紫獅蔵絢芽中学一年続

 アタシの人生が変わった。もう前までの中学生のアタシじゃない。

 アタシは青龍組の一員として活動していた。そのきっかけとなったのは、あの時…


 「紫獅蔵?」


「先輩?」


 そこにいたのは、私のサッカー部でお世話になった副キャプテンの先輩だった。


 「ったく……お前にバレたのなら仕方ない」


 サッカー部を引退してから、先輩は姿を見る機会が減った。学校には登校しているのは何度か同じ部活のメンバーからは聞いていたが、姿を見る事はなかった。

 そして今、目の前には確かにサッカー部にいた時の、あの先輩…『玄田武人げんだたけひと』先輩がいる。


 「武人。この子知り合いなん?」


 「……俺の後輩だ」


 「同じ中学のか?」


 「あぁ、部活が同じだった」


 「先輩…こんな所で何を…」


 「…紫獅蔵、お前には関係ない事だ。もうさっさと帰れ」


 そう言って私の前から離れていくと、周りの人が私の事を見て、先輩を止めに行く。

 この時に気づいた。この人達の中には女の人も数人いる事を


 「武人!送ってやれよ!」


 「そうだぞ。こんな遅い時間まで一人だと危ねぇぞ」


 「うるせぇ。もういいだろ?」


 「なんて事言うんだよ!もしかしたら『白虎組』の野郎がまだこの辺に散らついてるかもしんねぇんだぞ?また襲われたらどうすんだよ」


 「せめてお前が面倒見てやれ。武人」


 私には『白虎組』と言うのがなんなのかさっぱりだった。今先輩の仲間達が言っている連中とは、私の事を襲いかかってきた人達のことに違いない。

 青い特攻服の人達が皆、先輩とのやりとりを繰り返す中、私は自分の鞄を持って皆の所に駆け寄る。


 「皆さん、助けてくださってありがとうございます」


 私にも事情があった。

 家を出て行きたい…。居場所を無くした私はどうするべきかわからない。だから、偶然出会った先輩達に思い切って真実を話す事にした。


 「ほら紫獅蔵、もうさっさと帰れ」


 「あの!私…実は家出したんです…。帰る場所が無いんです…」


 皆、一斉に驚いた表情で見た。


 「……だからもう、一人なんです、私…どこへ行くべきかわからないから、こんな所ウロウロしてて。ごめんなさい…迷惑を掛けてしまって」


 それで私の家出した理由を洗いざらい全部吐いた。それを聞いた青い特攻服の皆が、先輩にまたどうするか尋ねる。


 「……紫獅蔵…」


 「なぁ武人。この子もお前と似たような境遇なんじゃねぇの?」


 「え?」


 その話に、思わず先輩の顔を見た私。


 「……まぁ、こんな所で辛気臭い話もしたくねぇ。どっか場所を移そう」


 そして私は場所移動で、近くによく先輩達が集う公園があるらしい。そこに行く事になった。


 「そんで…お前はどうしたい?」


 「私は…」


 皆退屈そうにしている中、私と先輩だけで話を進める。


 「お前が判断しろ。これはお前の事なんだ」


 「先輩…。先輩も同じ境遇って言ってましたよね?どういった経緯があったんですか?」


 「まぁ、単的に言えば…俺は夜中に悪ダチと遊んでたら襲われたんだ」


 先輩の目つきが変わった。怖い形相となっていた。


 「あの連中に…」


 「…あの連中って…」


 『白虎組』。その言葉を放った。

その言葉が私には引っかかっているのだが、何者達なのかよくわからない。だが、先輩は話を続ける。


 「奴らは、この地域で活発的に悪さを行う集団で、噂では半グレもどきのような奴らとも囁かれてんだ。そいつらは、犯罪行為を繰り返しては俺達の住む地域まで侵食し始めて、強姦、放火、暴力事件、誘拐等を繰り返してる若者達なんだよ。一時期警察でも手に負えなかった連中らしく、地域警察は強化を固めているらしい。それくらい危ない連中なんだ」


 「私を襲って来た人達も…」


 「アイツらもよく調べてなかったが、奴らなんじゃ無いかって思った」


 「武人。アイツら『白虎組』だったぞ。後でアイツらの車の中とか調べてみたら、アイツらの服装が見つかった。間違いなかったからな」


 「そんな危ない人達は、なんでこの辺で活動しているんですか?」


 皆さんに尋ねる。


 「まぁ、この辺ってさぁ、結構治安悪いじゃん?若者層がかなり悪さする連中が多いんだよ。コイツみたいに!」


 仲間の人が先輩の肩を叩く。


 「うっせぇ…だが、そのせいで悪ダチが…」


 クールかつイラついた態度になった。

 だが、これがいつもの先輩らしい姿だ。部活の時も、こんなにクールで表情なんて目つきが怖いとずっと言われてたから殆ど笑顔なんて見せなかった。


 「…みんなどうなったんですか?」


 「…奴らに連行された。お前が味わった時のようにな」


 「え?じゃあみんなは…」


 「その後行方が分からず終いだ…。もしかしたら奴らに殺されたのかもな…」


 「そんな…」


 「だからお前も同じ目に遭うかもしれないと思った」


 私は、一瞬その言葉を聞いて恐怖心からだろうか、寒気が走った。


 「まぁ、コイツの場合は元『青龍組』にいた先輩に助けられた運のいい奴だ。コイツは連行される寸前に先輩に止められて、でも残念な事に他の仲間だけ連れ戻せなかったの。だから似た境遇だと思った訳よ」


