勇者 瑠璃の大冒険2
| 新津 瑠璃
「はっ、…はっ、…はーっ、ふー…」
過去最高だった。
過去最高の戦いだったよ。
過去最高の負け戦だったよ。
絹ちゃん。勇者瑠璃はまた勝てなかったよ…
それにしても絹ちゃんはいつもながらいい仕事するな…こんな編集するなんて。
上手いし。じょーずだし。絶妙だし。
最期の何事もなかったかのように立ち去るシーン………
もっかい見よ。
暴行後のベンチにたどり着く部分があったら流石にこんな事、こんなにも出来ない。その部分を丁寧に切り取りして、特にフワッと始まる出だし。
スタートは暴行の辛さを思い出さない程度の間を置いてから、甘めに立ち上がってからの魔法で始まり、最後はさっそうと立ち去り、柔らかくふわっと終わるまで。この間が、すごい。
ターンで表現出来ないかな…
「ん、魔法、つ、かいさまぁ、ぅくっ!はーっ、はーっ」
だめだ。まだまだいけちゃう。勇者瑠璃はまだまだ戦えます。戦えるんです。
まだ負けてない!
……どうしよう絹ちゃん家なのに…あ、でも絹ちゃん別に良いよ気にしないでって言ってた。言ってないけど。
わたしも耐久してみよっかな。
◆
「んぁ、ん!、ん?………んん? なにか…音が……え! …もう帰ってきた?」
玄関の鍵が開く音が聞こえた。
絹ちゃん早かったな。まだ三時になってないよ。あ、止まらない。どうしよう。
まあ絹ちゃんならいっか。良くないけど。
「どうぞ」
「お邪魔します!」
「お邪魔します」
「!!」
絹ちゃん以外の声がした!
勇者瑠璃は動揺した!
じゃない!
やばいやばいどうしよう!
とりあえず立ち上がりノートPCを閉じる! 開ける! いや違う、閉めるの!
玄関上がってきた! こんな時はターン! エン、ジャン…プはだめだめ、音響く。バレる。じゃない、そうじゃない。ターンしてる場合じゃない! そう! どっかに隠れないと、あれ、パンツない、ない! 足首に掛かってない! どこ、どこに…
「へー模型店なんですね」
「おじいちゃんの店」
扉の前だ! やばい! もうここしかっ!
入ってきたのは絹ちゃん、と誰? ともう一人、男? …なんの集まり…?…。
◆
結局、ベッドの下に潜り込んでやり過ごすことにした。
絹ちゃんが話だした内容を考えると、どうやら魔女を一匹確保したらしい。絹ちゃんの事だから何かをネタにして引っ張ってきたのかな?
そして! 何より何より京介くんが居るし…どゆこと?
なんだか…ドキドキしてきた。
パンツ履いてないせいかな…
いや、悪い魔法使いさまのせいだ。
しかも、こんなに喋るなんて滅多にない絹ちゃんのなんだか決意が見て取れる。見えないけど。
……ああ、そういうこと。つまりスパイの確保か。うんうん。はるはる……ストーカー系魔女だ。
それと一緒に三人でここにいる。
……つまりもうストーキングは京介くんにバレていると見ていい。円卓のみんなと共有しないと。
そしてここに年頃の男女三人………いやいや、ストーキングの件だよね?
それか魔法か……え? もしかして京介くんを脅した!? それは円卓への裏切り…行為だよ? 絹…ちゃん…?…。
いやいや、絹ちゃんはそんな事しないしない。
……しないのにここに、いる?
絹ちゃんの強気な態度からストーキングがバレた感じがしない。もっとしゅんとして、口数少なくなるはず…やっぱり脅し…いや、京介くんからも脅されてる感じはない…
ということは…ダブルストーカーが居る以上、ストーキングと魔法、どちらかがどちらかにバレた上に何らかの合意があってここにいる………??
いやいや、これじゃわかんないな。でもこっちが緊張するくらい絹ちゃんの覚悟は感じる。
感じる……
さっきまで石魔法で気持ち良くさせていた張本人がいる。
さっきまで熱戦を繰り広げていた悪い魔法使いさまがいる。
…………良き。
バレるかも。
バレないよ。
いやバレるかも。
バレないよ大丈夫。
バレるよ!
バレてもいいよ。大丈夫だよ。
京介くんいいよ、って言ってた。昔、いいよって言ってくれた。
だから、はー、京介くんの足が見える。はー、京介くんの足は悪い魔法使い、んっ、その、わる、ぃ魔、法使いにっ、はー、ん。倒され続けた、勇者、瑠璃………
ダメッ!今度は負けない!
私が堕とすんだから!堕とされちゃ…ダメ!
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