不良少女と一緒に
紫獅蔵絢芽は隣クラスの女同級生であり、不良だ。せっかくの美貌とクールな印象が台無しになっている。
学校でスカジャンって…。絶対校則違反で教師になんか詰められるに違いない。しかし、彼女は今日もその格好だ。下の方は普通の学ランのスカートなのだが、これも校則違反だろ!っと言わせる程の丈の短さ。まぁ、今少しばかり暑い気温なのはそうだけど、別に短くする必要はないだろって思う。そもそもこの時期にスカジャンなのも少しおかしい気もするが…。
俺は屋上に呼ばれたのをずっと覚えていた。だから今向かっている…。正直、めっちゃ怖い。普通に昨日災難があって、今からも何か起こるに違いない。めっちゃ怖い。不良だし。何されるかわからないし。
足が重く感じる。行きたくない…。拒絶反応なのだろう。そして身体が怠さを物語っているかのように力が入らない。
とにかく行かないと何されるか分からないから、無難なのは行く方だろう。だから俺は、全体の疲労を背負って屋上に向かう。
屋上のドアまで来た。あぁ…いっその事今日『忘れてた!』とかなってくれないかなぁ。
俺はゆっくりと屋上出入り口のドアノブに手を置く。そしてゆっくりとレバーを下げる。
………下がらなかった。閉まってるじゃん。何度もトライしたけど、下がらない。
何これ?無駄足?その前に屋上に絢芽さんいるの?もし自分から呼んでおいて、鍵を閉めたのなら先生呼ぶよ?時間を無駄に削られたから。
俺は少しばかりイライラした感情をドアノブを壊す勢いで何度も下げてみる。やはり閉まってるみたいだ。
まさか本当に『忘れてた!』なのか!?
「閉まってるんですけどぉぉぉ!」
ドアは開かないし、不良に呼び出しくらうし。どんどん苛立ちが増して行った。
もう帰っちゃおうか。俺はそう判断した。
すると屋上へ向かう階段から誰かが昇って来る音が聞こえる。
「あっ、符津野…」
「え?もしかして遅刻?」
「うっせぇよ。センコーに呼び出しあったから遅れたんだよ!」
向こうがめっちゃキレてる。何でキレてんの?キレてんのこっちもなんですけど。だが、少しばかり怖いので反抗するのはやめよう。
「あっ、そう…それはごめんなさい」
「連絡先とか持ってないから、何も出来ないし。とにかく早く開けろ」
『ろ』がめっちゃ綺麗かつキレ口調の回った巻き舌で言ってきた。
俺はドアが開かない事を説明する。
「んなもんこうすりゃいいんだよ」
そう言うと、ドアの前に絢芽さんが立った。そして昨日、俺に絡んできた奴らに一発お見舞いさせた、キックをドアに向かって再現するかのように蹴った。そして開いた。
流石不良。めっちゃ喧嘩に慣れてるからか、力が強い!しかも簡単に学校の物まで器物破損にさせた。度胸あるなぁ。
俺は、絢芽さんを少しばかり感心した後、屋上に足を踏み入れる。
少しばかり空が暗いトーンの色合いで広がっていた。だが、気温はまだ暖かい。よくスカジャンの格好で居られるものだ。流石絢芽さんだ。
「あのさ、話って何?」
俺は絢芽さんの後ろから問いかける。屋上の景色を眺めながら一息ついた絢芽さんは、俺の方に顔を少々向けた。
「昨日の…事」
「あぁ、昨日はありがとう。凄かったよ!まさか絢芽さん、ここの高校の生徒だったなんて全然知らなかったんだ。みんな絢芽さんの話題で盛り上がってるけど、俺、異性とかと関わりなんて全然持った事ないからわかんなかったんだ」
絢芽が俺の方に正面を向く。
「異性と関わりないっ!本当か?それ!」
急にどうした?凄く俺の話に関心が湧いたらしい。
「本当だけど?俺男子としか基本遊ばないからさぁ。しかも異性からモテたこともないし、みんな好きな人に何かプレゼントあげたりしてるらしいけど、貰った事ないし。っていうか、会話すらあんましないし」
するといきなり、何か喜びを表す表情になったのが見えた。俺、何も相手を嬉しくさせる言葉とか言ってないんだけどな。ただ、俺の非モテ体験を語っただけなのだが。
そんなに俺の非モテ話が面白いのか?馬鹿にしてるのか?流石不良だなぁ。俺の勝手な偏見だが、不良少女ってヤりまくってるっていうイメージなんだが。
俺が絢芽さんに向かって首を傾げると、向こうから急に慌てた表情と態度で手を高速で振る。
「いや!あれだからな?アタシは別にお前の話を聞いて、馬鹿にしたとかじゃないし、喜んでる訳じゃないからな!変な憶測はやめろよ」
「あっ、そうなの?まぁ、別になんも気にしてないから」
俺は笑顔で絢芽さんに返す。
絢芽さんはその空気を整えるかのように、ゴホンッ!と咳を鳴らす。
「あのさ、符津野ってアタシと帰り道一緒だし。丁度いい機会だと思ってさ。その…」
急に顔を背けた。
「その…、…ない?」
「え?ごめんなさい。全然最後の方しか聞き取れなかった」
「その…、…ない?」
「ごめん…本当に聞こえないです」
俺がゆっくりと近づいて、耳を傾ける。結構絢芽さんの顔近くまで持っていった。
「なんて言ってたんで…」
