晩餐

「美味しい…」


「……」


そりゃ、化学調味料だからな。

こんなの使えば誰だって美味く作れる。異世界にはそんな万能で便利なものなんてなかった。


というかこの頃は、感想なんか言ってたっけ?


家にたどり着いた僕は、壁や手摺についたちょっとしたキズや、汚れに懐かしさを感じながら自室へ入った。記憶にある召喚当時のままの部屋だった。


しんみりとした哀愁を感じながら、部屋着に着替えた。何もかも懐かしかった。


義妹の要望を満たすために、すぐさまダイニングに向かい調理した。圧倒的に、楽だ。


作ったのは適当に具材を炒め、米を入れて焼き上げただけのただの焼き飯だ。


後は適当に味噌汁。ただ、どちらも火の入りだけは魔法で見極めていた。


異世界では素材の旨味を壊れないように見極めないと暗い晩餐になった。


何せ調味料が合わないのだ。


街から街は結構離れているのに、保存が効く調味料がだいたい変な味で、だいたいお腹にストライクだった。


なんか全部濃いし、お腹壊すんだよ。いつもお腹壊す勇者とか誰得なんだよ。


幸い、街では濃いものさえ避ければ大丈夫だった。


だから旅の道中は悩んだ。死活問題だった。パーティメンバーが全員女子なのも問題だった。


そこで悩んだ末に考え出したのが、素材を個別に魔法で見極め、旨味を充分引き出し、掛け合わせた料理法だった。


まあ、和食みたいな感じかな。知らんけど。それだけが僕の得意料理だった。


名付けて魔法調理。そのままだな。姫巫女たちにも好評だった。


だから野菜を炒める時はいつも自然と魔法を使っていた。さっきも自然に使ってしまったけど…そもそもこっちって魔力回復するのかな。まあするか。

 

焼き飯の味付けは未羽には化学調味料。僕は熱望していた醤油と塩、胡椒だった。今、化学調味料食べたら多分舌が痺れてしまう。


あ、いや大丈夫なのか?感覚がまだあっちとこっちとで狂うな。


異世界には醤油も胡椒もなかった。変な調味料や香辛料は無数にあったけど、だいたいお腹を壊していた。


それがトラウマになり、それからはだいたい旨味+塩味だった。


…って、醤油美味ーい! 胡椒すげぇー!



「…なんか腕上がってるんだけど…何かした?」


「…誰が作っても同じじゃないかな?」



「そんなわけないじゃない」


「そう?」



いや化学調味料の味からは誰も逃れられない。それくらい旨味が強烈だ。だからいくら野菜を見極めたとしても、だいたい同じような味になるはずだ。


それに褒められても何も思わない。それくらい調理は俺の一部になっていた。夜営では誰にも作らせなかった。誰にも僕のお腹は壊させなかった。


義妹には適当な相槌を打つ。5年振りの時差を感じさせないようにするには口数を少なくするくらいしか思いつかなかった。今日は暴行されたてだし、落ち込んでる体で誤魔化そう。


ぼんやりとこの時期の自分の立ち位置というか、どんな交友関係だったか思い出す。結構覚えてないもんだな。スマホをスクロールしながら過去を掘り起こす。



「ねぇ、それやめて」


「…何?」


「スマホ」


「…」



義妹に言われて無言で閉じる。あれ? いつもこいつがいじってたような…。


それで僕が注意して、逆ギレがいつものパターンだったような記憶がある。



「だいたいあんたが注意してたんじゃない」


「…」



あってた。でも反論も面倒だ。早く食べてお風呂にしよう。


そうだ、風呂だ。風呂があるんだ。急にワクワクしてきた。



「何で叱られて嬉しそうなのよ」


「…」



良く見てるなこいつ。


いや、風呂にワクワクしてるだけだから。最期に入ったのは人族の境界ギリギリだったか。


野趣に溢れた温泉だったな。


魔族領では魔法と布で拭くだけだったからな…ふっ。随分と遠くに来てしまった…



「ご馳走様」


「何か食べるの早いし」



そういや、よく噛んで食べてたか。あっちじゃ早く食べないと下手したら死ぬからな。


流石に王侯貴族の前ではちゃんとしていた。王侯貴族の晩餐に焼き飯は出ない。習慣とは恐ろしい。


早く入ろ。



「お風呂、先でも良い?」


「良いわけないじゃない。今日は私でしょ」


「…わかった」



くそっ。風呂は当番制だったか。まあいい。風呂は逃げない。勇者からは逃げられない。勇者関係ないか。もう勇者じゃないか。


義妹が出るまで、自分の部屋で思い出を思い出すとするか。


というか、明日から学校だなんて、異世界過ぎて死にそう。


何にも覚えてないよ。

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