不良少女と真実
俺は今日一人で登校してきた。いつもの時間に家を出たのは確かだった。だけど、今日は絢芽さんと出会わなかった。珍しい。
俺はいつも通り、一階の自分の教室に入る。
「うぃーっす」
適当に挨拶しながら教室に入ると、今日は偉く皆静かだった。俺が教室のドアを開けてから静まり返った気がしてならない。
「え?何?」
みんなが一斉に沈黙を続けると、こちらを見ながら不審者を見つけたような視線で見る。それはいつも通り女子達が、俺と絢芽さんで一緒に登校してから俺を冷たく見つめる視線だったのだが、それだけではなかった。男子達もだ。何故?俺が何かしたのかと一瞬疑問を抱いた。
「どうしたの?皆…」
まだ皆黙り込んでいる。
「……なんだよ。黙っていたら分からん。誰か説明して」
俺は自分の机に向かって歩き出す。そして陽太にも何があったのか聞いてみたが黙り込んでいた。
いつもの返しはどうした?『よっ!符津野!』っていつも元気に挨拶を交わしてくれるじゃないか。なんで今日に限って皆と同じ振る舞いなんだよ。
「なぁ、陽太。俺なんか悪い事でもしたのか?」
「いや…その、なんつぅか…」
やや目線を逸らして話してくる。ますます怪しく感じる。
「ねぇ、符津野君。昨日私達が絢芽さんに言わないでって忠告してたの守った?」
「え?あぁ、言ってないけど…」
「そう…。実はね…」
昨日俺に話しかけてきた4人の女子達がこっちに近づいてきた。名前はまだ誰が誰なのか知らん。
「ウチの学年全員が絢芽ちゃんの事怖がるようになってるの。隣のクラスの絢芽ちゃんと仲の良かった人達が、朝私達に訴えてきた。『絢芽の事をベラベラ話して悪い評判を立てようとしてるのか?』って」
「私達は符津野君にしかあの話をしてないのに、何故か過去の事を知らない男子にも情報が漏れてたんだ」
「え?俺何も話してないぞ」
男子達にも?まさか!
陽太が昨日昼休みの時に、俺に密かに話そうとしていたのと、放課後にその続きを話してもらおうとした時、はぐらかすかのように帰っていったのも、この四人の言っている事に繋がっているんじゃ。
「陽太…お前なんか知ってるのか?」
「………あぁ。一昨日にわかった。すまなかった…。昨日の放課後にでも伝えとかなきゃって思ったんだけど、お前と絢芽ちゃんとの関係を壊したくなかったから言えなかった…」
「絢芽さんの過去の話の事か?」
陽太が目線を合わさず軽く頷いた。
「それでね、先生達が絢芽ちゃんに学校に来ないでくれって連絡したんだ。絢芽ちゃん家で話を聞きに行くらしいから」
「昨日言ってた話を?」
4人の女子達軽く頷いた。
「そんな…でも誰もその事を話してないんでしょ?なんで?」
「それが分からないからこうして聞いてるの。もしかしたら他の人が言ったのか、私達の情報が漏れたか、アンタが言ったか」
「もう、今私達の学年だけモーニングタイムなしで自習って形になってるの」
すると、教室のドアが開き、そこには二人組の子ギャル生徒がいた。二人とも絢芽さんに似たファッションをしており、スカジャンではないが、灰色のパーカーを着用し、その下に制服を着ていた。しかもルーズソックスとかいう靴下を着用している、若者のギャルって感じだった。
「ねぇ?符津野っていうのいる?」
「俺だけど?」
俺は二人の方に向かって行く。よく見ると、手に派手なマニキュアもしている。後、両耳にピアスも。おまけに髪の色も絶対に染めているとわかる茶色だった。いかにもギャル化した生徒だ。
「……何?」
「アンタ、絢芽の過去の事をあの4人から聞いたらしいじゃん」
「あぁ、その事を今話していたところだよ」
子ギャル女子二人が軽く睨んでいる。
「ちょっとウチらで話そうや」
俺は教室を出る事にした。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
連れて行かれたのは屋上階だった。屋上のドアは絢芽さんが壊して以降、大きくバツ印でテープが貼られており、立ち入り禁止になっていた。だからその手前の所で二人に囲まれている。
「本当にアンタ、チクってないの?」
「うん。俺も流石に誰にも言いたくないよ。絢芽さんの過去の事なんて」
「スマホで誰かに情報交換とかも?」
「そんな事するわけないでしょ。俺も昨日家に帰って、こっそり調べたんだよ。事件のこと。かなり酷い事件だったらしいね。こんなの知らない人に教えたら、絢芽さんの居場所がなくなってしまうってなるよ。だから誰にも言えるわけないじゃん」
「まぁとにかくさ、ウチらもアヤっちの力になりたくって。そしたらこんな騒ぎで」
「うん。俺もだよ。絢芽さんには助けられた恩がある。あの人が元気な姿でいて欲しいって思ってるから」
絢芽さんが帰りにはしゃいでいた光景。次の日から気持ちを変えて、イメチェンしてきた景色。そして、行き帰りでチェーン店のご飯を一緒に食べたり、昼休みに一緒にご飯食べたりと絢芽さんが喜んでた姿が何より俺にとって好きな時間だった。だからなんとかしたい。今はそればかり考えている。
