまり?」


「JCパンツを手渡し、これだ」



「いろいろすっ飛ばし過ぎですわ」



やっぱり魔女とはやっていけませんわね。

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