不良少女と一人じゃない

 今日、土日を挟んで以前勝手に授業をすっぽかして、陽太と一緒に学校を抜け出して行った事について、先生方に問い詰められた。

 絢芽さんが教師達に放課後残され、話をされるのもこんな感じだったのかと思うと、非常に面倒な事である。早く帰りたいとよく聞かされた、絢芽さんの気持ちがよくわかった。

 勿論陽太も連行され、一緒に生徒指導に呼び出しを食らった。

 俺はこんな形で呼ばれるなんて思ってもいなかった。兼ねて俺も問題児入りである。


 「あーあ、なんでこんな大袈裟なんだよ先生達は。たかが授業すっぽかして抜け出しただけで。欠席扱いするだけでいいじゃんか。なぁ!」


 「うん。なんか、悪い。俺と絢芽さんの問題なのに、陽太にまで迷惑かけちゃった。本当は俺だけで良かった筈なのにね」


 「別にー。俺、中学の時も問題児扱いされててさぁ。こういう場所よく連れて行かれてた。まぁ、大したなんも反省しなかったけど」


 「陽太は、なんかわかるなぁ。こういう場所呼ばれてそうなのが目に浮かぶなぁ。俺なんて初めてで…親になんて言えばいいか…はぁ…」


 「まぁまぁ、大した事ねぇって。こういうのはそんなに向こうも気にしてないぞ。もっと問題を起こす奴なんてザラにいるんだから。教師もいろんな問題児相手にしてきたから俺達のやった事なんて、小せぇもんよ。ったく、俺らなんかより、他の悪ガキ共に注意しろよ」


 「アハハ…。でも、ありがとう。おかげで絢芽を無事安静にさせられたからさ」


 「それはよかったわ。大の仲良しの奴の為になれた事は何より誇りに思います。この俺は!」


 っと、陽太は自分の胸あたりを叩いた。


 「お前がいなかったら、周りに頼れる人がいなかったら、きっと助けられなかった…絢芽を。お前の行動があって絢芽を救えた。もう少し遅かったら、絢芽はきっと…」


 「おっと!もうそんな暗い過去の話なんてやめだ。そんな事言ったってメリットがない。それより、二人でこれからどうやっていくかを考えとけ。もう周りの事なんて気にする必要なんてないし。絢芽ちゃんも一人じゃないんだ。お前と、仲良しの二人の女子達もいる訳だし」


 「…そうだな」


 そして、生徒指導室から教師がやってきた。A4サイズの紙を二枚持ってきて、反省文を書けとの事だった。

 そして、教師もしばらくは次の授業の準備の為に職員室に向かった。


 「…反省文…」


 「いやぁ、なんで?授業をすっぽかした奴にこんなくだらない事させる訳?そう思わないか?符津野」


 「うん。若干そう思うかな?」


 「だろ?俺達一人の同級生がヤバい状況に追い込まれてたのを、本来教師がそういうのから助ける筈なのに、俺達がやったんだぜ?それなのに、なんだよ!反省文って!反省するのは、そんな教え子に向き合おうとしない教師達だろ?」

 

 ヒートアップしていく陽太に軽く相槌を打ちながら話を聞き流した。まぁ、結局お互い明日までに書かなきゃいけないから、反省文とやらを書く事となる。


 「そういや、絢芽ちゃんは?今日も学校に来てんの?」


 「いや、今日も来てない。絢芽、やっぱ中々行くのキツいみたい。幾ら俺達が居ても。一応連絡はとったんだけど、今日も休むってさぁ」


 すると、俺の顔をじっと見つめながらニコニコした陽太に『なんだよ』と聞いてみた。


 「いやぁ、もうそんな関係まで行ってるのかって」


 「そんな関係って、お前もう気づいてたんだろ?俺達付き合ってたの…」


 「知ってたよ。でもよ、三日経ってからいきなりさん付けしなくなったんだって…」


 しばらく沈黙が続く。


 「あっ、あぁ…。そ、そんな事かよ」


 「いいねぇ。もうこれは公認だねぇ」


 「公認って…いちいち煽ってくるなよ。ってか反省文!」


 「いや、反省する事なんかねぇ。お前もこんな事やらされてムカつかないのか?大切な人を必死で助けて、その結果がこんな事になるなんて。俺は変だと思うなぁ、こんなの。流石、社会経験が少ない教師というのは、俺らが教育してやりたいくらいだぜ」


