不良少女と夏祭り
「なぁ、符津野。お前、お盆の13日暇か?」
「13日?」
「あぁ、13日の金曜日だ…」
聞いた事あるフレーズを語り出した絢芽は、俺に質問を投げかけてきた。
「まぁ、空いてるよ。今の所は」
「………なら、その日…夏祭りあるよな?どうだ?…一緒に…」
なんか少しずつ、お互いの物理的距離間が縮まってきている気がしている。
俺は、絢芽の緊張したその表情を見ながら、笑顔で返答する。
「うん。いいよ。当日はどっかで待ち合わせにしよっか」
「お、おう!そうだな。ただ、この地域の事よく知らねぇから、どこに何があるか…」
「だったら高校で待ち合わせでいいんじゃないか?近いし、そこなら迷わないでしょ?」
「そうだな…。じゃあ!当日そこで!」
………これは回想である。八月に入って、宿題をさっさと終わらせた俺は、絢芽から宿題を手伝って欲しいとの事で、絢芽の家にお邪魔した時に言ってた事である。
そして今日はその当日。俺は、男性用浴衣なんて持ってないから私服で行く事にする。
俺はお小遣いで貯めていた分の約半分を財布に入れて、スマホの充電も満タンになるまで保留していた。
祭りは十六時から始まる。まだ二時間もある。しかも集合時間は十七時。
俺はそれまで自分のタブレットで、保存してあったアニメを観る事に。
「えーと、続きのやつ…」
俺のスマホから通知音が流れた。それは、陽太からだった。
陽太:元気か?今日こんなの見つけたんだけど、もし気になったらお前の分買っとくけど。
ちなみに一つだけな。
と、写真が一枚添付されていた。
「お!欲しい!」
その写真は、今話題の歌い手配信キャラの限定ストラップである。そういえば今ご当地観光とコラボして、各地のお土産屋にグッズで販売していると宣伝していた気がする。
2次元のイラストで、それぞれメインカラーで赤、青、緑、紫、オレンジ、白、黒、銀、金の配色キャラクターに分かれている。どのキャラも人の姿をしているのだが、仮の姿という設定で全て種族がある。
順番に言えば、ヒーロー、アンドロイド、宇宙人、厨二魔法使い、妖怪、エルフ、サムライ、メイド、ファンキーと言う種族となっている。ファンキーとはいわゆる陽キャみたいな奴である。正直、種族に入るか微妙だが…
欲しい:ショ
『ショ』は俺の事である。章悟と打つのが手間だったので手短にしたのだ。
陽太:どのキャラ?
金のキャラ:ショ
俺は金のやつが好きである。
しばらくして。
陽太:このキャラだな?
写真を添付してきた。
黄金色で、七福神の真ん中の立ち位置にいる神様のキーホルダーだった。
違うわ!誰だよw:ショ
陽太:すまん。間違えた!あまりにも似てたので…
いやどこがだよ!:ショ
また写真を添付してきた。
金色の大仏の置物の写真だった。
それも違うわw:ショ
陽太:ああ、すまん。これだったな
また写真を添付してきた。
お土産用小判の写真だった。
人ですらねぇじゃん!お土産で遊ぶな:ショ
陽太:心配無用!ちゃんと買ったから
そうメッセージが来ると、レシートとストラップを載せた写真を添付してきた。
陽太:また実家から戻ってきたら渡すから。お釣りとかいらんからなぁ!
