不良少女と噂

 「符津野。先に行っておくけど、私達から聞いたとか言わないって事を約束して。そうじゃないと話さない。話したくないから」


 どうしてそんな注意事項を同意しなきゃいけないのか。余程俺にとって重要な話なのだろう。

 因みに絢芽さんには、今から言う事を絶対に言っていいという許しを得ていないのだろうから、どれくらい経ったら言っていいかも聞いてみる。だが、『そんなんだったら教えたくない』と注意される。


 「本当に言わないでよ!」


 「分かりました…。できれば手短にしてくださいね。さっさと帰りたいんで。俺」


 そして全員俺に向かって真剣な目つきで見てくる。なんだか先生に呼び出しされた時の気分だ。


 「符津野君、あの子がいた中学って知ってる?」


 俺に教室出る前に話しかけてきた子が喋り出した。


 「いや、何も」


 「××中学校っていう所」


 「一応私達と同じ学校だったの」


 聞いた限りは初耳の中学だ。


 「いや、知らないなぁ。それが絢芽さんの通ってた中学?」


 俺の質問にみんな小さく頷いた。


 「じゃあこの事は当然知らないよね…」


 え?何?いきなり暗いトーンにならないで。なんか聞きたくなくなってきたんだけど。


 「あの子が元『青龍組せいりゅうぐみっていう不良組の一員だったのも知らない筈。一応地元では『絶対に関わったらいけない連中』って言われてて、やってる事って言うのが、殆どどっかの族との抗戦やどっかの国のギャング紛いのような事してる連中なの。犯罪行為なんて普通にあって、地元の警察も取り締まるのが難しいくらいの規模の連中なの」


 あぁ、だからあんなに強かった訳か。俺を助けてくれた時、4人のチンピラ達から余裕で倒しちゃって、喧嘩慣れしてた。なるほどねぇ。いわゆる『族』っていうのにいた不良かぁ。


 「んで、あの子がその組に所属していた時に、地元で最悪な事件があったんだ」


 俺は、その言葉にさっきまでの絢芽さんが強かった事情で納得していたのが、直ぐに脳内から消し去っていった。


 「え?最悪な事件?ヤンチャして学校内で喧嘩が発生したとか?」


 「そんなの優しいくらい。そんなのとは比じゃないよ」


 「え?もっと危ない事件って事?」


「………………‥」


 みんなしばらく黙り込んだ。そして一人が沈黙を破って話す。


 「………殺害事件だよ。あの子が入っていた不良組内で、仲間が殺されたんだ。それが誰なのか知らない。ただ、私達が常に危険だと知らされていた連中だったのがだよ。丁度中学2年の終わり頃、あの子の不良組がなんらかの殺害事件があって、その話が地元中に広まった」

 

 「それでウチらの中学校に警察が駆けつけて来た事があったの。私達のいた中学の生徒達の誰かが絡んでるって。もしかしたら不良組内で殺したのかもっていう噂もたってた」


 「その不良組にいたのは、絢芽さんだけなの?」


 「いや、先輩達なら大勢いた。でも私達の同級生にはあの子と後3人程いた気がした。でも、その3人が途中で行方不明になった。それも事件の後にね…」


 「そんな恐ろしい事があったんだ。知らなかったよ…」


 「そう。それでみんな、絢芽さんと一緒に登校してる符津野君をクラスの大半が見てたでしょ?」


 確かに見ていた。睨んでいた。ゴミを見るような目で。そうか、この事と絡んでいたのか。


 「あれはね、そんな過去がある絢芽さんにみんな近づくのが怖くて。それで符津野君がいつも一緒に登校している時、何か『青龍組』に入ってた絢芽さんと関係ある人物なんじゃないかって疑ってたの。もしそうだとしたら近寄る事が出来ないから」


 なるほど。アニメオタクの俺を三次元の人物と付き合う事に納得がいかなかったとか、みんなの注目の的である絢芽さんと釣り合わないから馬鹿にしていたとかそんなのではなかったのか。まぁ、後者だった場合はぶっ飛ばしたくなるけど。

 っていうか、『近寄る事出来ないから』とか言ってたけど、いずれにせよみんな絢芽さんと絡む前から俺に近寄る事ないじゃん…。もう絢芽さん関係ないじゃん…。


 「わかったよ。色々教えてくれてありがとう。また個人で調べてみる」


 そういうと、さっさと靴を履き替える。


 「あっ!符津野じゃん。まだ帰ってなかったのか?って何?ハーレムタイムだったの?」

 