 「でも、出されたもんはやらなきゃな」


 結局、俺だけなんとか知恵を絞って書き進める。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 「ありがとう。絢芽の事」


 「いや、俺が助けたいって思ったからやった事だから。まぁ半ば強引だけどね」


 「本当だよ。ウチらびっくりしたよ。学校を急に抜け出したって噂になっちゃって。そしたら、夜にアヤっちから連絡が来たからさぁ」


 「アンタが頼りになる男でよかった」


 「まぁ、俺一人の力じゃなかったけどね。二人や、俺に背中を押してくれた陽太にも感謝だよ」


 二人共『陽太』という単語に同時に『

誰?』と反応した。前の席の奴と教えた。

 二人共『アイツかぁ』という反応を見せる。

 陽太はあの後、学校に連れ戻され、こっぴどく叱られたそうだ。だが、陽太は反論して、全く教師の言う事に動じなかったという。

 二人も教師達を説得しに行った時に陽太と出会ったらしく、絢芽の為に働いてくれた事に感謝していた。


 「絢芽から連絡で、『明日にはなんとか学校に行ってみる』ってさ」


 「まぁ、しばらくはそっとしておいてあげよう。絢芽、最初は遅刻やら途中で授業を抜け出して、どっかに行く事なんて頻繁だったから、どうせ途中で学校に来るだろ」


 「まぁ、アヤっちらしいね。逆に朝っぱら遅刻せずに来るは、アヤっちにとって特別な日じゃないとない事だし」


 「そうなんだ…」


 まぁ、不良少女が真面目に早朝やってくるのは、何か特別な理由があるのは普通だろうな。何度か、朝一緒に登校した事が何度かあった。しかし、あれは絢芽が俺と一緒に登校するという、彼女にとって何か特別な日であるからこそあった事なんだろう。


 「んじゃあなぁ。絢芽の面倒宜しく」


 「うん。また」


 俺は手を振って見送った。

 俺は休み時間の残りを陽太と一緒に楽しく会話する事にした。

 だがこの時間、俺のいる教室には周りの鋭い視線が気になる。

 やっぱり絢芽と関わりがあるからという理由か。その影響で教室の隅々まで見渡しても、俺を冷たく睨む視線が跡を立たない。


 「………」


 「符津野?」


 楽しく会話していた途中で視線を気にしてしまい、俺は黙ってしまった。


 「符津野?」


 「……やっぱ人の視線が気になる…」


 「朝も言っただろ?もう気にしなくていいって。絢芽ちゃんの見方なら、そんな事気にする事なんてない筈だ。そうだろ?」


 「うん。でも、みんな絢芽と仲良くなってほしいからさ…」


 「そうだな…そこだよな…」


 次の授業のチャイムが鳴って、教師が中に入ってきた。そして、みんな何事もなかったかのように、授業に取り組んだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

学校の帰り道。今日先生から貰った反省文とやらの紙を手に取りながら、続きをどうしようと考えていた。結局残りを埋めるのになんて書けばいいのか思いつかなかった。だから、考えるのを辞めた。


 「こんなもの親に見せたくないし」


 『ピコンッ!』


一件の通知音がスマートフォンから漏れた。手に取ると、絢芽からの連絡だった。


 『今日学校でなんかアタシの事言われたか?』


そんな内容だった。『別に何も』と返信すると。すぐさま返信が返ってきた。


 『わかった』


 そしたら数秒後に付け足しにきた。


 『色々悪いなぁ。面倒だが、明日から学校行くから』


うん。絢芽もなんともなくてよかった。

 今日陽太と話していて、周りの視線やら色々と気になる所があったりした。でも、もう大丈夫だ。絢芽、君は一人じゃないよ。どれだけ周りが敵だらけだろうと、君には俺と、友達二人と、後支援してくれた陽太がいる。これだけでも心強い仲間だ。だからもう、安心して学校に来てもいいんだよ、絢芽。


 「絢芽…大丈夫だからね」


 俺は誰もいない所でスマートフォンの絢芽の連絡先の画面を開きながら呟く。そして、返信を返した。


 『うん。待ってるよ!明日!』


その後動物のスタンプを送り、スマートフォンを閉じた。


 


 

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