第4話 新たなるゲーム、開催
うす暗がりの中、
「たけちー、
「手籠めにされそうになっているのは俺だが⁉」
澤留の顔は火照っている。
しかも澤留は、露出の高いベビードールを着ていた。
長い黒髪がサラリと肩にまとわりついていて、透明な布地の裏側に、真白い肌が見え隠れしている。就寝前は普通の寝巻きだった幼なじみのあられもない格好に、ただでさえムラムラしていた竹千代の下半身に血が溜まっていく。
竹千代は、澤留のえもいわれぬ色気に完全にあてられた。
「たけちーってば、僕に釘づけじゃん」
「お、幼なじみが醜態さらしていたらガン見もするわ!」
「てい」
澤留が、竹千代の下腹部を服越しにまさぐった。
「モミモミすな‼」
「わっ! 一瞬でモミモミからコチコチになってるし」
「そ、それは俺の筋肉だって! 腹筋鍛えてるからさ!」
「筋肉なのかなー? そうなのかなー? もうちょっとたしかめちゃえー……って、たけちーのもうコチコチじゃなくてギンギンじゃん。ヤバいね」
竹千代は歯を食いしばっていたが、澤留の指使いに気持ちよくなってしまう。
妖艶な身体を求めてしまいそうになるが、強靭な理性でおしこめて、幼なじみの華奢な身体をえいやと跳ねのける。
ドシンと部屋がゆれて、竹千代は澤留を押したおす形になった。
「……やっぱり、僕を手籠めにする気じゃん」
うるんだ瞳に、竹千代は呑みこまれかける。かすかな月明かりの下でも、澤留が肩まで真っ赤になっているのがわかった。
澤留の息がすこし荒いのは、自分と同じように興奮しているのだろう。
(……っ)
このまま情動に流され、身体を重ねたくなる。
だから竹千代は、澤留との大事な思い出を頭に浮かべて、冷静につとめた。
「不可抗力だ」
「だったら、合意のもとにしちゃう?」
「……俺をからかうだけで、踏みこむのは躊躇っていたじゃないか」
「男の僕でも反応するのか、たしかめたかっただけだよ。ストレートの前にはジャブをうつよね。それと一緒」
「これがストレートってわけか」
「うん。別に、イヤじゃないよね?」
澤留は視線を下げて、竹千代のギンギンな下半身に微笑んだ。
ストレートどころか全身タックルかましてきた澤留のなりふり構わなさに、竹千代はどう応えればいいかのか悩んだ。
「……下半身は反応しちまったけどさあ。もっと、順序を踏んでくると思うじゃんか」
「踏んたじゃん」
「飛ばしすぎだろ」
「……あのね、たけちー。僕ね、
「男同士だろ。俺たち」
「だから、たけちーのをきちんと受け容れられるように」
澤留がすっと股をひらくので、竹千代の心臓が止まりかける。
全身からわきあがるマグマのように熱に身体が溶けそうになり、切ったエアコンのリモコンに手をのばすが、澤留が先んじて遠くにやった。
はずみで、お互いの手が繋がりあう。
二人の熱のこもった視線がからんだ。
「……この先、どーなってもしらんぞ」
「どうなった先を、僕はいっぱい想像してるんだよ? 覚悟がちがうよ」
「う……」
竹千代は言葉を詰まらせた。
「ねーぇ、いっぱい気持ちよくしてあげるし、一生忘れられない思い出にしてあげるよ?」
澤留が腰に手を回してくる。
ふるえていた澤留の手が愛おしいとすら思え、竹千代は限界寸前だった。
(あー……これ、やっべー…………)
澤留は美しい。長い黒髪、真白い肌、ひらべったい胸、華奢な肩。
男だとわかっていても理想の子だ。ムラムラしていたところにこうも迫られては、澤留におおいかぶさって、可愛い唇をふさいでやりたくなる。
実際、竹千代から唇を近づけつつあった。
「たけちーは僕にどうしたい? なんでも好きなことを言ってよ、叶えてあげる」
