第4話 笑って、泣いて、また笑って
倉茂工業から一真達はアイビーへと向かった。
特にこれと言って用事はないのだが一真にとっては我が家なので帰る事にしたのだ。
アイビーに戻ってきた一真は穂花に出迎えてもらい、そのまま自分の部屋に桃子と桜儚を連れて入る。
「もう自然と貴方の部屋に上がってるわね」
「これは結婚間近だね、桃子ちゃん!」
「そこの女狐も同じですけど?」
「アレはペットだよ! ちょっと賢いだけの!」
「酷いわ~。でも、貴方のペットなら別にいいけどね~」
「飼われる事自体に何の不満もないんですか……」
「今も似たようなものだし、割と自由にさせてもらってるから不満はないわね~」
実際、桜儚は一真に異能を封じられているが生活に支障はない。
そもそも洗脳は普段使いするような異能ではないのだ。
よほどの事がない限りは洗脳を使う事はないだろう。
今は、アイビーのもとで従業員と一緒に働いており、子供達のお世話をしている。
給料もしっかり発生しているので不満は一切ない。
それにだ。一真の傍にいれば退屈しない。
ならば、昔のように国家転覆など企む必要はない。
一真がいれば刺激的な日々を送れるのだから。
「そろそろ、私は帰ります」
「え!? 泊っていかないの? 桃子ちゃん」
「そんな用意はしてませんし、ご迷惑をおかけするわけにはいきませんから帰ります」
「そんな! 別に俺は気にしないよ?」
「貴方がしなくても私がするんです。それではまた後日会いましょう」
さっさと帰っていく桃子を見送り、一真は桜儚と二人きりになる。
妖艶な美女と二人きりだが一真は普段と変わらず、桜儚と暇つぶしにゲームを始めた。
「もう二月も終わりね~」
「そうだな。もうすぐ三月だ」
「学生なら春休みかしら。羨ましいわね~」
「まあ、休みの間は俺もこっち来て手伝いするから、そこまで暇じゃないがな」
「卒業式があるんじゃないの?」
「ある。一応、俺は生徒会長だから在校生代表として卒業生に送辞を送るんだ」
「ふ~ん。考えてあるの?」
「原案渡された」
「随分と信頼されてるわね~」
「歴代で最も破天荒な生徒会長とすでに名高いからな」
「流石としか言いようがないわね~」
破天荒と言われているが一真がやらかしたのは勝手に合宿先をハワイに決めた事だけだ。
しかし、生徒会長決定戦の閉幕式で女子生徒全員ミニスカを強制しようとした事が切っ掛けで破天荒呼ばわりされている。
実行したわけではないのだが、いつかまた何かやらかすのではないかと不安と期待をされていたりするのだ。
「しかし、もう一年も経つのか」
「あっという間だったんじゃないの? 貴方の場合は」
「そうだな~。入学式当日にトラックに撥ねられ、異世界で勇者として魔王と戦い、帰ってきたら早々テロに巻き込まれ、新種のイビノムが学校を襲い、挙句の果てには宇宙人とも戦ったんだからな。波乱万丈すぎるぜ!」
激動の一年だった事は間違いない。
入学式当日にトラックに撥ねられて異世界へ召喚され、帰って来たら異世界で得た魔法はそのまま。
有難い事だったが馬鹿な妄想で正体を隠し、危うく家族を失いかけるも圧倒的な力を見せる事で全てを捻じ伏せ、最後は地球も救った。
本当に波乱万丈な一年だった。
「まあ、来年度は流石に今年度程じゃないだろうよ!」
「そう言う事を言うと、来年はもっと大変な事になるんじゃない?」
「……そうだな。口は禍の元とか言うし、何も言わないようにしておこうか」
「それが賢明ね~」
流石に宇宙人が攻めてくるような事はもうないだろう。
星間連盟に登録はしていながパピポ星人と友好和平条約を結んだのだ。
地球を攻撃するという事は、パピポ星人に唾を吐くのと同義である。
よほどの愚か者ではない限り、地球に攻めて来る事はないだろう。
「ま、平和が一番だ」
◇◇◇◇
時は経ち、第七異能学園は卒業式の日を迎える。
一真も今日だけは珍しく、真面目にしており、生徒会長としての職務を全うしていた。
「それでは在校生代表、皐月一真君による送辞です」
卒業式はプログラム通り、順調に進み、一真の送辞となる。
在校生代表として一真は壇上に上がり、卒業生に送辞を述べるのだが渡されていた送辞の言葉が書かれていた紙を一瞥し、卒業生に視線を戻す。
