アタシとストーカー
「じゃあ、また明日ね。ストーカーには気をつけて」
「あぁ、符津野もな。もしなんかあれば連絡くれよ」
「うん。わかった」
符津野を見送ると、アタシは自宅に向かって歩く。
あぁ……なんか後ろに気配を感じる。絶対にさっきから着いてきているストーカーだな。本当にこの前のクソ野郎である可能性もなくはない。アタシをやり返しに来たのか。
このまま真っ直ぐ家に帰れば、住所が特定されてしまう。だからアタシにはそんな事まっぴらごめんなので、そのまま家を通り過ぎる。ただ歩き続ける。
スマートフォンのカメラアプリを起動させると、インカメに切り替えて、背後を確認できるようにした。ただインカメにするだけではバレてしまう可能性がある。その為、女子が化粧具合を確かめる動作をしながら後ろを見てやる。
後ろを確認。誰かいるなぁ。姿外見は…学生?しかもアタシの通っている学生服の男子だ。もしかしたら、ストーカーってコイツ?いや、違うかもな。もしかしたらこっちが帰り道だから同じ通路を辿っているだけかもしれない。じゃあ、さっきから感じる気配はこの学生だったのか。
「ストーカーじゃないみたいだな……」
だが、アタシは念の為曲がり角が見えたところを左に進んだ。そして早歩きで、真っ直ぐ進む。ある程度距離を空けた後、もう一度カメラアプリを起動し、インカメに切り替える。
やっぱり着いてきた!しかもちょっと早歩きでこっちに着いてきている。
アイツ…本当にこっちが帰り道なのか?ストーカーなのか?
アタシの後ろの奴にちょっと距離を空けたくて、また曲がり角を曲がった。
そしてすぐ近くの古びた今はもうやっていない、空き施設の細い道へと入り込み、施設の裏側に回り込んだ。
ここまで着いてくると完全にストーカーだな。まぁ、施設付近まで来る時にある程度距離はあった。だから、アタシの居場所などわかる筈がない。数分経っても来なかったらアタシもここを離れようと決めた。
砂利を踏む音が聞こえた。着いてきた!あの学生か?
アタシはもう、その場で待機した。そしてこっちに来る人影が見えてくる。
「………あれ?」
その声と同時に、さっき後ろから着いてきた学生が姿を現す。
「うわっ!」
アタシの方を見て驚く生徒。その姿は男子の制服姿の……女子!?
「アタシになんか用か?」
そいつを上から睨みつける。
「ご、ごめんなさい!」
逃げようとする男子か女子かわからない生徒の鞄を掴んだ。
「待ちやがれ…。なにもんだ…てめぇ」
「本当にすみません。怪しい者じゃないんです!」
怪しい者だろ!どう見ても!
まず、後ろからストーカー行為。それからこんな場所までアタシを探しに来たのも。後、顔とか見ると女子っぽいのに、なんで男子の制服着てんだ!それでその言動!全部怪しすぎるだろうが!
「アタシに用があるならここで済まそう。なんだ?」
「ご、ごめんなさい!本当に!」
怯えながら涙目でこちらを見つめる。うるうるとした表情を見ると、か弱い女の子のように見える。しかし、何故男子の服なんだ?コスプレって奴か?
「ぼ、僕…」
「あん?」
僕!?意味がわからない。コイツ何者だ?
「僕…と、
「あん?知らねぇな?お前みたいな訳わかんねぇ野郎なんて」
「ひぇぇ!そ、そんな事言わなくてもぉぉ」
アタシにだいぶ怯えているみたいだな。コイツ、本当にアタシの学年の奴なのか?
鞄の名札を見てみると、そこにはマジックペンで『20××年入学』とちゃんと書かれている。学生証とか見たらわかるだろうと思い、見せてもらう事にした。
開くと、確かにアタシ達と同じ年代だと言うのがわかった。だか、アタシには、驚くべき内容に目を疑った。
「は、はぁ!お前…」
「うぅぅ…は、ハイ…」
泣きながら返事をしてくる椿とやら。その学生証には…
「マジかよ…男…かよ!?」
「いや、見たらわかるじゃないですかぁ…。ぼ、僕、男ですよぉぉ…。制服着てるのわかりませんか?」
「いや…でもよ…」
いや!この顔立ちで男って!嘘だろ?