ありがとな!:ショ
本当に陽太はいい奴だ。
アイツは実家に戻っている途中で見つけた、俺の好きな物をわざわざ買ってきてくれるなんて。仲間思いというか他人の為に尽くせる人間というか。
それを思うと、俺って恵まれてるなぁと心底感謝した。
「いやぁー!あれがまさかゲットできるなんて。アイツには色々助けてもらってるなぁ。俺…」
本当にそう思う。思い返せば、絢芽と俺をこれまで繋ぎ合わせてくれたのもアイツがしてくれた事が多い気がする。帰りを二人きりにさせてくれたり、絢芽が学校に来なくなった時も、どうにも出来なかった俺の背中を押してくれたのも陽太だった。
陽太がいなければ俺には今絢芽と仲良くできていないだろう。そして今日、こうして祭りに行ける事もなかっただろう。
そうして俺は自分のベッドに横たわる。
実家でゆっくりしてる陽太に、心の中で『ありがとう』と伝えた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
いざ集合場所へと向かう事となった時、空が段々と暗くなって来ていた。だいぶ陽が落ちて涼しくなっている。
校門前に待っていた俺は、スマホで軽くゲームに勤しんでいた。
「符津野」
誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。
声の方に顔を向けた。そこにいたのは、足元から頭まで、今までに見た事ない程の浴衣美人の女の子が佇んでいた。
「……絢芽」
目の前にある人物。青の浴衣姿に、髪を整えて串で止めてあり、木製のサンダルを履いている、紫獅蔵絢芽だった。
つい見惚れてしまった俺は、その場で固まってしまった。
「なんだ?アタシだぞ?」
「ビューティフォー…」
「え?どうした?」
「あっ、いや!ごめんごめん。浴衣、めちゃくちゃいいね」
「おう…ありがと」
なんだか照れている所もまたいい!こんなに浴衣姿が似合う高校生は見た事ない。全国にどれ程ここまで綺麗な姿でいられる女子があるのだろうか。そう思ってしまう程見惚れた。
「じゃあ、行こっか!」
「あぁ、案内宜しく」
そして二人で夏祭りに向かうのだった。
高校からは歩いてそんなに時間の掛かる程ではないから、ゆっくりと向かう。
絢芽の浴衣姿、どこからどう見ても高校生には見えない。大人な雰囲気を醸し出している。
これまで色々な姿の絢芽を俺は見てきた。その中でもダントツのお気に入りな姿である。写真に収めたいくらいだ。
「さっきからなんだよ。アタシなんか変か?」
「…いや、変じゃない。寧ろありがとう…」
「どういう意味だよ…」
「俺、マジで嬉しい!絢芽の浴衣姿見れて!だから見惚れてた!」
「そんなに褒めても…なんも出ねぇよ…」
「いや、もう出てるよ!美しさが全面から」
「そ、そうかよ。まぁ、あんまジロジロみんな。恥ずい…」
「わかった。じゃあ会場着くまでこのまま保留で」
「いや、さっきから口走ってる事が変だぞ?暑さのせいでおかしくなったのか?」
おかしくなったのかもしれない。それでもいい!こんな綺麗な絢芽を眺められるのなら!しかも最前席で!
見惚れていると、会場に着いた。人混みで前方が見えない。屋台が真っ直ぐ並ぶ中、このまま周ってても暑苦しいだけだと感じ、しばらくは休憩場に待つ事にした。
「いやぁ。会場に着いたらこの人混みかぁ。今年は特に多いなぁ。なんでだ?」
「符津野は、この祭りは毎年行ってんのか?」
「いや、中学の頃なんてほぼ行ってない。行けるメンツが…」
中学の頃は、俺なんて全く学年の中での印象が低い。殆どラノべ・アニメ・特オタ達と一緒にいる事が多かった。部活動とかも運動部ではあったが、大して強かった部活でもなかった。しかも俺の代で消えたし…。
目立つ事なかった俺なんて、祭りとか全く行こうと思わなかった。
では今回何故行く事になったのか。まぁ第一は絢芽が誘って来てくれた事だ。それが一番嬉しかったから。後は暇潰しである…
「なんか飯食わないか?」
絢芽が提案をして来た。俺も同じ事を思った為、二人でどこかの屋台で食べ物を調達することにした。
それで買ったのが、たこ焼き、焼きそば、りんご飴、お好み焼き、唐揚げ、綿菓子、ドリンク、フライドポテト、カステラ、クレープ、他。これ全部絢芽の分である。
俺はというと、唐揚げ、フランクフルト、かき氷、絢芽がくれたカステラ…お腹いっぱい。男として情けないくらいの量である。
「おっ、射的…」
「やる?」
「やりてぇなぁ」
絢芽が射的に挑戦した。
弾は全部で五つらしい。一回二百円である。
絢芽の腕前はというと…
見事四つの景品を当てた。上手すぎでしょ。
「いやぁ!取った取った!ハハッ。久しぶりだったからなぁ。射的は」
「上手かったねぇ。なんかあぁいうの得意なの?」
「いや、別に。ただやってみたかったからやった。そしたらこんだけゲットした。意外と楽しかったわ」
「それはよかった」
楽しそうに笑っている絢芽。久しぶりだ。こんなに楽しそうにいる絢芽を見たのは。
なんだか、初めて一緒に下校した時の事を思い出した。あの時もこんな笑顔だっただけか。絢芽と楽しそうな時間を共有できる事が俺にとって最高の時間である。今この時も、とても内心嬉しいのだ。
「ん?どうした?符津野」
「いや、なんだか嬉しくて。俺って恵まれてるなって思ってさ!」
空を見上げると、小粒くらいの小さな星があちこちにちりばまれているのに気づいた。
「綺麗だなぁ」
「あぁ、綺麗だな」
絢芽の姿をまた見つめる。絢芽も空を見上げてた。
そして絢芽と目が合う。
「なんだ?今日やたらアタシを見てくるじゃねぇか」
「…本当の事だから」
「何が?」
「……あっ!いや!その!なんでも!?」
あっ!俺、心の声がそのまま口に出た!?
