禁断の恋1

| 藤堂 未羽



学校にはいつもより早く着いてしまった。


京介は1-A、私は1-C。高校に入学して以来、あまり京介との話題は出さないようにしていた。同中も何人か居るけど、中学時代も学校では接点は作らないようにしていた。


そのため、兄妹だと言うのは友達以外、誰にも知られていない。


愛香を初めて見た時、なんとなくこんな結果になる気がしていた。あいつは兎角、兄に対する気持ちを暴走させやすかった。


私はわざわざ京介を連れ出して、愛香に目撃させるだけで良かった。家の中まではわからないし、妄想だけして勝手に走るだろうとあたりをつけていた。


案の定、嫉妬を拗らせた。


それが、この結果。

正に最上。


特に今日の愛香の唖然とした顔は、一生忘れない。


口角が上がるのを必死に抑えながら友人を待つ。待つ間にトイレで一度果てようかな、なんて考えていたら早速耳に入ってきた。



「ねー昨日の動画」


「あーひどいよな」


「あれ、絶対成瀬さんでしょ?あんな可愛い顔してする事がえぐぃって」


「俺結構好きだったんだけど」


「ひょぇー良かったね、告らなくて」


「学校一の美少女、っつってもな」


「それよりあの男子」


「あー誰だっけ。1-Aのやつらしいけど」


「可哀想だったね。リンチじゃん」


「やったのは、多分写ってなかったけど葛川の手下じゃね」


「えー葛川くん、そんな事しないでしょ」



学校では動画の件で持ちきりになった。グループチャットはすぐに閉じていたから、インパクトだけ与えて後は噂話で縛るやり方なんだろう。


葛川君。ご苦労様。ありがとう。


絶対許さないけど。


なんて感謝と断罪していると、友達が来た。



「おはよ。未羽みはね


「おはよう。由真ゆま



浅葱由真あさぎ ゆま

中学の頃に出来た友人で、今は同じ1-Cだ。

黒おかっぱのボブショートで朗らかに笑う笑顔が魅力的だった。メガネを外すと美少女なのは誰よりも知っている。スタイルは小柄だが、胸が私よりおっきい。なんとなく裸エプロンが似合いそう。


中学の頃は長いもさっとした黒髪を伸ばして陰気な印象だったが、家に呼んだ時。


京介にショート可愛いよ、恥じらいはメガネでカバーして徐々にならしたらとアドバイスをもらい、実践した結果、このクラスでもメガネ取ったら美少女ランキング一位だ。


それからは京介に気づいてもらえるように度々メガネを替えているのを私は知っている。



「京介くん大丈夫だった!?」


「あの動画見た?」


「うん…酷いよ」


「そうね。本当に。でも青アザもなかったし、ケロッとしてたわ」



本当に謎だった。動画で見た感じでは制服も汚れているはずだった。しかも帰ってきた時は何かよそよそしかったし。



「なんだ…ホッとしたよー」


「ごめんね、返せなくて」


「ううん、大変なんだろうなって思ってたから。でも気が気じゃなかったよ」


「ん、ごめん。まあ大変といえば…大変だった…」



昨日は結局三回も致してしまって大変だった。あんな目に合えば、抑えられないよ。


果てる時は決まって京介の文房具から拝借した三角定規だった。もっともっとと燃える心を抑えるのに大変だった。



「あれ?目の下すごいよ」


「あ、わかる?ファンデで隠したつもりだったけど」


「うーん、これだけ近づいて気づくってレベルだから大丈夫じゃないかな」



寝不足なのは仕方ない。京介の部屋に突入するか迷ったのだ。頭のやられた北極グマみたいにウロウロしてしまった。


結局タイミングは今じゃないと言い聞かせて、気持ちを納得させた。



「おはようございます」


「あ、響子おはよー」


「おはよう、響子」



狭川響子さがわ きょうこ

こちらも中学の時に出来た友人。黒髪ストレートを肩で切り揃え、ニキビがまだ出るらしく、カチューシャで前髪を上げていた。


少しタレ目がちな目元は柔らかい印象で、女子にしては少し高めの身長だけど、出るところは出ているスタイルの良い美少女だった。


中学の頃はニキビを見られるのがいやで前髪を伸ばし、背も丸め、太縁のメガネをして顔を隠していた。


この子も何度もうちに来た事があった。その時京介から親身に肌と髪型と姿勢のアドバイスを受け、実践し続けたら中学3年の時から美少女と呼ばれ出し、今では1-Cでも1番人気だった。



「京介さん、大丈夫でしたか!?」


「うん、由真にも言ったけどケロッとしてたよ」


「そうですか…でも、愛香さんは許せません、あんなにも京介さんの献身を受けながら恩を仇で返すだなんて」


「まあ、愛香もそんなつもりなくて断れなかったのかも」


「未羽さんは本当に優しいですね」

「未羽は優しすぎだよ」



下心満載ですけども。

ごめんね、二人とも。



「でも今日からはもう無理だよ。今まで我慢してきたけど、流石にやり過ぎた」


「未羽さん…」

「未羽…」


「身体は何とも無いけど、心はもしかしたら傷付いてどうしようもないかもしれないし…」



どうしようもないのは私ですけども。


愛香一人に私だけじゃ勝てない。それは理解している。ましてや兄妹の壁は京介にはぶ厚い気がする。


それに、もし迫って拒否されたら家出してしまう。


だけどこの三人集めれば籠絡出来るはず。そして義妹の壁を一度でも越えれば。一線を少しでも越えれば。


あとは一つ屋根の下なのは私だけ。


アドバンテージが私にはある。待ってなさい京介。



「ねぇ、二人とも。京介の励まし、手伝ってくれない?」

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