 一斉に話しかけてきた陽太の方に目線が行く。

 さっきまで絡んでた女子達が、沈黙しながらそそくさに逃げて行くように去っていった。


「えっ!ちょっとみんな!」

 

陽太はその姿を眺めた後、俺に向かって不敵な笑みを浮かべる。


 「早速浮気ですかぁ?」


 「違うわ!浮気じゃないし!ちょっと話してただけだよ」


 「話してたって、あんだけの人数対一人で話すって、どんな内容だよ!なぁ?彼女なしでハーレム気分って、一体どんな内容なんだよ!ってかどの娘が可愛かった?」


 「いやハーレムじゃないから!後、可愛かったとか言われても顔とかあんまり見てなかったし。俺がいつも見てるのは絢芽さん一人だけだから…」


 「……………絢芽さんだけ?」


 しまった!余計な事を口喋ってしまった!あっ!そうだった。まだ俺、絢芽さんの彼氏になったってコイツにも伝えてなかったんだ。まぁ、でも今伝えたら変な風に話が広まってしまう。こういうゴシップネタは俺ら世代だろうと好きだからなぁ。


 それと伝えにくい理由がもう一つある。さっきの殺害事件が起きてた件だ。コイツも絢芽さんが入っていた、不良組の内容は把握しているのだろうか?


 「お前、一回絢芽ちゃんに屋上まで呼び出しがあった事なかったっけ?あれ以降仲いい感じだよな?うーん?」


 「あぁ、そんな事は…ハハッ」


 乾いた笑みで誤魔化してみた。


 「まぁ、俺は陰ながら応援しておくぜ!」


 俺にサムズアップしてきた。そして俺の肩を叩いてきた。


 「まぁ、絢芽ちゃんも色々あるけど、仲良くねぇ」


 陽太が急に声のトーンが低くなっていた。

 なんだ?その意味深な台詞。まさかコイツも、絢芽さんの過去を知っていたとか?


 「な、なぁ陽太?」


 靴を履き替えながら『何?』と返事をする陽太。

 

 「今日の昼休みの話の続きなんだけど…」


 「え?あぁ、あれか…今日じゃなくて明日話す。じゃあな」


 何か怪しかった。何か隠してら様子。まさか本当に絢芽さんの過去の事を知ってるとかではないだろうか?


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 俺はスマートフォンで帰りに新作アニメの情報を調べていた。ずっと人気ラノベからのアニメ化の情報が専用サイトに流れてくる。


 「あぁ、これ読んだ事ないなぁ。アニメ化する前に読みてぇ」


 色々と調べていると、あっと言う間に家付近まで来ていた。

 俺はついでにもう一つ調べたい事があるので、それを検索エンジンに入力する。


 『××中学校_事件』


検索エンジンから出た情報。一番上からスクロールして行く。そして俺は下の方で、気になるのが書いてあるのを見つけた。大きな文字で『他の人はこちらも検索』と書かれた関連検索ワードだ。そこにあったのは…


 ○○区 若者滅多刺し殺害

 ○○区 青龍 殺害事件

○○区××中学校 青龍 リンチ


「これって…」


 今日聞いてたやつに関連する話題。

 本当だった。さっきのアニメ関連の情報が頭の中に残っていたので軽い気持ちで調べていたら、急に物騒なワードばかりがそこに並べられていた。俺は、恐る恐る一番上から順番に見ていく。

 

 途中気になったのが『画像』の文字だ。画像検索したら何が出てくるのかが気になった。だから俺は検索の文字をタップする。

 そこに出てきたのは、地方新聞だ。その記事を開いて見てみると。


 『○○区を脅かす不良達による抗争。そこで起きた惨殺事件』


ダメだ。なんか閲覧するのが嫌になってきた。だか、俺は自分に負荷をかけ、他の記事もタップする。


 もう長い間見た。あまりにも衝撃的だった内容ばかりだったので、つい足が止まっていた。


 絢芽さんの過去。そしてその裏には深い闇が隠れていた。

 俺はもう色々とメンタルが限界まで達していたが、どこか調べ尽くさないと気が済まないモヤモヤ感が残っている。家に帰って、このモヤモヤ感を消費する為に真実を知ろうと自分専用パソコンで調べる事にした。


 


 

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