「今日!一緒に帰らない?って言ってんだよぉぉぉぉ!」
マジで鼓膜破ける5秒前。となる所だった。
大きいよ。めっちゃ大きいよ。聞こえてるよ。最初からそれくらいで言ってよ。いつも音楽聴く時ボリュームどんだけ上げながら聴いてんの!って言いそうになる。
っていうか少し遅れたけど、帰り道一緒だったんだ…。
「わかりましたよ。じゃあ一緒に帰りましょう。下校しましょう。もうそんな至近距離で大声出さないでよね」
すると絢芽さんは、子供が欲しかったプレゼントを貰った時のように、満面の嬉しみを表現するかのような表情に変わった。
そんなに嬉しかったのか。ただ一緒に帰るだけなのに。
俺は絢芽さんが出入り口に向かって、無邪気に走っていくのを『やれやれ』と肩の力を抜きながら呟く。そして俺もその場を去る事にする。
しかしよかった。なんか嫌な事でもしたかと焦ったがなんともなかった。別に一緒に帰るくらいならこんな所呼ばなくても良かったのに。ドアぶち壊さなくて済んだのに。帰る時間も早められたかもしれないのに。
俺は絢芽さんの満面な笑顔を見て少しばかり心が軽くなった。彼女がこんな表情見せるなんて。彼女は心底嬉しいんだろうな。子供のようだと思った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
帰り道。俺の登校する道は何せ坂が多い。昨日絢芽さんから助けられたコンビニを過ぎた辺りから、急な坂道となる。この道は行きは全然問題なくて降りるだけなのだが、帰り道が大変なのだ。
家が密集した俺の地域。どうやら絢芽さんも同じ道らしい。
俺が坂道に沿った階段を昇って行くと、絢芽さんは2段飛ばしではしゃいで昇って行く。楽しそうな絢芽さんだ。こんな姿を何故学校では見せないのか不思議に思う。
絢芽さんは淡々と子供が階段遊び楽しそうに遊んでいるのを下から見上げる。
「絢芽さん。いつもそんな風に学校ではしゃがないんですか?」
絢芽さんの足が止まった。
「いや、だってよ、こんな風に楽しく帰れる仲間なんていなかったから…」
そうだったのか。何があったか知らないが、絢芽さんも色々あったのか。不良少女って確かにこんな風に帰るなんて想像出来ないし。もしかしたらこういうのを望んでいた過去もあったという訳かな?
俺は、その後も絢芽さんとの距離を縮めるように、階段を上がって行く。
「絢芽さんはめちゃくちゃ可愛いんだし、みんなから綺麗って言われるくらいなんだから、俺と違って、同性だけじゃなく異性の友達とかいっぱいいると思ってた。その…まぁ、人それぞれ好みとかあるかもしれないけど、絢芽さんスカジャンを着用してるじゃん?まぁ、好みならいいんだけど、女子でこんなに魅力的な人がそれなりの格好とかしたら絶対にそっち方がいいって思うだよ。俺はね」
「……とう」
また何か言ってる気がした。俺は耳を傾け…いや、辞めておこう。もっと距離を詰めた方が良さそうだ。
俺は階段を昇って、後一段上がれば絢芽さんと並ぶ段まで来た。
「どうしたんですか?」
「……ありがとう……」
「いや、礼も何も。俺、本音を言っただけだし。本当にそう思ってるし。絢芽さん、もっと、その…不良みたいな感じをやめて、普通の制服姿で居てもいいんじゃないかな?せっかくの綺麗な姿が勿体無いよ」
絢芽さんが急に顔を下に向けた。なんだか、体が小刻みに震えている気がする。なんだか一瞬表情見た時、顔が赤く火照ったように見えた。
あっ、さっきから俺めっちゃ褒めちぎるような事言ってた様な気がする。
しまった!言いすぎたか!もう!女慣れしてないのがこんな所で出てしまうなんて!なんていったら平常心に戻ってくれるんだろう。
いや、不良少女ってこういうのは『あっそう』とか『ほっとけ!これがアタシなんだ』とか言って自分の流儀を貫くイメージがあったから、こんなの平気かと思ってた。
どうしよう…さっきからどんどん小さくなっていってる気がする。
『全部冗談だよ!』とか?いや、それは失礼だな?殴られそう。
じゃあ、『ごめん!言い過ぎた!』って言おうか?いや、なんか通用し無さそう。
「な、なんだよ急に」
「えっ!あっ、いやその…まぁ、今の絢芽さんもいいと思います。絢芽さんらしさがあってさ」
「まぁ…アタシはアタシだから。アタシの人生なんだから別にいいじゃんって」
俺はその言葉にグッとくるものがあった。それは、目の前の少女に昨日の事もあり、何かしらの格好よさが投影されているからっていうのもあるかもしれない。
自分の人生か。流石だなぁ。自分を貫き通す生き様が不良って感じ。女なのに格好いい!
俺は、絢芽さんの事を見直した点が3つある。自分の意思を強く持ち、貫き通す所。度胸がある所。そして、どこか可愛らしさもある所。
俺はそんな絢芽さんを一人の立派な人間、尊敬できる人間として、これからも接していこうと心に決めた。
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