首藤家4 - 勇者VS勇者
| 藤堂 京介
「瑠璃ちゃん…だよね」
飛び出してきた猫は瑠璃ちゃんだった。そしてどうやら謎の布切れの正体は瑠璃ちゃんのパンツ(真)だった。
謎は解けてないけど、事実は知れた。
だからつい小さな頃と同じ呼び方をしてしまった。
「…ひっく、ひっく……ごめんね、ごめん。わたし、わたし、京介くんにまた…久しぶりに会えたのに…お漏らしばっかでぇ…今日もターンしたのに……治ったと思ってたのにぃ…わたし、死にたい、死ねる、ぐすっ」
「…いいんだよ。誰だって思ってもみないことに遭うなんて、いくらでもあるんだから」
「でもぉ…恥ずかしくって、情けなくって、ぐすっ」
確かに5年ぶりだし、久しぶりではある。ただ、さっきの生暖かい感触で思い出したのは10年以上前の記憶だった。
瑠璃ちゃんは昔から身体を動かすことが得意で、それを活かしてダンスを習っていた。とても上手で明るくて可愛い、向日葵のような女の子だった。
でも人前だと極度の緊張しいですぐに尿意が来るそうで、真面目さと恥ずかしさとで先生にも言えず、粗相する事があった。
小学校低学年の頃、たしか劇の練習の時にあるシーンで躓いて抱き止めた僕の上でジョジョバーしてた。その時も抱き止めてから安心させるように声かけをした。
そんな記憶だ。
「それになんだか懐かしくってさ、小学校のたしか低学年の時の再現だしね。その時と同じで、僕は気にしないからね。大丈夫」
「小2だよ…。うん。京介くん…覚えててくれたんだ…、嬉しい。ぐすっ……あ、え、きゃああ!…すぐに拭かなきゃ!……やっぱり死にたい、ぐすっ」
僕は抱き合ったまま頭に手を乗せ撫でながら弱回復魔法をかける。
極度のストレスは心をダメな方に持って行く。戦場でも多くの兵たちが襲われていた。
まあ比べるものじゃないけど、人によって問題の大きさは違うしね。瑠璃ちゃんにとっては大問題だろうし。
それに、もしかしたら昔治せなかったものも、今なら治せるかもしれない。
「大丈夫だから、ね。落ち着くまでちょっとこうしていよう。ふふ、さっきから心臓バクバクだよ?」
「すん、ぐすっ、それは、お漏らし…したしぃ…ぐすっ、恥ずかしぃしぃ……ほら、なに、京介くんとその、ごにょごにょ、してるから」
お、ちょっと言葉が軽くなった。良かった良かった。それにしてもごにょごにょって本当に言うんだな。いや、僕に心配かけないようにちょっとボケたんだ。そうだ。瑠璃ちゃんはそういうところがあった。
「ふふ、ほんとにごにょごにょって言ってる」
「……うん。…ふふっ」
ああ、もう大丈夫だ。記憶にある瑠璃ちゃんの笑顔だ。みんなのムードメーカー、湊小のルーリールーだ。
「やっと笑った。うん、瑠璃ちゃんは笑顔が良いよ。泣き顔は似合わないからね」
「ああ、京介くんに撫で撫でされてる。思い出のとーりだ……嬉しい…」
少しの間、抱き合ったまま考える。確か瑠璃ちゃんは首藤さんとは仲が良かった。
つまり…どういうことだろうか?
