最終話 何はともあれ、お疲れ様!
◇◇◇◇
第七異能学園の卒業式は終わり、在校生は春休みを迎えていた。
一真はアイビーに戻り、桜儚と桃子と三人で子供達の世話をする事に。
戦闘科の生徒は基本的に二通りに分かれる。
春休みを使って実力を高めようと訓練に励む者。
一年の疲れを癒す為に寮から実家へ戻り、休息を取る者。
この二通りに分かれるようになっており、一真は後者であった。
もっとも、一真は家に戻っても鍛錬を怠ったりはしない。
「子供の数、増えた?」
「そうね。年末にあった大規模なテロで親御さんを亡くした子達がいてね。うちでも何人か引き取ったのよ」
「そっか……」
「貴方が気に病む事じゃないわ。貴方は自分の役目を十分に果たしたんだから」
ほんの少しだけ後悔している。
自分には力がある。
それも宇宙人すら脅威に感じている力が。
もしも、自分が力を隠さず、最初から今のように振るっていればイヴェーラ教がテロを起こすのを未然に防げたかもしれない。
そう考えると一真は自分の身勝手な理由のせいで多くの悲しみが生まれてしまったと悔やんでしまう。
だが、穂花はそれを許した。
人は誰だって間違う。
一真が圧倒的な力を持っている事は知っていたが、それを隠そうとしている理由も分かっていた。
真相を知れば多くの者達が一真を非難するだろう。
それだけの力がありながら、何故最初から使わなかったのかと。
自分が似たような立場なら、同じ事を考えてしまうだろう。
「一人で何もかも全部を救おうなんて無理な話なのよ」
「……そうだね。あっちでもそうだった」
「そうでしょうね。勇者であっても全ては救えなかったでしょう。でも、それでいいのよ。それで構わないの。一人の人間なんだから両手で精一杯。それ以上、救おうなんて頑張ったら、きっと自分が耐えられなくなって壊れちゃうわ。だから、出来る範囲で頑張ればいいのよ……」
「……ん」
ぐりぐりと頭を乱暴に撫でられる。
穂花が子供を慰める時はいつも同じだ。
だが、それがかえって心地いいのだ。
一真は目を細め、成すがままにされる。
「それじゃ、今日も手伝いよろしくね」
「うい」
「ういじゃなく、はい、でしょ?」
きちんとした返事ではなかったので注意するように一真の鼻をぎゅっと摘まむ穂花。
子供達が真似をしたらどうするのだと、ジト目で睨まれる一真は素直に返事をする。
「はい」
「よろしい。それじゃ、こっちは任せるからね」
ポンポンと頭を軽く叩いて穂花は建物の中へ戻っていく。
一真は塵取りと箒を持って建物の周囲を掃除しに向かう。
ぽてぽてとまったり歩きながら一真は空を見上げる。
「いい天気だな~」
まだ少し肌寒いが、もう少しすれば桜も咲く季節だ。
桜が咲いたら、友達を誘って花見でもしようかと考えながら一真は掃除をする。
この一年本当に色々あったなと、しみじみ思う。
春休みはどんな事をしようか。
明日の事を考えるだけで楽しくなる一真は掃除を終わらせて、子供達と昼食の時間まで遊んで過ごす。
昼食の時間がやってきたので一真は手伝いにキッチンへ向かう。
他の職員と一緒になって子供達の料理を大量に作っていく。
勿論、自身も食べるので作る飯の量は普段の三倍だ。
分身まで使っているので一人だけ作業効率が段違いである。
一般人が見たら驚く光景だが職員達は慣れているので分身体の一真にも指示を出し、出来上がった料理を運んだりさせていた。
「アレ? 皆、いつの間に来てたんです?」
食卓に一真が行くと、そこには卒業した宗次、蒼依、隼人、詩織の四人に生徒会メンバー、桃子、桜儚、アリシア、シャルロット、弥生まで来ていた。
大勢の客人に一真は不思議そうに首を傾げる。
いつでも遊びに来てもいいと言ってはいたが、連絡がなかったので一真は驚いていた。
「ここにいるってのは聞いて遊びに来たら、これから昼飯だから一緒にどうかってなってな」
一真の疑問にちらりと穂花を一瞥して宗次が答える。
「そうなんですね。じゃあ、これだけじゃ足りなさそうですから追加で作ってきますわ」
「あ、それなら私達も手伝うわ。急にお邪魔して迷惑かけただろうし」
詩織が立ち上がり、手伝おうかと申し出たのだが一真は客人に手伝わせるわけにはいかないと断る。
「いいですよ。お客様なんですから座って待っててください」
「でも、いいのかしら……」
「問題ないっす。元からいっぱい作る予定でしたし、多少増えた所で支障はありませんから」
そう言って一真はキッチンに戻り、宗次達の分も料理を作り上げた。
「手際がいいというか、何と言うか……」
「すごい……。こんな短時間でこれだけの料理を……」
「料理の先生になってもらおうかしら……」
相変わらず、料理の腕前が素晴らしいと女性陣は一真を褒める。
普段はお調子者で馬鹿な男であるが穂花の躾によって家事全般が得意なのだ。
しかも、腕前はプロ級とまではいかないが、そこらの主婦なら凌駕するほどのものである。
「じゃあ、手を合わせましょう」
穂花が手を合わせ、子供達全員が両手を合わせているのを確認すると「いただきます」と全員が唱え、昼食が始まる。
子供達に負けじとがっつく一真であったが隣に座っている穂花の拳骨をもらい、頭にたんこぶを生やしながら大人しく料理を食べていた。
「一番精神年齢が低いんじゃないかしら……」
「所作は綺麗ですよ……?」
「最高の反面教師ね。でも、家事全般得意だから、普通に教師としても優秀なのよね」