そして、息を大きく吸うと一真は紙を盛大に破り捨て、マイクを片手にして不敵な笑みを浮かべた。
「あ~あ、やっぱりやっちゃったか」
「そうですね。一真君が大人しくするはずがないですもんね」
「先輩達の卒業式だってのに、アイツは……」
「それが一真だから」
ちゃんと一真がプログラム通り、送辞の言葉を読み上げるかどうか見守っていた生徒会一同はやっぱりかと肩を竦めていたが、その表情は柔らかかった。
最初から、大人しくしているはずがないと分かっていたから。
一真が大人しく渡された言葉をそのまま読み上げるはずがないと確信していたのである。
「一真君らしいね~」
「笑ってる場合じゃないでしょ。保護者の人達が驚いて固まってるじゃない」
「アハハハ。まあ、大丈夫だよ。一真君だし」
「全く……。困った後輩よね」
卒業生である隼人と詩織は一真の非常識さに呆れているが、笑って許している。
ほんの少しだけの付き合いだが一真がどのような人間かをよく知っている。きっと、普通の卒業式にはならないだろう。
「在校生代表、皐月一真! まずは卒業生の先輩方! ご卒業おめでとうございます! 本来であればもっと相応しい言葉を贈るのでしょうが、生憎私はそのような人間ではありません! この一年間、最上級生として後輩達を導き、背中を押し、第七異能学園を牽引してきた先輩方には多くの感謝を! 今日という良き日に新たな未来に向かって羽ばたいていく卒業生の先輩方に祝福を! 先輩方の明日が光り輝く事を願って賛美を! そして、後輩から最後の贈り物として……俺とバトルロイヤルだー!!!」
『その言葉を待っていたーっ!』
戦う準備をしていたのか、卒業生達は制服の下に戦闘服を仕込んでいた。
上着が宙を舞い、戦闘服に身を包んだ卒業生達が不敵な笑みを浮かべている。
「な、なにーっ!?」
戦う準備の時間を与えようと考えていたのに、すでに準備万端だった事に一真は驚きの声を上げる。
「一真君。短い付き合いだけど、君の事は良く知っているよ」
「隼人先輩! 貴方の仕業か!」
「そうだよ。きっと、君は卒業式に何かを仕掛けてくる。そう信じて皆に準備をさせていたのさ」
「ふっ! 流石は一番弟子だ! よく分かってるじゃないか!」
「別れを惜しみ、涙を堪えて、新たなる一歩を踏み出す為の卒業式でも十分だけど……その前に生意気な後輩を指導するのもいいかと思ってね」
「なるほど。本来であれば卒業する先輩方に花を持たせてあげるのが後輩の役目なんでしょうが……最強の看板を背負ってる身としては負けられませんね!」
「その看板を今日引きずり降ろしてあげようじゃないか!」
卒業生達が吠えると同時に壇上にいる一真に向かって飛び掛かっていく。
次々と襲い来る卒業生を一真はいなしていき、最強の看板を守る為に戦う。
在校生と保護者が目を丸くして固まっていたが、目の前で始まる乱闘に正気を取り戻し、今すぐ止めるように教師陣も一緒になって割り込むが、最終的に戦える者達は全員で一真に挑んだ。
数十分後、屍の山の上に一真が立っていた。
見事に襲い来る挑戦者達を倒したのである。
卒業生、在校生、教師、保護者さえも関係なく、なぎ倒していた。
後でクレームが来そうなものだが、戦闘科の教師でさえ止められなかったのだからどうしようもない。
とはいえ、流石に非常識過ぎるので学園側にはクレームが入り、一真も後程厳重注意を受けるだろう。
「ワッハッハッハッハ! 俺に勝とうなんざ百年早いわ!」
「分かってたけど、容赦ないね……」
「少しくらいは先輩に花を持たせようって思わないのかしら……」
「俺がそんなたまに見えます?」
「「全然」」
「でしょう? では、改めてご卒業おめでとうございます」
別れを惜しみ、涙を流す感動の卒業式でもよかったが、呆れて、笑って、最後はやっぱり泣いて、でも、また笑って未来に向かって一歩を踏み出せる卒業式だった。
この一年多くの困難に見舞われたが第七異能学園の卒業生は、無事に卒業式を終えるのであった。
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