不良少女と俺に出来る事は…

 あの後も、絢芽さんがどこへ行ったのかを知りたい。その為連絡をしているのだが、一向に繋がる気配がしない。ずっと音信不通である。


 「……なんで…」


 俺はもう九回程コールを繰り返した。次で十回目。これ異常やっても流石に出ないと思って、電話を掛ける。やはり、さっきから同じ呼び出し音だ。


 「……絢芽さん」


 「やっぱり繋がらない?」


  隣で伺う陽太に小さく頷いた。


  「家出だったら携帯とか持ってるでしょ。普通は」


  俺は陽太に向かってそんな事を聞いてみた。


 「あぁ、自宅に置いて来たって可能性が高い気がするなぁ」


 「陽太は連絡先とか知らない?」


 「あぁ、知らないな。俺も女子達と交換したいんだが、高校からはそんな事やってないんだよなぁ。だから絢芽ちゃんの連絡先も分からない。力になれなくて悪い」


 「じゃあ、他の人達…あっ、そうだ!」


 今休み時間終了まで残り3分前だった。急いで、あの四人組の女子達に絢芽さんの連絡先があるか聞いてみる。


 「あのさ、ごめんいきなりで。誰か絢芽さんの連絡先持ってない?」


 全員お互いに顔を合わせて、『持ってる?』と話し合っている。俺は瞬時に察した。この人達はきっと全員持ってないな、と。


 「ごめんなさい。全員知らないみたい」


 なんで?同じ中学だったのならなんらかの事情で連絡先くらい持ってたりするでしょ?幾ら怖いからって、連絡先を知らないなんてあり得ない気がするんだが。そんなに仲が悪かったのか?みんな。


 「…そうか。ありがとう」


 「ねぇ、符津野君が連絡先を知りたいってなんで聞くの?持ってるんじゃないの?」


 「持ってるさ。でもさっきから十回くらい呼び出しても繋がらないんだよ」


 そしてしばらく沈黙が続いた。


 「……あのさ、こんな事言っちゃ悪いと思ってるんだけど…もう縁を切ってほしいの。絢芽ちゃんとは」


 俺はその言葉に唖然とし、一気に頭の中が『?』で埋め尽くされる。


 「えっ?なんでさ」


 「朝も言ったよね。みんなあの子の事を怖がってるって。みんなあの子から距離を置きたいの。もう、私達に出来る事なんてないだろうし」


 「みんなはそう思ってるかもしれないけど、俺は絢芽さんと距離を置きたいなんて思ってない!」


 「符津野君はそうかもしれないってわかってるよ。でも、それはあの子の事をよく知らないからじゃない?少なくとも私達、それに隣のクラスの元同中の女子生徒達もずっと絢芽ちゃんと距離を置いていたんだよ。後、同中の男子達もね。知らない人はみんなあの子に魅力を感じているけど、過去を知っている私達からしたら、もう恐怖の対象でしかないから」


 「符津野君も悪い事言わないからさ。あの子の事をもう忘れたら?」


 「そうよ。それにこんな事言うのもアレだけど…あの子と一緒にいる符津野君も段々と周りから避けられているのよ。今も」


 「…………」


 俺は教室内を見通すと、周りの男子や女子達がこちらを冷たい目線を飛ばしてくる。みんな俺の事を邪魔者として見る目で睨んでくる。


 「………みんな……」


 女子達はみんな鋭い目つきで睨んでくるし、男子達はアレ程絢芽さんに話しかけて来ては自分はいい人アピールしたり、無闇に近づいたりしていたのに、今となってはそんな表情ではなく、冷たく殺意を感じる形相を浮かべている。


 「ね?だからもう近寄らない方がいいんじゃない?もしそれでも絢芽ちゃんをなんとかしたいって言うなら、私達にもう近寄らないで欲しいの」


 「…なんだよみんな。絢芽さんは凄くいい人だ!俺は知っているぞ。みんなが思い浮かべる絢芽さんはただ昔のイメージが残っているだけの幻想だ。本当は困ってる人がいたら体を張って助けてくれるし、あんな姿でも中身は格好いい一面だってあるし、何より…笑顔が素敵なのに…」


 俺が絢芽さんと一緒に過ごして来た思い出が次々と脳裏に浮かんでくる。その思い出をここに居る生徒達に伝えたい。でも口だけでは伝わらない。本当の姿を見てほしい。絢芽さんはみんなが思っているような人じゃない!


