感謝祭6 - 余韻

| 浅葱由真



あれから京介くんには先に上がってもらった。


水着を脱ぎ、身体を洗い、代わる代わる湯船に浸かる。浴室はミルクの香りと京介くんの匂いが充満していた。


本日開眼した匂い愛好初心者の私には猛毒だった。


掻き上げた前髪がセクシーで、朗らかな笑みでお礼してくれた。


まるであの小学校の頃の劇の舞台上の京介くんだった。


…裸だったけど。


つまり?

今日はあの舞台の上で裸の王子様が木の私の枝で、……はぅ!


おほん。

喜んでくれたみたいで嬉しい。それと。


「楽しかったねーぅえへへ」


「そうですね。ここまでするつもりは無かったんですけど、その、喜んでもらえましたね」


そう。楽しかったのだ。好きな人の善がる声は何より気持ちが楽しくなる。もっと尽くしたくなる。


流石にここまでするつもりは…実はちょっとあった。水着持参を聞いた時には未羽を待たせて、すぐさま整えた。


どことは言わないけど。


しかもまさかわたしの駄肉が役に立つ日が来るとは!


綺麗って言ってくれたしぃ…


つまり?

今日はあの小学校の体育館の壇上で裸の王子様が木の水着で綺麗な胸の穴を………はぅ!


こほん。

いつも木の役ばかりするからと二人合わせて『林組』と呼ばれていた私と響子を一緒に受け入れてくれるなんて。


それと。



「未羽とも仲良く出来てたしね。ね、未羽?」


「未羽さん?」


「…お兄ちゃん、しゅき」



まだ未羽は腰砕けのままだった。一人だけまだ水着だし。でも裸よりえっちぃかも。


でも、今日で一歩前に出れた。あんなに不安だった未羽が、溶けていた。こんがらがった心は解けたのかな。仲良くなれてたし。


裸の付き合い、って有効なんだなー



「あーでも最後のあれは…もはや…絶対オッケーだよ」


「…すごい、腰使いでしたね…」


「…お兄ぃ…しゅき」



そうだ。あんなに優しそうな笑顔なのに、下のは、その、もう魔剣だったし。その魔剣を使った動きは滑らか曲線を描いてたし。


この闇黒王子様め。


素敵。


こうかな?



「なんかこんな風に、あ、難しい。なんかうねうねしてムカデみたいに関節多かったよね。どうだったの未羽?」


「…鬼ぃ、しゅごかった」


「まだ戻ってきませんね…」



それくらいすごいのかー。いいな。というか、響子のアレ、何だったの?



「ていうか、響子もすごかったよ。何アレ」


「急に衝動に駆られまして…つい、ぱくっと…。京介さんが受け入れてくれて、ホッとしました」



知ってはいたけど、所詮は創作物の中だけだと思ってた。漫画とかなんか単純な線だし、ライトだったし。


現実はもっと、なんか生々しくって、いやらしくって、息を止めて見てしまった。響子の目も潤んでたし。


あれが伝説のごっく……はぅっ!



「…明日は京介くん、何も無いんだっけ」


「ええ、ただ午後から少し出るかもとは言ってましたね」



そういえば本当に何も無いくらい無事だった。動画ではあんなに殴られていたのに。まるで嘘だったかのような振る舞いだった。



「殴られてたのに、無理させてないかな」


「そういえば、私も忘れていました。本当に何も無さそうで、その、自分の気持ちを優先させてしまいました」


「でもさ、身体が痛かったらあんな動きできないよね」


「そう、ですよね。何度か上目で表情を見ていましたが、無理なんて全然していなかったです」


「私もそう思う。昨日もなんともなかったし」


「けど、ああいうのって後からくるって言わない?大丈夫かな?」


「もう一晩様子を見たほうが良いかも知れませんね」


「…心配だから京介の部屋に泊まろう」



夜の方針が決まった瞬間だった。





| 藤堂京介



今日は疲れたな。


ぼー、とベッドの上で天井を見上げていた。


あれから僕は自室に戻っていた。我ながら大胆なことをしてしまったと、冷静になってから頭を抱えていた。


俗に言う賢者タイムだった。


斥候兼囮役の由真が挑発し、掛かったところに待ち伏せていた響子の魔法攻撃、最後に未羽の会心の一撃でトドメ。


といったところか…たはは、討伐されちゃったよ。


いや、そうじゃなくて。


賢者か…元気かな。


アレフガルドの最南端に叡智の塔と呼ばれる、賢者の棲家があった。棲家と言っても、街だった。中心にその塔があり、ほぼ正円を描く城壁が二重に走り、堅牢な城塞都市ではあったが正式な名前は無く、いつ頃からか、ミルカンデと呼ばれている。とアートリリィに聞いた。


領主はおらず、中心の賢者も滅多に現れない。が、混乱はなく、治安も良かった。もしかしたら異世界で一番現代に近かったかもしれない。


自由都市の様相を示し、南方の大陸とも貿易し、栄えていた。


魔族領は瘴気が蔓延しているため、対策として賢者に対策アイテムを用意してもらう必要があった。そのために訪れたのだった。


いや、そうじゃなくて。


そんな現実逃避をしていたら、コンコンと控えめに扉を叩く音がした。



「京介くん、今いーい?」


「由真、上がったの?」

 

「うん。その、京介くん大丈夫だった?昨日、その暴行受けてたでしょ?なのに、私たち、その、強引だったかなーって。京介くんのこと、全然考えてなかったかなーって」


「身体は大丈夫だよ。あとみんなの気持ち、すごく嬉しかったよ。でも流石に眠くなってきたから、もう寝るよ」


「そ、そっか。あ!じ、じゃあ、そう、朝だ。朝!起してあげるね、おやすみ!」


「うん?えっ!あっ」



返事も聞かず行ってしまった。


ふー…。


……それはまずい。命を刈り取るカウンターが発動してしまう。


朝起きてJK三人が部屋で血を流してノックアウトされていたら、衝動的にお巡りさんに駆け込んでしまう。


どうしよう。

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