昼食も終わり、後片付けを済ませた一真は子供達を昼寝に就かせてから宗次達と合流する。
「マジで時々、お前が分からなくなる……」
「なんでです? 何もおかしくないと思いますが?」
「いや、一真君がおかしいわけじゃないんだよ。僕達の認識がちょっとおかしくなるだけで」
「そうなんですか? 大変ですね」
庭先にて日向ぼっこをしている一同。
どこかへ出かけようかという意見もあったのだが、天気がいいので日向ぼっこでもしていようと一真が提案し、全員が賛成したのだ。
今は一真お手製のパンケーキを口にしながら、のんびりと過ごしている。
「そういえば、宗次先輩。今日はどこに泊まるんです? もし、決まってなかったらウチとかどうですか?」
「有難い申し出だがホテルを取ってあるから大丈夫だ」
「そうなんですね。お金とかは大丈夫なんです?」
「バイトして貯めてたからな。結構、余裕があるんだよ」
「へ~。どんなバイトしてたんですか?」
「学園が正規に出しているバイトだよ。防壁の見回り作業とか、イビノムの死骸の除去とか、討伐任務とかな」
「え!? なんすか、それ!」
「二年生からは色々とあってな。普通ならイビノムの討伐任務とかは出られないんだが……先生が認めてくれたら参加出来るんだよ」
「マジっすか!? ちなみにお賃金の方は?」
「危険手当とかつくから、学生どころか一般の社会人でも高い方だぞ。なんと最低でも50万からだ。エリアによっては三桁もある!」
「うおー! すげー!」
「一真ならすぐに許可を貰えるだろうから、暇な時は受けてみたらどうだ?」
「そうします!」
月収10億なので働く必要はない上に、ハワイ復興やら宇宙人撃退などで臨時報酬を貰っており、一真の資産はすでに兆を超えている。
しかも、管理は桃子に任せており、資産運用もしてもらっているので一真は今後一生働かなくても余裕で生きていける。
もっとも、お金がなくても一真ならどこかの山で暮らしていくだけの能力はあるが。
「ちなみにいい事を教えてあげよう。学園から正式に出ているバイトで稼ぐと成績に影響する上に就職先もよくなるんだ。そして、何と言っても税金が一切かからない! まあ、所詮バイトだから億万長者なんてのは無理だけどね。それでも税金がかからないのは最大のアドバンテージだよ」
「おおお~! 最高っすね!」
隼人からの説明を聞いて一真は目を輝かせる。
つい、先月に桃子が税金関係で苦しんでいた事を目の当たりにしているので、学園のバイトだと税金がかからない事を知って喜んだ。
「おお? 今、揺れましたね」
「ああ。最近、多いな」
「大きな地震でも来る前兆かな」
日本人にとってはあまり気にならない程度の揺れだった。
何かの前触れなのではないかと危惧する一真達。
嫌な予感がする。
もしかすると、まだまだ一真の非日常は続くのかもしれない。
そんなはずはない、と否定したかったが、きっと何かとんでもない事が起きるのだろうと一真は確信するのであった。
◇◇◇◇
遥か遠い国で部屋の窓から外の景色を眺めている初老の男性と老人がいた。
「ここ最近の揺れについては何か分かったか?」
「残念ながら、いまだ原因は分からんのう……」
「そうか……」
初老の男性が大きくため息を吐くと、憂鬱そうに眉を下げる。
「魔王軍残党に加えて、ダンジョンの活性化に増加まで……。そして、今度は謎の揺れ。問題が山積みだな」
「仕方なき事じゃな……」
「はあ……。勇者カズマを帰したのは愚策だったか?」
「あのバカがいれば役には立っていたかもしれんが、さらに胃を痛める羽目になるぞ?」
「ホイホイ美女の誘いに乗っては毒殺、暗殺されていたからな……。まあ、皮肉だがそのおかげで魔王軍と内通していた者達を排除する事が出来たから、役には立ったがね」
「中には家族を人質に取られ、どうしようもない者達もおったがの」
「それは仕方がないだろう。目をつむってやれ」
「見過ごすにも限度があるわい」
「勇者カズマだけだ、それは……」
一真の事を思い出して頭が痛くなったのか、初老の男性はこめかみを押さえている。
「む? また揺れたのう」
「何かの前触れでなければ杞憂なのだがな……」
初老の男性が窓から遠くの景色を見つめ、後ろにいた老人へ振り返る。
「ルドウィン。すまないが調査の方はよろしく頼む」
「やれやれ、いつになったらスローライフが送れるのかの」
「カズマの言っていたスローライフか……。私も早く隠居したいものだ」
大賢者ルドウィンは王の命を受け、各地で頻繁に起きている謎の揺れの調査を行う為、部屋から出て行った。
「おせーぞ。スケベジジイ」
「陛下からは何と?」
「師匠、早くしてくださいよ~」
「……」
「ルドウィン殿。本日はどちらへ?」
「爺さん。ちょっと疲れてねえか?」
ルドウィンが向かった先には四人の女性と二人の男性が待っていた。
彼ら彼女らを見てルドウィンはやれやれと肩を竦め、合流する。
「魔王軍残党の処理、ダンジョンの活性化と増加の調査に加えて謎の揺れについても陛下から調査を頼まれてしもうた。面倒じゃが、付き合ってもらうぞい」
そう言ってルドウィンが六人を先導し、あてもない旅が始まる。
かつて世界を救った勇者パーティが再び動き出したのである。
to be continued?
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