義妹

酷く記憶が曖昧になっていた家への帰り道を何とか思い出しながら歩く。


途中、コンビニに立ち寄り、小学生の頃食べていた安いチョコを数個買った。歩きながら食べた。涙が出た。


すれ違う人に驚かれながらも、止められなかった。一時期あんなに嫌いになっていたチョコレートがこんなに美味いなんて…


懐かしい帰り道。まだふわふわとした気分で、まるで夢を見てるみたいだった。そう夢見心地だった。歩くたびに霞みがかった記憶の蓋がどんどん開いていく。


自販機、郵便局、交通ミラー、横断歩道、信号機、小さな頃良く遊んだ公園。神社。小学校。中学校。川。橋。友達の家、そして。我が家。ああ、帰ってきた。


その家の前にぽつんと義妹が立っていた。



「おっそい!」


「……ぅん」



僕にとっては5年振りだ。こいつにとっては朝振りか。いつもより遅いことはたしかに遅い、か。多分。


なんと答えて良いのか分からず、適当に相槌してみた。懐かしいな。


こいつの名前は藤堂未羽とうどう みはね。同い年の義妹だ。中学1年の時、母さんの再婚相手が連れてきた。


濡羽色の髪はストレートで長く、今はポニーテールにまとめてある。やや吊り目がちの双眸はぱっちりしていて、今は不安を写している。鼻筋はスッと結ばれ、形の良い唇は潤いで溢れ、開いた。



「…あんた、何かあった?」


「…何も」



うん? いや、何もない。今日起きたはずの暴行は、じゃれ合いですらない。だから何も無いとしか言いようがない。


何故か怪訝な態度を取ってくるな。いつもなら確か、罵倒するだけしてさっさと部屋に戻ってなかったっけ。昔はお兄ぃお兄ぃ言ってた時期もあったのにな。


ああ、そうか。僕が目を合わせて話すからか。この頃は人の視線がなんかキツかったんだっけ。


異世界でそんな事していたらすぐ死んでしまう。だから相対した相手の目からは離せなかった。何せ色々な情報が瞳には載っているからな。目を離した隙にブスリ、なんてゴロゴロ転がってるくらいの負けパターンだった。


目に魔力を送り、きちんと義妹の目を見ると、心配、安堵、不安、発情……発情?!


…なんかいろいろ混ざってる色してるな。こんな思いしてたんだな。


内容は複雑だけど。


もっと嫌悪100とか思ってた。もっともこの悟りの魔法も100%当たるわけじゃないけど…異世界じゃないから、まあ当たるか。



「っ、もういいわ。いつまで待たす気よ。早くご飯作ってよ」


「…っああ、わかったよ」



そうか。高校生になってから僕が作っていたか。両親は海外へ赴任していたっけ。僕らが高校に進級する時に母さんは義父さんについていったのだったか。だからこいつと二人暮らし。


こいつ、家に一人は寂しかったのか。当時は自分の事で必死だったからか全然分からなかったな。


瞳の色から察するに、なんだ、ただのツンデレだったのか。



「ほら、行くよ」


「ああ」



かと言ってもまあ、今はそれもどうでも良いけど。


ただいま。

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