感謝祭5 - ゴール

「……」


「……」


「……」


「……」



どうしよう。由真、響子、そして未羽。この三人が、僕に対して三竦みみたいになってる。服さえ着てれば、僕を取り合う修羅場みたいだ。


三人とも顔と耳が真っ赤だった。三人の視線が一点に集中している。そう、何を隠そう、僕の息子だ。今はまだタオルに隠れている、シャイなあいつだ。


そういえば、異世界でも同じ表現だったな。つまり僕の息子の修羅場かな?あれ?じゃあ僕も参戦しないとおかしくない?


いや、違う違う。


そうじゃなくて。


居た堪れないよ。


居た堪れないんだよ。


幸い、未羽にそこからの知識はないのだろう。嬉しそうな表情で優しく包みこんでいるだけだった。少しホッとした。


未羽15歳。〜そのままの君がいい〜


…このタイトルもそこはかとなくダメな匂いがする。


義理とはいえ兄の息子を、そっ…と包み込んじゃダメだろう。


「っ!!」


だけど、ホッとしたのも束の間。由真と響子の胸洗い以外の右手左手が。タオルの下に潜り込んできた。


何してんの!?


二人は阿吽の呼吸で、二手に分かれていた。

そう、二手に分かれていたんだ。


まるで双子のようなコンビネーションだった。冒険者にも居たな。双子姉妹のアサシン。


夜も絶妙だった。


じゃなくて。


「ふーっ、ふーっ、ふーっ」


「はーっ、はーっ、はーっ」


「………あは」


「…」



……天井を見上げ、思う。


異世界から帰還して、疑ったのが平行世界だった。故郷に帰れたとき、果たしてそれは本当に元居た場所なのか。


現実だが、僕にとって現実じゃない世界。


例えば男女の貞操観の逆転だとか、男女比が変わってるだとか、男女の慣習の逆転だとか。


どこぞのエロゲみたいな展開の大元を考えてくれたのは、魔王討伐のパーティメンバーである神託の巫女。百合の姫巫女、アートリリィであった。


彼女は空想や妄想、物語や冒険譚をこよなく愛する読者家であり、思考実験が好きだった。


出身が極寒に閉ざされた辺境だから読書しかなかったんです。なんて照れながら言ってた。


そういえば賢者のところでも何か熱い議論をしていたと聞いたな。内容は教えてくれなかったけど。


あまりパーティメンバーと親交を温めてはならないと、僕を召喚した救世大教会の司祭は言った。


だから旅の途中は常に監視されていたが、僕の世界の話を聞きたいからと、監視を掻い潜るため、貸し借りする本の中に手紙を認め文通していた。


もし万が一帰れない時のために、文字は勉強していた。こちらの文字も知りたいというリリィに教えた。


ある日、詩を挟んでいた事があった。魔王を倒せたらあなたに送ります。と言って。


なんという意味かは教えてくれなかった。まああんな最期だったし、結局教える気がなかったんだろうな……


じゃなくて。


そんな事じゃぁなぃんだよ。


このままだとかつてのヴェスビオ山よろしく、京介山が噴火してしまう!


みんなをポンペイにしてしまう!


「あっ」


不意に喘いでしまった。


くそっ、そういえば、この身体はうら若き15歳の身体だった。このままだと辛くなってきた。


脳の奥がジンジンしてきた…


15歳の身体が恨めしい…僕、経験人数プロだけで3桁以上なのに。


なんと無様な…



ふー…。覚悟、決めるか。


三人とも瞳はイエス。

態度もイエス。

この一般では有り得ないようなシチュにもイエス。


感謝祭のゴールをこの三人が一体どこに設定してあるかで、やりすぎる可能性も、ある。


そう、違う祭になる可能性も、大。


あと義妹問題もついてくる。もっとも、こっちに帰ってきてから義妹には見えないんだけど。


……まあ、気持ち良いから何でもいっか。


嫌われたら嫌われたで仕方ない。

僕は勇者だ。行動あるのみ。


求めには常に答えてきた!


僕は何も言わず立ち上がる。三人の手が離れ、見上げてきた格好だった。みんな突然のことで、目を丸くしていた。本当に可愛いくて優しい子たちだ。


未羽とも末長く仲良くして欲しい。


……濡れたタオルが僕の某に引っ掛かり、まるで暖簾のように重さで垂れ下がり、由真と響子のお互いの顔は、見えなくなってしまった………


…狙ってなんかないよ。


……むしろ狙えないよ。


…………超恥ずかしぃ。


こんな事故はいやだよ。


随分マヌケな格好だよ。


こんなの遊びでもした事ないよ。



こほん。


みんな、そういう経験はないんだろう。

だからゴールの匂いもしない。まだよくわからないまま感謝と好意と羞恥と肉欲で突っ走ってる。



ならば刮目せよっ!


このゴールは僕が決めるっ!



僕は、華麗にタオルを取り去り、キメ顔でこう言った。


「みんな可愛くって辛いから、誰かお手伝いしてくれないかな?」


そうだ、ポンペイしよう。

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