さっきまでの考察が瑠璃ちゃんに置き換わると推測が成り立たなくなってしまった。
勇者、魔法使い…勇者は置いておいて…。魔法は首藤さんから円卓にしかバレてない、という発言。
「…瑠璃ちゃんは首藤さんと仲が良かったよね。…つまり、僕の魔法はバレてるのかな?」
「……いいの?」
そうか。瑠璃ちゃんも円卓なんだね。円卓が何のことかはまだわからない。ただ、あの画像を共有してはいるけど、首藤さんも瑠璃ちゃんもバラす気はないという事はわかった。
「多分誰も信じないけどね。使えるよ。だから綺麗にしてあげる。お漏らしなんか気にしないでいいから!」
僕は洗浄の魔法をかける。
干渉する部分は二人と二人から半径1メートルくらい。まあ
「はっふあぁぁぁぁ…キレイ……抱きしめられながら…青い…ひかり……素敵…」
「……ほら、すぐ綺麗になったよ。だから泣かないでね。死にたいだなんて言わないで」
その言葉を聞いて、ガバッと上半身のみを起こし、ミニスカートを何度もパタパタとめくりだした瑠璃ちゃん。
「青い光がキラキラして……すてき……え!ほんとに乾いてる! おしっこが……匂いもしない! すごっ! 見て見て! ほらほら!」
……うん、いや、そうだよ。知ってるよ。乾かせたんだ。乾いたんだよ。
だからその乾いてないところを見せつけないで欲しい。
毎秒生産され続けている限り、それは汚れ認定できないんだ。僕の概念では認定してないんだよ。何がとは言わないけど。
そしてさっきから必死に押さえつけている僕の檻を叩き壊そうとしないで欲しい。
「瑠璃ちゃん、その、スカートの中…」
「あっ!ご、ごご、ごめん…ね……?」
もじもじと身体をくねらせる瑠璃ちゃん。照れの表現だと思うにしても相変わらずの身体の滑らかさだ。その滑らかさを伝えないで欲しい。どこにとは言わないが、伝導しないで欲しい。
「はふぁー……撫で撫でと…魔法……思い出…夢……青…光……。瑠璃は、勇者瑠璃は、もうメロメロ!もう、ダメッ!」
勇者瑠璃は突然、キスをぶちかましてきた!
ティッティラリー♪
勇者京介はひらりと躱す!
「んむっ!?」
ミス!
勇者京介は嬉しくなった!
いや違くて。
勇者京介は困惑した!
そうそう。
「ぷはっ勇者!?」
勇者瑠璃はさらにキスの雨を降らしてくる!
『ひゃくれつキッス!』
勇者京介の
いや違くて。
「京介くん、ちゅ、京介くん、ちゅ、京介くん、ちゅる、ちゅ、勇者は脳内、設定、だよ、んちゅ」
脳内? 設定? なんだ空想の類いか…僕も今したよ。戦って負けたよ。誰だよ、昔から勘が良いなんて言ってたの。僕か。
いや違う違う。
「ああ、なんだ。んむっ。ぷは、いや、ちょっ、ちょっと待って待って。んむっ、首藤さんには見つかっていいの?」
「んちゅ!? …ぶはっ、ああああ! どうしようどうしようどうしよう」
「…隠れてやり過ごしたい?」
どういうわけでベッドの下に居たのかはわからないけど、正直に言ってきた方が良い。そして僕も正直辛い。隠れて一人でヤり過ごしたい。トイレ借りようかな…いやそれは駄目だろう。
「……ううん、謝ってくる。ごめんなさいって」
「うん。そうした方が良いよ」
やっぱりトイレ借りようかな。そうした方が良いかな…ごめんなさいしたら許してくれないかな。
「…京介くんはまだ居てくれる?」
「うん、まだ盗撮の罰は決まってないし、魔法もね」
性欲の沈静化の魔法はいつも全体が俯瞰出来るアートリリィに任せていた。聖女も僕には教えてくれなかった。しかもこういう気分になっては不味いときに限ってかけてくれないあのサドッ気はなんだったんだろうか。
あ、辛くなってきた。どいてどいて!
「……わたしもなんだ。罰受けないといけないの。写真、もらってた。こんなの気持ち悪いよね…ごめん、ごめんなさい」
「…気持ち悪いなんて思わないよ。ただ、今度からは一緒に撮ろうよ。一人だけ写る写真ってなんだか寂しいし」
そうだよ。まあ好意は伝わったし、全然いいよ。しかも5年前の事だし、盗撮って言われても感情移入しにくいし。
でも写真に一人なんて自撮りでもない限り辛くないかな、僕が。
いじめじゃないかな、僕に。
あ、あ、もうやばい。
「う、うん、うん! わたし、すぐ謝ってくる! ちゅ! シュパッ、ターン、びゅーん!」
最後に小さなキスを頬にし、バッと立ち上がると、寝転んだままの僕の横でミニスカートのまま華麗にターンをきめ、張りのある綺麗で丸くて白いお尻を見せつけながら行ってしまった。
「あ、装備……」
勇者瑠璃はパンツを忘れた!
勇者京介に会心の一撃!
残りのHPは……もうわからないよ。
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