不良少女と夏休み

 夏休みに入った途端、なんだろう…暇だ。


 カレンダーには別にスケジュールなんて書いてないし、今後何するかの予定もない。

 夏休み前とかは、楽しみで楽しみで無性にワクワクと高揚感が上がっていたのに、いざその時が訪れると何もないつまらない一日が始まった。


 「あっちー…。暇だぁー…」


 何か予定とか作っていればこんなつまらない時間を過ごさなくて済んだのだろう。しかし俺にはこれといった予定はない。

 実を言うと宿題は半分も終わっており、昨日の夜にはまた一つ宿題を仕上げた。残り五つくらい残っているのだが、誰も簡単に済ませそうな物ばかりである為、今から手をつけようと思わない。


 「……あぁ、何にもする事ない…。あっそうだ!ラノベ新刊情報を…ってそれ見たなぁ、昨日。特撮…アニメ…」


 大型タブレットで新作アニメや、特撮関連の作品を観たいと思い、探してみる。


 『8月から最新アニメを見放題!!』


『夏休み特撮祭り!夏休みは、特撮作品目白押し!映画公開にちなんで、過去の大ヒット特撮映画作品を無料配信!お盆の8月14日から!!』


 「あぁ…どれも八月からかぁ。今やってる配信アニメとかないかなぁ?」

 

 全部有料だった。ある事はあるのだが、昭和のアニメシリーズや自分が過去に観たアニメであまり自分としては好評ではないアニメシリーズばかりだった。


 「暇だ…。なんか面白い動画配信者のやつとかないかなぁ?」


 俺は、チャンネル登録している動画配信者のチャンネルを閲覧する。最新動画はいち早く観ているから、昨日の時点で新しいのはまだなかった。

 

 『コンコン!」


 俺の部屋を誰かがノックする。


 「はい?」


 「アホにぃー、入るよ」


 妹だ。俺の二つ下である。


 「あぁ、なんかよ…」


 「失礼するー」


 まだ最後まで言い切ってないのに勝手にドアを開けた。


 「なぁ、アホ兄。ちょっとパシッていい?」


 「嫌だと言ったら?」


 「…死ね」


 ジト目で言われた。

 可愛らしい艶やかな髪のツインテールに、俺とは違い、全体の骨格が細くて幼女と間違われるくらいの身長とその童顔。

 俺の妹コト『符津野なつみ』は、相変わらず、その外見と違って中身は可愛げない奴だ。


 「クソ兄暇でしょ?行ってこい…」


 クールなその表情で、俺に命令してくる。昔はこんな奴だったっけ?俺は疑いたくなった。


 「こんな蒸さ苦しい日に外出なんて、ウォーキングデッドじゃないんだから部屋で篭りたい。お前が一人で行ってこいよ」


 「ゴミ兄の好きなもの買ってきていいらしいから…」


 俺に千円札を渡して来た。親から頼まれたのだろう。


 「行きたくねぇ…なんで俺なんだよ。たまにはなつみが行ってきなさい!」


 「私は出掛けるから、キモ兄に頼んでる…早く行ってきて」


 「尚更ついでに行ってこいよ。後普通にお兄ちゃんって言いなさい。可愛げない」


 「じゃあ…お兄ちゃん………と呼んで貰えるように必死に生きる努力をしないクソ野郎」


 「どんどん酷くなってるじゃねぇか。せめて人として認識しろ!」


 妹は千円札をポケットにしまった。


 「じゃあ、今日何も晩御飯食べられなくなったら、ウザ兄のせい…このまま猛暑で何も補給出来ずにみんな飢えてしまって、家族みんな苦しんで、脱水症状や熱中症を起こしたら、クズ兄のせい…突然家族みんな遺体で発見されて、変な虫達に集られる事があったら、全部テメェのせい…」


 「そこまでならねぇだろ…」


 そして、妹は腕を組む。


 「役立たず…」


 「だから俺は、いつも買い出しを頼まれた時行ってるんだぞ?たまにはお前も手伝えって事。夏休みくらいお前も立派な経験として、お使いの一度や二度行ってきたらどうなんだ?」


 じゃあ、と言って俺を鋭い目つきで睨んできた。

 

 「これママに見せてもいい?」


 なぜ妹がそれを持ってるのか知らないが、俺が大事に保管してあって、誰にも見つからないように細工して隠してあった同人誌雑誌の三つを手に持っていた。


 「なんで!?それ!何処で見つけた!」


 「バカ兄が買い出しを頼まれている時、こっそりと細工してある引き出しや本棚から見つけた」


 「なんで勝手に見つけてんだ!」


 「後、そこの小説棚の奥にもこのシリーズの特別号が隠れているのをママに教え…」


 「よしっ!お使いに行くか!」


 「じゃあ、ついでにお願いがある。いつものジュースと果物アイスと、後自由研究用のノートも一冊買ってきて…」


 「それじゃあ、残りの金で俺が買いたい物買えないから一つに…」


 「そこのタンスの中にあるエロDVDを…」


 「じゃあ全部メモしといて…」


 結局、俺が欲しいもが手に入らないが、妹の軽い脅しに負けてお使いに行く事にした。


 家を出て、歩いて行ける範囲ではあるものの、いつもの買い物を頼まれた際に向かうスーパーはそんな近い訳ではない。こんな猛暑を徒歩でスーパーに行くとなるとかなり大量も消耗される。自転車とかあればいいのに、妹が使うからダメと言われるし。とにかく外は地獄だった。