「っ……」
「苦しそうな顔……。はやく、僕でスッキリしちゃいないよ」
道具のように自分で性処理してもいいという台詞に、竹千代は我に返る。
このまま澤留を抱くのは絶対にちがう。
それは、自分たち二人の関係ではない。
自分が好ましいと思っていた澤留はいつも悪だくみばかりで、楽しいと思えた時間はいつも友だちとしてだった。
「澤留は友だちだ。その答えは変わらない」
「……がんこものー。下は正直じゃんか」
「男ならわかるだろーけど、性欲と愛情はまた別だろう」
「……ふーん、だったらもっと正直になってもらうもん」
澤留が目を細め、その手を竹千代の下腹部にすべりこませようとする。
だから竹千代は手首をつかまえて、不満げにした澤留に言ってやった。
「こんな簡単に、俺と肉体関係を結んでいいのか」
「いいよ」
「よくねーよ。これから一生付き合うかもしれない友だちだぞ。澤留こそ、ちょっと色気ふりまいたぐらいでがっつくような相手が友だちで、本当にそれでいいのか?」
「……」
澤留はすぐに反論してこなかった。
澤留に開きなおられる前に、竹千代はキッパリと否定する。
「俺はイヤだ。半端な覚悟なまま勢いに任せて澤留を抱いて……俺たちの関係がめちゃくちゃになるのなら、今ここで俺のチンコがなくなったほうがマシだ」
「たけちー、お下品ー」
「襲いかかってきたお前に言われたかねーよ! 俺が言いたいのはだな――」
と、竹千代はクルリとひっくり返される。
またも澤留が、腹に馬乗りになってきた。
あまりの早業に、竹千代の目が点になる。
「はへ?」
「驚いた? 僕、合気道をやっているんだ」
澤留がニマニマしながら顔を近づけてくる。
「待て待て! ご、合意がなければだな!」
「わかってるよ。つまり、たけちーとの合意があればいいわけだよね?」
無邪気にそう聞いてきた澤留に虚をつかれ、竹千代は思わずうなずいた。
「……ん? まあ、そうだな……?」
「たけちーから僕に手を出してきたら、それってたけちーが僕を恋人として大好きってことになるよね?」
「理屈上では……?」
「うんうん、たけちーが僕に手を出したら、晴れて僕たちは一生の付き合いになるわけだ」
澤留は幸せそうに微笑んだ。
大切な友だちにそう微笑まれては、竹千代は賛同するしかなかった。
「そ……そうだな……」
「やったー! この夏いっぱいつかって、たけちーを堕としてやろー! たけちーの我慢が勝つか、僕の魅力が勝つかの勝負だ勝負!」
澤留は嬉しそうにバンザーイした。
「⁉ 待て待て待て、なんで勝負になるわけだ⁉」
「最初から僕は勝負をしかけていたよ? 短期決戦しかないと思ってたのに、たけちーが僕のことを大事に想いすぎていてビックリというか……ドン引き?」
「お前の行動にずっとドン引きはしているがな⁉」
「うへへー……。たーけち」
澤留は唇が触れそうになるまで顔を近づけてきた。
綺麗な顔が間近にせまって、竹千代の目が左右におよぐ。
「その調子じゃあ、すぐに僕に陥落しちゃうね?」
「……はやく俺の腹からどけよ」
「ん。そーする♪」
澤留は立ちあがり、上機嫌にふすまにトトトと駆けて行く。
去り際、それはもう嬉しそうに笑いかけてきた。
「おやすみたけちー、また明日ね」
「……おう、また明日」
大丈夫、きちんと友だちのラインは保てるはずだ。
しかし下半身の熱はまだおさまらず、今、自己処理をすれば間違いなく澤留を思い浮かべながらいたしてしまうだろう。
竹千代は、劣勢からの勝負のはじまりを自覚した。
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