索敵
「……」
「……」
カチャカチャとカトラリーの音のみが響く。未羽は、僕の用意した朝食の感想も言わず、黙々と食べていた。
トーストとスクランブルエッグ。サラダに牛乳。シンプルだが美味しい。特にスクランブルエッグに入れた胡椒とマヨネーズが堪らない。だけど、昨日のハイテンションは鳴りを潜め、静かに味わっていた。
というのも、気不味いからだった。
昨日の夜はあれから義妹とは顔を合わせていなかった。
魔王との最終決戦前の最期の野営。あの時すらグースカ寝ていた僕が、昨日はあんまり眠れなかった。そういえばあの時なんであんなに眠かったんだろうか。まあいい。
昨日のぶっかけ事件のあと、少ししてから風呂を出た僕は風呂上がりに冷えた牛乳を飲み、部屋に戻った。
味は薄いが美味かった。そうそう、これくらいが良いんだよ。僕はそんな現代社会の恵みに満たされつつベッドに横になった。
魔王戦後の夜だからだろうか。一仕事終えたからだろうか。すぐにでも眠気が来たのだけど、義妹が来た。
正確には僕の部屋の扉の前だけど。
索敵の魔法は使っていないが、流石に近くの気配くらいはわかる。風呂の時もそうだった。わかったらどうなのかというと、義妹が俺の部屋の前と自分の部屋を行ったり来たりしていたのだ。
扉の前に立つとピタッと停まる。数分してからまた部屋に帰る、フリをしてまた来る。停まる、帰る。みたいにフェイントを折り混ぜながら往復するのだ。
殺気は感じなかったから多分怒ってはいないと思うけど、気になって気になって仕方なかった。
気になることはすぐに解決がモットーの異世界帰りの僕だけど、流石にぶっかけられた義妹がウロウロと部屋の前を行ったり来たりしているクエストは受けた事がない。
ギルドにそんな依頼もない。
ましてや帰還初日なのだ。僕にとっての過去の僕は、いったいどういう態度をとるだろうかとなんとか思い出そうとするものの、なんか違うという気持ちが拭えず、トイレ行く振りしながらエンカウントしてみようかと思えど、やっぱり何を言えば良いかわからない。
そもそもぶっかけなんて異世界を含めて、生まれて初めてなのだ。
異世界は中が基本だからなあ…ぶっかけなんてしようものなら大事な子種を!なんて罵倒されてしまう。中以外に価値は無いのだ。
避妊の魔法を駆使していたし。
「今日は一緒に学校行くから」
「…」
そんな事を考えていたら、ぶっかけからの第一声がこれだった…よし。これで勝つる!うやむやコースだ。わかったよ、義妹、いや未羽よ!
「何?嫌なの?」
「…嫌じゃないよ」
一緒に行くとは行っていないけどナー。という表情が出ていたのだろうか。
正直なところゆっくりと日常のペースに戻していきたいのだ。クールダウンってやつ?
何せ昨日魔王戦だよ?一晩寝たとしても多分まだ気持ちが昂っているはずだよ?
だいたいの戦闘ピークを魔王戦に合わせてたから、まだ落ち着いていないよ。心が。
反射で通り魔になりそうで怖い。電車とか乗りたくない。出来ればもう一日休みたい。
というか、そもそも一人になりたいなぁって。五年振りの故郷を探訪したいなぁって。具体的にはコンビニで買い食いしたいなぁって。味違いの食べ比べとかしたいなぁって。サボってスーパー銭湯とか行きたいなぁって。
ピンポーン
そんな事を考えていたらインターフォンが来客を伝えてきた。反射で索敵の魔法を使う。
「朝から何なのよ」
「…あ」
「何か知ってるの?」
「…いや」
眉を顰めながら、僕が動かない事を見ると未羽がインターフォンを取る。すぐにガチャ切りしやがった。
相手は愛香だし、当然か。なんかこいつら仲悪かったんだよな。
「やっぱりアンタは後から来て」
「わかった」
「ギリギリに出なさいよ」
「…わかった」
バタバタと用意をして未羽は出て行った。
僕は目を瞑り思案する。
今日は金曜日。明日は休みだったはず。
「よし」
やっぱり今日は休もう。
五年振りの幼馴染に会いたい気持ちはあれど、索敵の魔法も反射で使うし、やっぱり怖いしな。
金土日のクールダウンだ。燃え尽き症候群で病欠だ。すぐさま学校に連絡を入れ、制服を脱ぎ、ジャージに着替え、ベッドにダイブした。
おやみー
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