 「ねぇ?もう絢芽ちゃんの事考えても時間の無駄だよ。もうすぐ授業が始まるから席に着きな」


 俺は結局絢芽さんの力になれなかった。俺はそのまま、黙って自分の席に向かう。

 その間、教室中に沈黙が続いた。

 俺が椅子を手につけた瞬間。目の前の陽太がいきなり立ち上がった。

 何事!?と思い陽太の様子を伺うと、陽太の顔にみんなを睨み返す怒りの形相を浮かべていた。


 「……陽太?」


 まだ辺りを睨んでいる。


 「……陽太?なぁ、どうしたんだよ」


 「符津野…来い」


 俺の手を引っ張って行く陽太。俺と陽太は真っ直ぐ教室を出ていき、廊下で次の授業担当の先生とすれ違う。


 「おい!お前達、もうすぐ授業だぞ。どこに行く」


 「………」


 「陽太…どこに行くんだよ」


 「ほっとけ。黙って着いてこい」


 「こらっ!戻って来い!」


 「…………」


 そして俺達は玄関まで行くと、靴箱を通り過ぎて外へ出る。


 「おい!待て!お前達!」


 「陽太!マズいって!」


 「クソッ!鬱陶しいなぁ!走るぞ!符津野!」


 先生がこっちに向かって早歩きしてくるのを確認した俺は、陽太に引っ張られ、勢いよく駆け出した。


 「走れ!とにかく走れ!符津野!」


 「えっ?どこに行くんだよ」


 「お前の彼女を探しに行くに決まってんだろ!」


 後ろを二人で確認すると、先生が数人程こちらに向かって走って来た。


 「おい!待ちなさい!」


 「クソッ!なんでこういう時に追いかけて来るんだよ!先生達は!」


 「おい!本当に絢芽さんを探しに行くのかよ!」


 「当たり前だろ!ここまで来たんだ!走れ!」


 俺達はとにかく門までスピードを緩めず走って行く。門を出てから振り向くと教師達の姿はなかった。そして自分の帰り道に向かって行く。

 しばらくお互い黙って走り、学校まである程度離れた距離にいた。


 「陽太!なんで!なんで今なんだよ」


 俺は陽太の肩を押さえて、足を止めるようにする。

 陽太が俺の手を振り解くと、いきなり胸ぐらを掴んできた。


 「今じゃなきゃいつ助けるんだよ!お前の彼女を!」


 「……でも、連絡もつかないし」


 「関係ねぇよ!とにかく探すしかないだろうが!なんで俺がここまでしてるかわかるか?」


 俺は陽太の熱い眼差しを見つめる。そして首を横に振った。


 「お前と絢芽ちゃんが既にできてる事くらいとっくにわかってんだよ!こっちは!ずっと俺がお前に聞いてただろ?『絢芽ちゃんとはどうなの』って」


 確かに聞いていた。俺が一緒に登校し始めてからずっと聞いて来た。最初は彼女なんかじゃないって言ってたけど、いつの間にかもうそんな事を言わなくなっていたら自分を思い出す。


 「お前…気づいてたのか…」


 「当たり前だろ!最初らへんは『彼女じゃない』って頑なに否定していたけど、段々と仲良くなっていってるのに気がついた。俺は既に出来てるんじゃないかって思ってた。そしたら最近前みたいに否定せず、付き合ってるのを肯定するような反応だったからな」


 「そうか…」


 「あのなぁ、自分の彼女が凄く辛い時に、何もしてあげないのは男として最低だぞ!遊びで付き合ってんだったら別れろ!それが、あの子の為でもあり、お前の為でもある。でもお前、さっき教室でみんながお前の事を嫌がってるって言われても、あの子の事を味方してたじゃねぇか。お前は絢芽ちゃんの事が好きだから出来た行動だろ!」


 俺は、肩の力が段々と風船から空気が抜けていくように軽くなっていった。そしてその場で情けない姿となった。膝を地につけてかがみ込んでしまった。しばらく沈黙が続く。


 「俺、なんの力にもなれなかったから、辛くて…」


 「だったら今行動するしかないだろ!今お前しか迎えに行けないんだよ!絢芽ちゃんを。今あの子は一人で苦しんでる筈だ。だから見つけたらそばにいてやれ!それだけでも、お前はあの子の力になれる」


 俺は顔を上げた。


 「おい!お前達!」


 「ヤバい!おい!符津野」


 俺は先生の叫ぶ声が聞こえたので、その場をすっと立ち上がる。

 拳に力が勝手に入った。グッと握りしめると、陽太に顔を向ける。


 「陽太。俺、迎えに行く。絢芽さんを」


 「……あぁ!お前は先に行け!」


 「わかった!」


 そして、陽太はその場に留まり自ら先生達の生贄となる事になった。

 俺は全力で走って行く。絢芽さんの家の方へ。絢芽さんの家は一度だけ教えてもらった事があったからわかる。マップで印を付けてある。そこに向かう事にした。


 「絢芽さん。どこにいるの?」


 走りながら呟いた。俺はまだまだ続く絢芽さんの家まで全力で走りに向かう。

 途中なんだか、頭から冷たい何かが落下して来ているのがわかった。


 「えっ?嘘…雨?」


 段々と雨が落下する頻度が多くなって来ている。もうすぐ大降りになりそうだ。俺は今の状況に焦りを感じたが、それでも急いで真っ直ぐ走り続ける。


 


 


 

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