「絢芽はね。聞いたかもしれないけど、青龍組って言う学生代若者が集うワルの仲間だった。その連中はかなり地元で評判が悪くて世間からはギャング並の存在って言われてた程だったらしい。だから学校にも行かず、絢芽はずっとそこにいたせいで、生徒達と仲良く慣れなくて、居場所がなかったんだ。それでその事件が起きて、更に生徒達だけではなく地域住民からも辛辣な目で見られる日々だったらしい。それが嫌だったってさ」
「アヤっちをこれ以上辛い目に遭わせるなんて、一体誰が…」
「一体俺達はどうすればいいんだ…」
俺は深く悩んだ。だが、解決案が何も浮かばずにいた。
「まぁ、アヤっちの彼氏さんが切実そうな人で良かった」
「あ、ありがとう……って、なんで彼氏って事!」
「いや、アヤっちから既に聞いてるし」
「あぁぁ絢芽さんったら!」
「何でアンタがキョドってんのさ。ウチらはともかく、アンタ友達とかに伝えてないの?いつも一緒にいる、前の席の人とかに」
「いや、言ってないけど。だって皆に言うと俺、煽られたりして、なんか絢芽さんのイメージを壊しちゃう気がして」
「いや、何それ?それでも男かよ。ビシッとしなよ。その考えがアンタの言った通りになっちゃうんだから」
俺はその場で、二人に軽く謝った。そして、スマートフォンで時間を見ると、本来なら一時間目が始まっている時間になる。
「じゃあ、一応自己紹介だけしておく。アタシは
「ウチは
「ありがとう。俺、知ってるかもしれないけど、符津野章悟」
三人で挨拶を交わした後、皆教室へ向かった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
お昼休み。この時も絢芽さんの事が脳裏に焼き付いて離れなかった。購買に行ってもいつもならパンをいくつか購入するのだが、今日は一つのみ。
「符津野、今日どうした?体調悪い?」
「ううん。ただ…絢芽さんの件でね」
「……そうか」
「なんか悪いな。お前まで気にかけるような事になって」
「悪いのはこっちの方だ。お前にずっと今日言われた事黙ってて」
珍しく教室ではなく、体育館の入り口で今日は食事をしていた。教室内では食べ難い為である。一人で食べようとしたが、気にかけてくれた陽太と一緒だった。
すると、正面から誰かがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「あっ!符津野!ちょっとこれ!」
俺はその場に立ち上がって、何事という顔で二人の子ギャル生徒を見ていた。
「これ…絢芽からなんだけどさ」
環菜さんのスマホから連絡共有アプリの内容を顔に近づけて見せられた。
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アヤメ:ごめん。迷惑かけて
いいよ別に。何か聞かれた?:カンナ
アヤメ:高校には行かせてくれるって
うん。よかったじゃん:カンナ
アヤメ:いや、もう行きたくない
なんでさー(泣:カンナ
アヤメ:センコーから言われた
何を?:カンナ
アヤメ:アタシの身に起きた過去の事件の事
うん:カンナ
アヤメ:みんながアタシに出来るだけ関わらないようにするって言われた。クラスの奴全員をって
何それ。酷っ:カンナ
アヤメ:アタシやっと学校に行って楽しくなってきたって思った矢先にこんな事言われてさ…だから行ってもアタシだけボッチになるから
そんな事ないよ!私達がいるじゃん!:カンナ
アヤメ:それもできるだけやめろとさ、高校に行く意味ないじゃん アタシ
何それ。おかしくない?:カンナ
アヤメ:もうアタシなんも楽しくなくなったから行きたくない。っていうか行かない
心配すんなって。アタシと如月が一緒だからさ。センコーの言うことなんて当てにするな。また学校で遊ぼうよ :カンナ
アヤメ:ありがとう ホント迷惑ばっかりかけてゴメン
待ってて。今日帰りに絢芽の家で相談に乗るから :アヤメ
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だがこの後既読がついてない。
「これ…」
「丁度、一時間目終わった後にやり取りしてたんだけど、それから一切連絡来なくなって」
「そしたらうちの方に電話がかかって来た」
陽太がゆっくりと立ち上がったのが視界に入ってきた。そして一緒に話を聞く。
「電話でなんて?」
「アヤっち、どこか遠くに行きたいって。その後、もう探さないでって言ってて」
「……家出…。それで今は?」
「分からない。それっきり音信不通なんだよ」
俺は、その場に硬直するかのように静止する。頭の中が何も思考が働かず、手にとっていたパンを掴む握力も落ちている。
パンを落としたのを三人が見つめる。陽太は『おい』と反応を伺っているが、相手も出来ない状態だった。
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『不良少女と真実』を読んでいただきありがとうございます。
この続きなのですが、この話に登場した『青龍組』にいた時の紫獅蔵絢芽の過去を知る、サイドストーリーを書かせていただきますのでそちらをご覧ください
(一応、サイドストーリーなしでも楽しめるようにします)
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