誤射
久しぶりの風呂にはしゃいでしまっていて
忘れていたが、さっき脱衣所で服を脱いだとき、なぜか義妹が覗いていたのだった。
なにゆえ?
困惑はしたが、まあ今日は遅かったし、心配しているのだろう。でも安心して欲しい。全て回復魔法によって青あざなどはなくなっている。
どうだい綺麗だろう。
まるで見せつけるかのように下着姿でゆっくり一周したのだった。
◆
「ふー。生き返るー」
湯船に浸かり、そんな事をつぶやいた。
少し15歳らしくないのは許して欲しい。こちとら約1か月ぶりの風呂なんだ。
娯楽の無いあっちではメシと風呂と娼館しか癒しはなかった。
する事が無いからメシの調理と娼婦の相手だけレベルが上がってしまった。そして娼館はだいたい風呂付きだった。だから自然と通いだした。
純粋な風呂はパーティメンバー次第だったから差配出来なかったしね。むしろ風呂が無かったから魔王討伐まで5年もかかった、まである。言い過ぎか。
でも一人きりの風呂なんて、一体いつぶりだろうか。この小さな空間に、一人。
…まんざらでもない。
「もう死んでも良い〜」
本当に死力を尽くした魔王戦だった。閉塞感のある浴室だからか、久方ぶりの湯気に絆されたのか、ぼんやりと最期の戦いを思い出していた。
体感でまだ数時間前だ。本当に死ぬかと思ったなあ。いや、死んだんだったか。いや、殺されたんだったか。いや、生き返ったのか。
「あ」
いつも戦いの後は冒険者や戦士たちと共に夜の街に繰り出し、滾りを沈めていたのだった。
そうしないとパーティメンバーに手を出してしまいそうで怖かったのだ。あいつら戦いのあとはだいたい薄着だったし。
で、だ。
「どうしよう」
僕の某がおさまらねぇ。
今更自分でするのもなあ。
かと言って放置するのも…
どうも勝手に収まる気がしないな…
仕方ない。一発いくか。自分だともう出来ないくらいにスレていた僕だけど、もしかしたら体の機能は15歳のままだから、敏感かも知れないし自分で出来……はぅ!
「何だこれ…」
今日一番の驚愕かも知れない。醤油よりも胡椒よりも魔王戦よりもびっくりかも。
『僕の息子が敏感過ぎて超辛い』
なんかこれ、ラノベタイトル感あるな。ないか。
いや、手が止まらなくなる。
これ、ネタすら要らないかもしれない。
危険を感じ、一旦浴槽から出る。
あんなにも娼館を梯子していた、この僕が…
最期の方には複数人でもどんとこいだった、この僕が…。
何この身体。恐るべしレベルアップの恩恵。いや経験か。
「ぅあ、ぅあああ、あぁ!」
あ、声でちゃう。あ、ヤバっ、これ、すごぉーぃ!
「京介っ!大丈夫っ!?」
「ぁえ!」
いきなり義妹が風呂に飛び込んできた!
反射で身体全体をそっちに向けてしまった!
手は…離れない!
いや、反射でそこは離せよ!反射仕事しろよ!
ダメだ!離せない!
すぐさま根本を抑えた!
が、15歳のリビドーにはどうやら無駄だった!
勇者は負けた…
◆
収まった瞬間、身体を丸くし余韻で震え俯き、息を吐く。
「はー、はー、はー」
すげぇな15歳の身体…何か魂まで出そうなくらいだった…
そりゃ目が血走ってる男子が多いのがわかるよ……。
というかそれより何よりどうしよう。
なんて言えば良いんだろう。
僕はなんて言えば良いんだろう。
というか僕、悪くないよね?兄としては確実に悪いと思うけど…五年前の僕は何て言う?
薄ら目をあけると、義妹の足が見える。義妹はまだ風呂場から出ていなかった。
いや出なよ。
恐る恐る視線を上に上げる。
義妹はそれはもう酷い有様だった。
ある村からの依頼で、象くらいのサイズのナマコみたいな魔物を討伐したことがあった。
吐き出すゼリー状の白い粘液は微弱の魔力を狂わす効果があり、掛かると魔法の威力や、身体強化のバフが落ちるため、避けながら戦った。
ナマコは討伐の最中、斬りつけると狂ったようにその粘液を吐き出していたから全てを避けることは出来ず、滑っとした体表には刃や魔法は通りにくく、長引けば魔法は減衰し、そんなに強くはないのに、ただただ厄介な魔物だった。
討伐後、最終的には姫巫女達は粘液に塗れて、そう、ちょうど今の義妹みたいに一点を見据えて放心している表情をしていて……
「……なにこれ」
「ナニって…」
いや、高校生だしわかるでしょ。わかってるのに言わす気か。上級者か。
……そういえば心配して入ってきてたな。
「…とりあえず出てよ。大丈夫だから」
「!!」
突き放すように伝えたらガチャりと閉じてバタバタと出て行った。
「ふー…」
額に手の甲を乗せ、汗を拭う。
いや、ふーじゃない。
何もクエストは達成していない。
そういえば初めて見つかったのかもしれないな。召喚前はあまりした事無かった。と思う。
父さんが亡くなってからは常に誰かがそばに居たからか、ひとりの時間が少なく、それどころではなかった気がする。
「あーどうしよう」
義妹にバレるとか嫌すぎるんだけど。
僕は浴室の天井を見上げ、ぽつりと呟いた。
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