 少しでも涼めるのならと、俺は暑い中ヘトヘトになりながらも徒歩で早歩き気味で向かう。


 スーパーに着いた俺。メモに書かれた物を探す。

 木綿豆腐二つ、濃口醤油、ニンニク、ヨーグルト、後妹の頼まれた物。これでギリギリ千円で足りるのだが、自分が欲しい物はやはり買えない。

 妹の注文が少なければ足りたのだが、俺にも色々弱みを握られている始末。だから仕方なく妹の商品を購入する。


 全部購入した。またあの地獄の世界である外へ出なければならない…。


 俺は、出入り口のドアまで向かった。


 「………ん?絢芽」


 「おっ、符津野。何やったんだ?」


偶然おなじみ店の中で出会った絢芽。絢芽もどうやら帰りのようらしい。

 本日のファッションコーデは、この灼熱の暑さにを紛らわせるような、全身青のサーフィンをしている人の絵柄が付いたタンクトップパーカーに、裾部分を降り畳んであるショートデニム。そして黒のクロックスサンダルと言ったもの。

 そしてポニーテール姿の絢芽は、学校姿より一層輝きが増している。


 「俺、買い物だった。絢芽は?」


 「アタシはただ涼みに来た程度だ。宿題やってて、気分転換にな」


 「そうなんだ。でもここ正直あんまり涼しくないよね。冷房あまり効いてないみたい」


 「そうだな。他の店に行く事にしようとしてた所だ」


 「あ、じゃあさぁ、高校付近のレンタルビデオ屋行かない?俺、そこに用事あるから」


 「そうだな。行くか」


 そう言って、二人でレンタルビデオ屋に向かう事になった。


 「妹のノートなんだけど、何故か売ってなかったから、ここなら売ってるでしょう」


 「お前、妹いたのか」


 「うん。二つ下の妹がね。あ!そういえば絢芽もいたんだよね。妹さん」


 「いるなぁ。地元だからここじゃねぇけどな」


 「一つ下だよね。確か」


 「あぁ」


 「実家とかに帰る予定とかないの?」


 「帰りたくねぇ…」


 段々と落ち込み気味になっていた。家族の話をするのは嫌だったみたい。


 「そ、そうか…これかな?」


 言われたノートを手に取ってレジへ向かう。

 今は殆どセルフレジな為、レンタルビデオ屋のセルフレジの操作がいまいちよくわからなかった。


 「うーんと…」


 「まずこの台に商品置いたら、袋いるかいらないかが画面に出てくる。そこから順番にやってけば会計できるぞ」


 「ありがとう。詳しいんだね」


 「まぁ、大体わかる」


 そして言われた通りに進めて行くと、お会計まで行けた。


 「俺、機械操作苦手だから助かった。ありがとね」


 「あぁ、どう致しまして」


 そして、無事セルフレジでの会計を済ませると、またあの世界へ向かわなければならなかった。中が大分涼しかったからすぐに出て行くのが嫌だった。


 たわいもない話で出口まで向かうと、俺は目の前の見覚えのある人物が立っているのを捉える。


 「あっ、椿君?」


 目の前には私服姿の椿君がレンタルビデオか何かを返却に来ていた。そして向こうも気づいた。

 目が合う俺達。不意に途端に椿君と絢芽との問題で以前体育館の出入り口で起きた揉め事が連想した。


 「あっ章悟君!」


 あぁ、気まずい空気になってしまいそうだ。絢芽と椿君は今の所仲が悪いし、あまりいい雰囲気ではないだろう。

 だから出来るだけ早く帰ろうと考えたが、向こうがこっちに向かってくる。


 「絢芽ちゃんもどうも。二人共ここで何してんの?」


 「あぁ…買い物…してた」


 「お前は?」


 「僕は、返却だよ。レンタルDVDの。僕のじゃなくて弟のやつなんだけどね」


 「偉いな。お前」


 「まぁね。弟は部活があって、僕が代わりに行ってあげてるだけ」


 「お前は優しい奴なんだなぁ」


 「えへへ。それよりこの前ありがとう。助けてくれて…」


 「あぁ、気にすんな。アイツら北高の連中だろ?気をつけろよ。アイツら柄悪い連中ばっかりだからな。つーかなんでアイツらがあんな所いたんだろうな」


 「北高って全然離れているよね。なんでだろうね」


 なんか仲良くなってる?いつの間に?でもそれはそれでよかった。ここで仲悪いまま出会っていたら、澱んだ空気が出来上がって、せっかくの夏休みが始まったばかりなのに、そんなスタートを迎えてしまうのだから。それは最悪だ。だから出来るだけ非難しておこうとしたが、取り越し苦労だったようだ。ってかさっきからすげぇ盛り上がってるんだけど…俺を抜いて。


 「アハハハハッ」


 「ハハッ。それはよかったなぁ!」


 ……なんか気まずい。でもすぐ外に出るくらいなら。


 「じゃあこれで。僕次の用事があるから」


 「おう!気をつけろよ」


 「じゃあ章悟君も!」


 「うん。じゃあね」


 手を振って出口に向かって歩いて行った椿君。


 「仲良くなっててよかった」


 「アイツとか?」


 「うん。正直、この前の事があったから心配だった」


 「別にもうどうでもいいだろ?向こうも何も思ってないっぽいし、もう突っかかって来なくなったからな」


 「そう。じゃあよかったよ」


 そして俺達も店を出て行く事にした。


 


 



 

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