僕の夏休み

キザなRye

第1話

 小学生だった2000年代前半の夏休み、僕は一人でおばあちゃんの家に泊まりに行った。地球温暖化が進行していて都市部では田舎に比べて暑さが尋常ではなかった。母方のおばあちゃんの家は都市部から少し離れた山の方にあるので夏休みの間はそっちで過ごすことになった。お正月と夏休み以外には行く機会がないので来るだけでわくわくする。あと一週間もすれば夏休みが明けるという頃に僕は一生忘れることのない出来事が起こった。

 おばあちゃんの家に来てからの日課となっている畑仕事の手伝いをしてお昼休憩にしようと家に戻ってくると昔の家とかによくあるような障子が周りに巻いてある四角い照明器具の上のところに白い何かがあった。おばあちゃんが言うには毎年玄関の梁にある巣でツバメが子育てをして去って行くが、時々家の中に迷い込んでそこにいることがあるらしい。ただ、8月も終わろうとしているこの日にツバメが日本にいるというのはいくらここが涼しいところだとはいえ考えがたい。何だろうと二人で近付くとジロっと視線を感じた。顔の位置を上下左右に動かしても変わらず見られている気がする。

 天井と照明器具の間が見えるようにおじいちゃんが車庫から脚立を持ってきてくれた。おじいちゃんに抱きかかえられて脚立を昇って白いものを見るとどうやら毛で全身を覆われている鳥らしい。僕が一旦降りて今度はおばあちゃんがそれを見た。脚立から降りてからおばあちゃんは言った。

「これはフクロウだね。四羽いるよ。」

「人に見られても逃げ出さないんだね。」

「人に慣れているのかもしれないな。でもずっとそこに要られてもね……。」

フクロウがそこにいること自体が嫌なわけではないが長期的に、半永久的に住まわれると不利益が生じそうだとおばあちゃんとおじいちゃんは困っていた。

 獲物を捕らえるためには家から出なくてはならない。しかもフクロウは通常夜行性なので僕たち人間が眠っている時間帯が主の活動時間帯なのだ。つまり夜中にフクロウたちが食べ物を探しに行けるように玄関を開けっ放しにしなくてはならない。そうするといろいろな恐怖と一緒に生活していかなくてはならないのだ。

 追い出したいわけではないけれども適当なタイミングで彼らの本来の居場所に戻ってもらおうと僕とおばあちゃん、おじいちゃんの三人で作戦会議が行われた。何も分かっていない僕はエサをおいて外に誘き寄せればいいじゃないかと言ったが、フクロウの生態を説明されてそれは無理だと納得した。昼間の寝ているうちに運んでしまえば良いのではないかという意見も出たが、昼間でも視線を感じるので完全に四羽が寝ているとは言えないようなので却下された。三人で意見を出し合ったが、どれもこれも実行するには程遠く煮詰まってしまった。そして結論は先延ばしになった。

 その夜、僕の夢に白い羽を持つフクロウらしき鳥が現れた。夢だからということで納得しているがその鳥は人語を喋って僕に話しかけてきた。

「私たちの仲間の一人がケガをしています。それが治ったら元の場所に戻りますからそれまでは待っていてください。」

 朝起きておばあちゃんとおじいちゃんに夢の内容を伝えると二人はすぐに手当ての準備をし出した。消毒液と包帯のような布切れを持ってフクロウたちの元へと行くとケガしている一羽を見つけて手当てをした。消毒したときに痛かったようで苦しそうな鳴き声を出した。おばあちゃんが言うにはあと二日もすれば完治するらしい。

 その日の夜の夢に再び白い鳥が現れた。前の日と違って背景が朝日なのか光り輝いていた。

「手当てしてくれてありがとう。今日の晩に旅立つよ。」

それだけ言うとその鳥は消えてしまった。

 翌朝、今までフクロウがいたところにはもうその姿がなかった。お礼の印かのように一枚の羽だけが残っていた。

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僕の夏休み キザなRye @yosukew1616

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