マジで透明感のある艶やかな色白い肌に、小柄な体型。しかも、声とかも女の子って言われたら理解できるくらいの声色。あと、立ち振る舞いも、内股気味の立ち方。なんかこう、儚げな姿だから無闇に手を出しにくい振る舞いである。そして何より、頭髪がややこしい!こんなの女子のショートヘアーと言われても違和感ねぇ髪型!前髪が長いせいか、桃色の可愛らしいヘアピンで止めてある始末。
こんな見た目だから女子って間違えてしまうのも無理ねぇだろう。
「い、いやぁ…お前さ、男だったらもっとビシッとしろよ。そんな女々しい立ち振る舞いじゃ勘違いされんだろ」
「そう…僕、よく言われるんだ。だからね!ぼ、僕、絢芽ちゃんのその堂々とした姿が憧れなんだ!それで…着いてきちゃった。ここまでね…」
「あっそう。んで?アタシになんか用があんの?」
学生証を手渡すと、涙を拭き取った椿。
「僕は、昔から女の子っぽいって言われ続けてきて、ずっとこんな自分が嫌だった。小学生の時も運動も全くダメで、勉強だけで頑張って来たけど、結局みんなの見られ方が男子っぽくないってばかり言われ続けてた。中学の時もそんな事ばっかりで、同性の友達なんて殆どいなかった。女子と仲良くしても、なんか違和感だらけで。僕は男なのに、何故か男トイレに行く度に変な目で見られたりするし。ずっと困ってて、男らしくなりたいって思う事ばかりだったんだ…」
「……あっそう…。んで?着いて来る必要があったのかよ。そんな事で」
「僕、絢芽ちゃんにどうしたら強い人間になれるか教えて欲しかった。だからずっと観察してた。ちょっと前から」
それが、アタシが符津野に告白をした後からの気になるストーカーの犯人だったのか。
はぁ…と一息吐くと、椿とやらに自分が喧嘩をしていた事を知ってるかどうか聞いてみる。答えは知っていたようだ。
実は、椿は符津野を四人のヤンキー共に絡まれていたのを咄嗟に助けたアタシの姿を見ていたらしい。そこからアタシの事が気になって、違うクラスだった事から少しでも近寄りたかったらしく、ストーカー行為を続けていたのだ。それで、アタシが『青龍組』にいたと言う噂が学校中に広まった事で、その事を調べたらしく、地元でかなりの認知高いグループの一人だった情報も知ったのだと言う。
みんながアタシの事を怯えて近寄らないのだったが、椿にとってはチャンスだったとの事。アタシにますます興味を持ったらしく、こうして着いてきたらしい。
「ぼ、僕はね、絢芽ちゃんの力にはなれない人間だけど、絢芽ちゃんみたいになりたいって言う気持ちはあるんだ。だから、僕を弟子にして下さい!」
行儀よく頭を下げた椿。そんな椿に返事を出す。
「……断る」
「え…えぇぇぇ!な、なんでさぁぁぉ!」
また瞳がうるうるしている。なんだこのヘタレ。そんなんで強くなれるかよ。
「アタシは強くなろうと頑張って来たわけじゃないからな。よく喧嘩を繰り返して来て自然とこうなったんだ。だから何も教えることなんざねぇよ」
「こ、ここまで来てそんな事言わないで!」
「いや、無理なもんは無理だろう」
アタシは呆れて、古びた施設の裏から歩道に向かう。街路には誰もおらず、空の色も橙色に染まっていた。
「やれやれ…変な奴に時間取られちまったわ」
「あっ!待ってよ!お願い!僕を見捨てないでよぉぉぉ!」
「なんだよ!しつけぇ!」
「お願いだよ!絢芽ちゃんしかいないんだ!」
「いや、そんな訳ないだろ!大体男で強い奴なんてザラにいるだろう!なんでアタシなんだよ!」
「僕、絢芽ちゃんのためならなんでもしますから!お願いだから見捨てないで!酷いことしないでよぉぉぉ!」
そうやってアタシの腕にしがみつく。
「おい!離せ!離せよ気持ち悪い!」
「一生のお願いだよ!今まで出会った事ないんだ!こんなに喧嘩の強くて、憧れた人に!ねぇ!お願いだよ!僕を見捨てないで!助けてよぉ!」
「黙れよ!いい加減にしねぇと…」
思わず、椿のサラサラな髪を鷲掴みにしてやろうとした時だった。
頭を押さえた瞬間、周りに目をやった。近所の方かもしれないお婆ちゃん、仕事帰りの奥様、それから部活帰りの中学生。後、私服姿の符津野……………
え!符津野!?
「絢芽…何してんの?」
「ふ、ふ、ふ、符津野…。いや!これは違うんだ!アタシは何も危害なんて加えてねぇ!なんもし、してないぞ!っていうか、符津野こそ何してんだよ」
「………買い物」
符津野の目つきが『怪しい!』と睨む視線になった。
「ホントだから!マジだって!コイツ、帰りに言ってたストーカーだ!アタシの事ずっと追いかけてたストーカーなんだよ!」
「章悟君!うぇーん!」
今度は符津野に抱きついていった。
近所の方々もそそくさにそこから去っていく。
「あっ…ちょっ!」
誤解されたのかも知れない。アタシがあんな振る舞いだったからか、一方的に虐めているという相関図が出来上がったかもしれない。
「絢芽…この子は?」
「章悟君…章悟君…」
「あっ、いや…そいつが、今日言ってたストーカーの奴。お前のクラスの奴らしいんだが、知ってるか?」
「………」
「うぅぅ…」
涙目の椿が章悟の顔を見つめる。
こうして客観的に見てみると、符津野よりも身長がだいぶ小さいなぁ。符津野の胸あたりに頭があるくらいだから、男子にしてはめちゃくちゃ小さい。
「……君……誰?」
それを聞いた瞬間、一瞬身体がビクッとした椿。段々と石みたいに硬直した様子が伺える。
「ぁぁぁぁぁぁ……」
死にそうな声が聞こえる。椿は同じクラスの男子に覚えられてない事からだいぶショックなのだろう。
「そんなぁ…」
「ご、ごめんね。分からないや。だって普段俺、女子とかと接する事ないからさ。アハハハハッ」
「!?」
あっ!符津野!それは多分言ったらダメな奴だ!一瞬椿からなんて言ってるのかわからない『!?』と言う反応が出たから。
「俺、君のような可愛い子と仲良くなった事ないから」
やめてあげて!!もう、彼の?彼女の?ライフはとっくにゼロよ!
なんか椿の背後に残りライフが削れていく残像が見えた。
もうなんだか可哀想に見えてきたわ!
「あぁぁぁ…〈*〉ヴォグハオドゴニャノニィィ……」
*僕は男なのに……
そう言って、椿は力尽きる。
この後、アタシは椿の事を符津野に最後まで伝えた。
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