3 - 先輩はもういない


「………………ハァァ……」



 次の金曜日の放課後。今日は学期の最終日でもある。

 何時もなら、この後先輩との約束があった。

 ……でも、今日からはもう行く必要がない。


 先輩は、水曜日に卒業していった。

 学年主席として卒業生代表を務めた姿は、今も目に焼き付いている。

 もう会えないのかと思うと……――――。



「――おーい、須藤。どうしたんだよ、そのツラ」



 ……ぼんやりしてた所を森脇に声を掛けられ、急に現実に引き戻された。


 同級生で親友の森脇英二郎もりわきえいじろう

 文武両道を地で行く、典型的なイケメン高校生だ。部活は軽音楽部。

 まー、良くモテるヤツだ。小学生からの付き合いだが、大体何処でもモテている。

 それを鼻に掛けたりしないから、良いヤツなんだけど。



「なんだ森脇か」


「なんだはねえだろ? 深刻そうなツラしてるから心配してやったってのに」



 コイツは、妙に人の感情を読み取るのが上手いから、たまに的を射るような事を言う。

 だから、まともな言い訳が出来たことが無い。



「ほれほれ言ってみろよ、この大親友の森脇様に。ただし金の相談だけはナシな?」


「いや、…………1年、早かったなーって」


「うっわ、ジジくせ」


「良いだろ、別に……」



 1年間早かった、ってのは嘘じゃない。

 先輩に付き合ってたら、いつの間にか1年経っていた。

 いつかは勝てると思ってたし、勝つために何冊もの推理小説を読み込んだり。

 そうこうしてる間に1年経って……いや、1年掛けても、先輩には勝てなかった。


 森脇は、こっちの様子を見てニヤリと笑った。



「……はーん、分かった。あれだな? 千鳥先輩の事考えてたんだろ」


「バッ、バカ! 何言ってんだお前!」


「その顔じゃ説得力無いぜ? 千鳥先輩、美人だったもんなー♪ …………何処までシたんだよ?」


「何もしてねえよ!!」



 周囲が一瞬、静まり返った。

 帰りの片付けをしてる連中がこっちを見てる……やば、声デカすぎた……。



「……で、今日は行かなくていいのか? 何時も毎週金曜日だったんだろ?」


「卒業まで、って約束だったんだよ……それに先輩は卒業したから、もう来ることなんてないだろうし」


「じゃあ今日はオフか! このまま帰るならどっか遊びに行こうぜ、カラオケでもゲーセンでも、どっか行きたいとこあるか?」



 確かに遊びに行くのもいい。今の気分の気晴らしにはなる。

 でも……今日は、ちょっと行きたい所があった。



「いや、……やめとく」


「ンだよ、付き合い悪いヤツー」


「すまん」



 頭を下げると森脇は突然笑い出した。



「ワハハハハ! 別に責めちゃいねえよ。その顔見てりゃ、お前が何処にいくかくらい想像がつくってもんだ」


「――――居るといいな、先輩」


「……バカ、とっとと帰れよ」


「へへっ、じゃあまたな! 春休み中遊ぶ時は何時でも連絡してくれよ!」



 森脇は、バッグを抱えて教室から出て行った。

 居るわけないだろ、もう〝契約〟は終わったんだ。


 ……終わったんだ。

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