第15話 夏の終わりに向けて

 竹千代たけちよはそれからも澤留さわると一緒に夏を満喫する。

 花婆はなばあと三人で畑仕事を手伝ったり、椿つばきたちと魚釣りしたり山で遊んだり、それから夏休みの課題を全員でがんばったりした。


 帰る日が近づくにつれて、澤留のメッセージが自然と増えた。

 澤留は女装を隠す必要がなくなったからか、自撮りをよく送ってきた。きわどいものだったり可愛らしいものだったりと様々だが、どれも一生懸命に魅力を伝えようとしてくるものばかりだった。


 竹千代はタイミングを見計らっていた。

 今までさんざんにからかわれてきた分、澤留の心に一生のこるタイミングを探していた。


 そうして夏も後半戦。

 竹千代がここだと決めていた夏祭りの日がやってくる。


 竹千代は、居間で浴衣に着替えていた。

 帯の結び方がわからず手間どったが、花婆に手伝ってもらい、びしりとかっこよく着つけてもらう。

 案外、サマになっていた竹千代の浴衣姿に、花婆はちょっと驚いていた。


「へー、爺ちゃんのお古やけど、まだまだいけるもんやな。竹千代は身長が高いからシンプルな格好が似合うんやね」

「そう?」

「あんた日本人顔やしね。着物とか浴衣が似合うんやろ」

「微妙に褒められている気がしねー」


 竹千代が複雑そうな表情でいると、花婆がかっかっと笑う。


「褒めとる褒めとる。これなら澤留ちゃんも惚れなおすやろ」

「……そういうことをしれっと言わないで欲しいなあ」

「なんやイヤがりはせんってことは、期待してるんか」

「ばーあーちゃん」

「はっはっは……まっ、のこりの夏を精一杯楽しんできな」


 花婆がぺしんと背中を叩くと、同時に、玄関のチャイムが鳴った。

 竹千代は浴衣を貸してくれた花婆に礼を述べる。


「あんがと花婆ちゃん。じゃ、精一杯楽しんでくる」


 そうして玄関に向かうと、可愛い浴衣姿の澤留がいた。

 澤留は、白い生地に朝顔の柄がついた浴衣姿で、長い黒髪はうなじを見せるように、浴衣結びでまとめあげている。

 悪魔は笑顔でやってくるとは本当のようで、うすーく煽情的に微笑んでた。


「じゃーん、澤留ちゃんパーフェクト浴衣姿です」


 澤留は自信満々に浴衣を見せびらかせてくる。

 可愛い。死ぬほど可愛い。どうして浴衣はこんなにも心をゆさぶるのだろうか。ただでさえ綺麗な幼なじみの魅力が跳ねあがっていて、竹千代は困ってしまった。


「…………」

「いやいや、ここで黙らないでよ。なになに、僕の浴衣姿が死ぬほど可愛いとか思っちゃったわけ?」

「……まあ、うん」

「え? ……ほんとに?」


 竹千代が頬を赤くしながらコクンとうなずくと、澤留の頬も赤くなった。

 澤留は嬉しそうに唇をゆるませて、すっと手を差しだしてくる。


「……うへへー、たけちーも浴衣似合ってるよ。それじゃあ行こうか」


 最近なにかとナチョラルに手を繋ごうとする澤留。

 竹千代は特に抵抗することなく手を繋ぐ。


「おう、夏の終わりを楽しもうぜ」

「……うん」


 澤留がきゅっと手を握りながら、手をひっぱってくる。

 幼なじみが自分より少し前を歩いていくこの距離感が、竹千代は好きだった。


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