 「まぁそうだな…俺も色々あって家に帰りたくねぇってなってたからな。だから悪ダチと連んで夜な夜な出歩いてた」


 突然、女の青い特攻服の人、レディースと言うのだろうか?その人が、横から話を挟んできた。それに返答する先輩。


 「んでさ、そういう奴らがどんどん悪さを繰り返して行くうちに、そういう族ができたって事。この辺とかは警察とかの活動範囲も少ないし、アンタみたいな家出少女とかもザラにいるんだ」


 「私だけじゃなかったんですね」


 「まぁ、お前の場合は誘拐されてたから、下手したら殺されていてもおかしくない状況だったがな」


 先輩が横から挟んできて、私の顔をチラッと見た。


 「だから、広がりやすいって訳よ。半グレもどきの連中が」


 「もどきって事は完全な半グレではないけどね」


 また別のメンバーの人が横から挟んでくる。


 「だが、俺達は違う。『白虎組』なんかと一緒だと考えるな。俺達は奴らを撲滅する為に活動しているようなもんだ。まぁ言っても、活動してんのは夜だけだ。『白虎組』は夜行性のある連中だからな。警察なんか頼りにならん。学校の教師共も奴らの事を知ってるらしいが、黙っているだけでなんもしてくれねぇ。だから俺達は黙ってこうして活動してるって訳だ。アイツらどんどん侵食を広げて、何を仕出かすか分からんからな…」


 先輩はそう言った後、ポケットからライターと煙草を取り出した。まだ中学三年であるにも関わらず、後輩の目の前で堂々と…

 先輩は、手慣れた動作で着火する。


 でもそうだったんだ…。ただの暴走族や不良集団ではないみたいだ。


 先輩達のお陰で私は助けられた。私は運がいい人間だと感じた。こんな優しい人達に助けられたのだから。


 「んで?お前の答えは?」


 「え?」


 私の方を見た先輩。じっと見つめている。


 「この先どうするんだ?家出したんだろ?」


 「私は……」


 私は迷った。この先どうすればいいのか。

 だが、私は今理想が一つ出来上がった。それは…


 「私、家には帰りたくない。もうあんな所嫌!私の帰る場所じゃない!」


 「じゃあ…どうするんだ?」


 私は覚悟を決める。

 これまでの怒りや悲しみの負の感情が湧き出てくる。身体全身にその感情を吐き出したいが為に力が入り、鞄をグッと握り潰したくなる程力が入った。


 「私…皆さんと同じ仲間になりたい…」


 「……はぁ!?ちょっと!アンタ正気なん?」


 「紫獅蔵ちゃんだっけ?それは危険だ!やめときな」


 「俺達ただの不良の集まりとかじゃないんだぞ」


 私はそれでも諦めなかった。


 「だって…家に帰ったって何も幸せに思わなくなった。もう昔みたいにお母さんとお父さんと妹と仲良く、楽しく暮らせる時間なんて無くなった…。私にはもう帰る場所なんてない………」


 「………」


 私は涙を我慢しようとしたが、やっぱり出てしまった。こんな事したってそう簡単に仲間になれるなんて思ってない。危険な事に足を踏み込むなんて安易に承諾されないのは承知の上。でも、家に帰ってあんな嫌な日々を過ごすくらいなら…。


 「………わかった……」


 皆一斉に先輩の方に視線を送った。私も返事が聞こえた。


 「お前、覚悟が出来ているんだろうな?」


 「………」


 「…………」


 みんな沈黙となった。


 「武人…お前も本気なのか?」


 「………先輩……」


 「コイツは色々と部活でも中々優秀な方だった。素人にしては中々の逸材だったし、副キャプテンを勤めていた俺も、お前の性格をよく知っている。何があっても最後まで諦めず、自分が無理した時も皆に心配かけないよう振る舞って、誰かの為に頑張れるいい奴だってな」


 「先輩……」


 「後は覚悟だけだ!」


 「「武人……」」


 みんながゾロゾロと先輩の名前を呼ぶ。


 「おい武人…本当にこの子仲間にする気?」


 そしてみんなは私の方に視線を向ける。

 私は立ち上がって、先輩の前に立った。


 「…はい!もう出来てます!」


 すると先輩も立ち上がり、私の頭を大きなその手で撫でてきた。


 「よく言ったぞ」





 そこからアタシを『青龍組』の仲間として認めてくれたのだ。

 そしてアタシは今も活動を続けている。

 アタシは自分が強くなったのかどうかは分からない。そして、この判断が正しかったのかも分からない。だが、アタシは前へ進まなきゃいけない。アタシの人生なのだから!アタシが望む未来の為に…


 

 


 

 



 


 

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【青春×不良少女】初めて出来た彼女が学年一可愛い不良少女でなんの特徴もない俺を選んでくれた理由とは!? 森ノ内 原 (前:言羽 ゲン @maeshin

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