実はあの台詞の前に、星空を見上げた時、『綺麗だ』と放った。あれには星空と絢芽の姿の両方が合わさっているのだ。だから繋げて言えば、『星空が綺麗。そして絢芽も綺麗だ。本当の事だから』と言う意味合いになる。
俺はこっ恥ずかくなった。絢芽に視線を向ける。
何事もない表情だ。
前までなら、こっちから変な事言っちゃったかもと謝罪をする事があった。さっきの発言もそうだ。
でもそんな事する必要がなくなった。
俺達はもうそんな関係までになったのだ。
「アタシもだ…」
「え?」
「アタシも…今日は嬉しい…」
照れながら、俺に視線を逸らしてそう言った。
その姿でその表情、そしてその台詞。なんだか胸の辺りがホッコリするような気がする。そしてなんだろうか。このドキドキするもどかしい感情は。
俺は思わず本人に伝えたくなった。
『好き』
だが、こんな所で言うべきか分からなかった。何せ彼女なんて過去にいなかったし、こんなシチュエーションとか想像した事なかったから。
俺はこの気持ちを上手く伝えにくい為、ある行動に移す。
「……!?」
絢芽がなんかビクッと反応した気がした。
その照れがどんどんと露わとなっている、彼女の表情が俺にも伝染する。
緊張してきた。だがそんな風になったのも、俺が原因である。
俺は、今までそんな経験をしてこなかったのだが……
ギュッ
女の子の手を強く握った。それはそれは緊張して汗ばんだ手で。だがその何秒後かに、彼女も…絢芽も握り返してきた。
「………」
「………」
なんかお互い喋らなくなってしまった。
すると、前方から誰かが、こっちに向かって来ていた。
「絢芽ちゃーん!章悟くーん!」
手を振ってこっち向かっているのは、白の半袖に、男性用の短パンでクロックス姿の、こうしてみても同性とは捉えられない姿の椿君だった。
「あっ、椿君」
「椿」
「お二人共来てたんだね。元気そうで何よりだよ。って…」
目線の先には両手を繋いでた、俺達の手に視線を感じる。
やばい!恥ずかしい!手を繋いで歩いてるのとか、なんか照れる。
だが俺は離さなかった。
「…へぇ。やっぱりお二人はお似合いだね!」
「あ、おう!ありがとよ」
「アハハハ…そう?で、椿君は誰かと一緒なの?」
「いや、最初は弟と来てたんだけど、途中で他の友達と合流して今は一人で屋台を周ってるんだ。そういえば他にも来てる人がいたような…」
「ちょっと田中、それアタシのじゃん!」
「えー。ウチも焼きそばあげたじゃんか!」
「もう私のあげるから。二人共さっきから喧嘩しないで」
「あっ!いたよ」
俺達の後ろから大声で騒いでる人がいると思ったら。椿君が指をさした方向も俺達が視線を向けた方だった。
そこにいたのは絢芽の過去の事を俺に報告してきた四人達だった。
「!?。あぁ…あの人達って」
「………」
絢芽も関心なしな表情だった。
「おーい!」
手を振って、四人に向かって大声で呼ぶ椿君。
あぁ、あまり関わらない方がいい連中かもしれない。何せこっちには絢芽がいるのだから。あの四人は絢芽の事を怖がっている。あまりいい関係とは言えない。だから椿君、空気読んで欲しかったなぁ。
「あら?椿君!…って」
ほら、あの向こうも『ゲッ!絢芽ちゃんだ』みたいな表情になった。
段々とこちらに向かって来た四人は、絢芽の姿を確認する。最初は浴衣姿の絢芽だと気づかなかったらしいが、絢芽だと分かった瞬間に立ち止まった。
「あ、絢芽」
「げ、元気?」
「………」
返事を返さない絢芽。
「みんなどうしたの?」
椿君が問いかけた。
「あぁ、いや別に何もないよ。それより他の所周らないか?絢芽」
絢芽の表情は変わらなかった。
「絢芽……ちゃん」
四人のうち一人が、絢芽の方に向かってくる。
何事かと思った俺は、つい絢芽の手を引っ張ろうとしたがやめた。
「絢芽ちゃん…本当にごめん…」
「………」
そして残りの三人も一斉にこっちに来た。
「絢芽。ごめんなさい」
