第17話 この夏、君とどこまでも
澤留は、竹千代と待ち合わせたバス待合室の近くに隠れていた。
失敗は許されない。
男だとバレてしまえば、二度と男の幼なじみとしての関係から変われない。
男の自分が彼の気を引くには最初が肝心。何年も根回しと準備をすすめての、一生で一度の短期決戦で、勝利をうばいとるしかない。
さがることはない。
負けることも許されない。
なんとでも、なにをしてでも、澤留は竹千代と恋仲になりたかった。
失敗したときのことをつい考えてしまい、身体がふるえる。
だけど澤留は竹千代への想いを胸に、一歩足を踏みだした。
そうして小悪魔な幼なじみは、彼のどストライクであろう黒髪ワンピース姿で、バス待合室に向かった。
☆
夏も終盤、竹千代が帰る日がやってくる。
夏の日差しの下、周りが田んぼだらけのバス停留所で、竹千代が寂れたベンチに腰をかけて暑さに茹っていると、隣にいるワンピース姿の澤留が悔しそうにしていた。
「う~~~、くーやーしーいー!」
澤留は足をジタバタさせている。
竹千代はぐたーとベンチに背もたれながら聞いた。
「なにが悔しんだよ。この夏の勝負は、澤留の完勝じゃん」
「たけちーが僕に負けるのはわかりきっていたことだもん」
「よく言うよ……。勝ったとわかった途端、
竹千代の家族にも、澤留との関係は知れわたっていた。ちなみにBL趣味の竹千代の姉は、それはもう泣いて祝福してくれた。
ぐったりしている竹千代に、澤留はぷーっと頬をふくらます。
「そっちじゃないよ」
「? どっちだよ」
「悔しいのは昨晩のことだよ!」
竹千代はげふんげふんとむせた。
「昨晩は、絶対に僕が勝つと思ったのに……たけちーの体力のほうがずっとずっと上で、先にへばちゃったのが悔しいの!」
「さ、さわる、声のボリュームをさげて……」
「僕が口で奉仕していた分、有利だったはずなのに……たけちーがびっくりするぐらい元気になるんだもん!」
「わーっ! わーっ!」
昼間にする話じゃないと、竹千代は大声でかき消した。
いや夜でも外でする話じゃないなと、卑猥な幼なじみに抗議の視線をおくるが、澤留はガチで不満そうにしていた。
「……仕方ないだろう」
「仕方なくはないです。朝までたけちーと起きていたかったのに」
「しゃーないって。この夏、俺がどんだけ我慢していたと思ってるんだ? さ、澤留が魅力的に成長しすぎなんだって、実際俺めちゃくちゃへばってるだろう……」
そう竹千代が正直に打ちあけると、澤留はうすく笑いながら唇を重ねてきた。
舌をからませる竹千代を喜ばせるキスに、下半身がぴくりと反応してしまう。
澤留は唇をはなし、煽るように下半身を見つめた。
「あはっ……たけちー、もう元気になったの?」
「……さっきまでへばっていたんだけどなあ」
「たけちーはこの夏ずっと我慢していたよーだけどさ。僕が何年我慢していたと思っているの? 先にバテたら悔しいに決まってるよ」
澤留は、竹千代を枯れはてさせるまで納得しないと目で訴えてくる。
「ねーぇ、僕の家に、もうひと晩泊まる?」
澤留の邪悪な微笑みには、色香がまざるようになっていた。
この夏で、小悪魔は大悪魔に進化したらしい。
どこに隠れひそんでいるのか、じじじと蝉の音が聞こえる。
まだまだ青い、カラリとした夏の空を見上げる。夏の暑さに負けないぐらい火照ってしまった身体になんとも若さを感じた。
竹千代の返答は決まっていた。
男だと思っていた幼馴染に再会したら女でした、って『男の娘』じゃねーか⁉ ~この夏、綺麗になった好感度MAXな幼馴染に、友情か愛情か、選択を迫られる俺~ 今慈ムジナ@『ただの門番』発売中! @imajiimaji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます