爆撃

| 藤堂 未羽




家の外には愛香がいた。


「おはよう」


「…おはよう」


相変わらず憎たらしくなるほど可愛い顔だ。


「あの、京ちゃんは?」


「あんな事しておいて何を言ってるの?」


あんな事をしておいて、こいつは何を言ってるんだ。昨日の夜、グルチャに京介が殴られている動画が回ってきた。明らかにリンチだった。


「あんな事?」


「惚けないで」


すぐに切り返してきた。もしかしたら動画はまだ知らないのだろうか。


「その、謝りたくて」


「要らないわ。私が伝えるから」


「未羽ちゃんが?」


「そうよ。昨日の動画で確信したわ」


「動画?」


「白々しい。これよ」


昨日の夜、京介がお風呂に入っている時に回ってきた。私はすぐにダウンロードしていた。


「何、これ…」


「笑いながらリンチだなんて最低」


動画は上手く編集されていて、あたかも殴り合いを笑って見ているかのようだった。


「笑ってなんかいないっ!そんな事してない!」

「まあ、それはそうでしょ」


「え?」

「あなたがそんな事をするなんて私は思わない。大方、殴る瞬間と笑う瞬間を編集されたんでしょ」

「未羽ちゃん…」


「勘違いしないで。ここで大事なのは、あなたと私以外にはこれが正しい真実ってこと」

「え…?」


これが大事なんだ。これがこいつと京介の縁切りに使えるんだ。こんなチャンス逃すわけにはいかない。


「京介にとっても、ね」

「…あ」


気づいたでしょ。

気づいても、もう遅いんだから。


「昨日確認したけど、この動画、結構回ってる。少なくともこれが学校では真実になってるはず」

「…わたし、知らない」


「いくらあなたが違うって否定しても、あなたが近づけば周りが止めるわ」

「…あ」


そして致命の一撃を。


「あと、これ」

「…なっ」


昨日は驚きのあまり一言も出なかった。でもすぐに思いついた。こいつへの切り札として使えると。

注意深く服を脱ぎ、服に掛かった分を丁寧に集め、少しだけ果ててから、バストアップの自撮りをしたのだ。強い雄の匂いにやられ、果てた後だから若干事後の空気も出ていたと思う。


そんな写真を見せつける。


「昨日、お願いして、もらったの。量とか匂いとかいろいろすごかったわ」


「……嘘」


そう、こいつはまだ信じない。それほどまでに兄の愛を信じてるのだ。そんなものはもうどこにも無いのに。今日を持って終わるのに。


だから、最後の切り札を切る。


「そう言うと思って。はいこれ。拭き取ったハンカチ」


「嘘だ!」


「まあ、信じないでしょうから。んー。いらない?」


「嘘だ…」



目の前で吸って見せてあげる。

んー。ヤバ。


これはこいつも知ってるように、京介が昔から使っていたハンカチだ。保管していた封を開け、拭っておいたのだ。あげたくないけど、信じさせるためなら仕方ない。


匂いが少し鼻を掠ったのだろう。ハンカチに視線が釘付けだ。こいつなら匂いで本物だと見抜くだろう。


気持ち悪い。



「愛香にあげるわ。私はまたフレッシュなの貰えばいいし。もう彼女でもない愛香には無理だろうし」


「…」


ハンカチを渡し、歩き出す。

横切る際に、そっと呟く事も忘れずに。


「情け無い慰めにでも使ってよ。あ、京介はもう学校行ったよ。愛香も急ぎなよ」


「……ぁ」


出来るだけ二人を会わせたくないがためにもう一度、嘘をつく。


これで完璧だ。膝から崩れ落ちた姿を見て、意気揚々と学校へ向かった。

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