「私もごめんなさい」
「ごめん絢芽。アンタに寂しい思いさせちゃって」
俺は四人の行動に少々パニック気味になった。
『え?絢芽に謝罪?』
そんな事が脳裏に浮かんだ。
「みゆちゃん?秋ちゃん?空ちゃん?奏ちゃん?どうしたの?みんな」
何も状況がわかってない椿君が問いかける。
「私達、絢芽ちゃんの事勝手に変な接し方して、勝手に避けていった事、本当に申し訳ないって思ってる」
黒髪の三つ編みの子が言った。
「学校のみんなから聞いたんだ。絢芽、この二人を助けたんでしょ?」
気の強そうな背の高い子が言った。
「符津野君の件は知ってたけど、椿君も他校の悪い人達から助けられたって言ってたから」
俺に最初話しかけて来た、清楚なイメージのショートヘアの子が言った。
「昔のイメージをいつまでも引っ張って、アンタを困らせちゃった。恐らく学年中にアンタの過去の噂が広まったの、ウチらのせいみたい…ウチらが前からアンタの噂をコソコソと喋ってたのをいつの間にか周りの人達に漏れちゃったからみんなに知られちゃったみたい。それで同じ中学の人らもそれを勝手に先生とかに言ったみたいで…だからごめん…」
これまた気の強そうなポニーテールの子が言った。
それぞれ名前を知らないが、四人全員絢芽にキチンと謝罪をしてきたのだ。
「「「「ごめんなさい!」」」」
一斉に深くお辞儀をした。
「………」
「……絢芽?」
「そんな辛気臭い事するな。アタシもいつまでも引きずってたらストレスで嫌になるっつーの!せっかくの祭りなんだ…」
そして、一斉に四人が顔を上げる。
左頬を上げる絢芽。
「楽しもうや……。夏祭り」
どうやら彼女達を許したみたいだ。
「さて!符津野、次どこ行く?」
「あっ、あぁ!そうだな。お化け屋敷とか面白そう…」
「あれ?絢芽!」
「アヤっちカップルだー!」
お化け屋敷に行こうと誘おうとした時、目の前に絢芽の友達二人が合流した。
「お前ら」
「やっぱりお似合いですなぁ」
「アツイ!アツイなぁ!お二人さん!」
なんだかそんな事言われたら照れるじゃないか!絢芽の友達まで!
俺は照れ隠しをしたつもりだったが、バレバレだったようだ。
俺は絢芽に目線を向けると、絢芽がニッコリと微笑んでいた。
「行くか。お化け屋敷」
そう言ってさっきまでずっと握ってた手を軽く握り返す絢芽。
「……うん」
そしてお化け屋敷に向かう。まさかの全員で。
結果、久しぶりに入ったお化け屋敷はリニューアルされててスリルがあった。
絢芽は全くビビったりしなかった。俺は小学生の時来てたから大体わかってたから、スリルで言うと60点くらい。
んで、その他全員はめちゃくちゃビビってた。
あれよこれよとみんなで楽しく屋台をまわっていると、アナウンスが流れた。
「さぁて!本日のメインイベント、超特大天空打ち上げ花火!もうすぐ打ち上げ開始!もうすぐ打ち上げ開始です。特等席で観たい方は、会場に設けてあります、閲覧席に集まりに来てください!」
みんながはしゃぎだし、俺達も向かう事にした。
打ち上げ花火。小学生の頃は背が低すぎて周りの大人達のせいで景色が見られなかった。だがそんな事はなくなった。一番後ろの席でも観られるくらいになった。
そして俺達は一番後ろに立って空を見上げる。
ヒューーーー…ヴァン!ヴァン!
カラフルで鮮やかな打ち上げ花火を眺める事が出来た。
どんどん打ち上がって行く中、写真を撮る人が続出していた。
「綺麗だなぁ」
「………」
絢芽は隣で花火に見惚れていた。打ち上げ花火の色が反射して映る姿で、うっとりと眺めている絢芽は最高に綺麗だった。そんな彼女と一緒に行けた夏祭り。俺にとって最高の宝物となった。
そして、俺は絢芽が見惚れている横で同じように花火を見上げながら、周りに聞こえない声で呟いた。
「……絢芽……大好き」
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