第3話 宇宙は広いよ!
倉茂工業にやってきた一真達が目にしたのはプロジェクターで大画面に映し出されていた先日の戦闘映像。
天鳥船が孤軍奮闘し、小型船が縦横無尽に暴れ、最後は一真が自爆すると言ったシーンが流され、何故か感動の渦に包まれていた。
「うぅ、何度見ても泣けるな~」
「最高だ、最高だ……」
「この時代に生まれてよかった……」
「孫子の世代まで伝えなくちゃ」
「燃え尽き症候群になっちゃう」
「何か新しいのくれ」
「もっかい宇宙人来てくれ」
「今度は宇宙怪獣でもええんやで?」
「アイドル発掘しなきゃ……!」
「次はオカエリナサイって文字を地球に浮かべるんだ!」
「戦士達の帰還……!」
「テーマソングを作ってほしい!」
「アニメ化キボンヌ!」
どうやら、ここ最近は仕事を休んで上映会をしていたらしい。
天鳥船の修繕や新しいロボットなども作ってはいるが、先日の戦争が胸に残り続けているようで仕事に身が入っていないそうだ。
「はいはい! 丁度いい。全員揃っているようだな! これから桃子ちゃんによる宇宙について講義を始める! 全員、傾聴!」
とんでもない速度でオタク達が桃子の前に整列する。
軍隊もかくやというという速度と正確性だ。
オタク気質な人間は自分の興味をそそられるものにならば、普段以上の力が出せるのだろう。
「……呆れるような統率力ですね」
「皆、自分の心に正直なんだ」
「そうですか……」
認めたくはないが彼らが世界を救ったのは事実。
一真と似たような人種が大量にいて頭が痛くなりそうだが、彼ほど迷惑ではないので目をつむる事にした。
「これからお話する事は全て事実ですので異論、反論、文句は一切受け付けません。いいですね?」
『はい!』
全員から元気よく返事をもらった桃子は一度咳ばらいをしてから宇宙人から聞いた一真達の知らない事実を話していく。
「まず、今回地球を侵略しにやってきた宇宙人の正式名称はパピポ星人。宇宙に数億以上いる宇宙人の中でも上位の種族となっており、戦闘力、文明レベルは上から数える方が早いとの事でした」
ふざけた名称だが桃子は事実しか口にしていない。
一真も桃子が嘘を吐いているようには見えないので静かに続きを聴く。
「それから……宇宙人達は星間連盟というものに所属しており、数多くの条約で協定を結んでいるそうです。地球は残念ながら星間連盟には所属していなかったので今回の侵略行為が行われたという事です」
なんとも勝手な話であるが、発足したのは数億年も前と言われており、まだ地球に人類が誕生していなかった頃の話である為、仕方のない事だった。
「そして恐らく、これが一番盛り上がるでしょう。宇宙怪獣は実在します!」
大喝采である。
宇宙怪獣が実在すると聞いて一真達は拳を突き上げ、大盛り上がりだ。
「落ち着いてください。話を続けますね」
まだまだ続きがきになるので一真達はすぐに静かになった。
従順な反応に桃子は普段からそうであってくれと思いながら話を続ける。
「先程、お話した宇宙怪獣についてはどれほどいるかは不明だそうです。パピポ星人も宇宙の全てを把握出来てないそうなので。それから、これは少し懸念すべき事なのですが……宇宙には決して手を出してはいけない宇宙人が存在するそうで、ゲッペラー星人、ディケオス星人、ジンガット星人。この三種族にだけは決して喧嘩を売ってはならないという鉄則がるそうです」
一体どれくらい強いのかと全員が疑問を抱いていたら、桃子がすぐに解答してくれた。
「一真さん。よく聞いておいてください。この三つの種族はそれぞれが単騎で惑星一つを滅ぼせるそうです。実際には分かりませんがパピポ星人が観測した中でもっとも凄まじかったのは、星間戦争と呼ばれる大規模な戦いの戦場に現れたゲッペラー星人はたった一人で戦いを終わらせたそうです」
「と、とんでもないべ……!」
「ただ、パピポ星人曰く、戦闘力は一真さんと同等かと言っていました」
「おお! 俺が宇宙の猛者と同等!」
「有難い事に先程挙げた三つの種族は基本的に単体行動を好むようで、あまり群れないそうですが……」
「が?」
「強大な敵の前には協力するそうです。仲間意識も強く、忠義に厚い、仁義を通す種族だそうで基本は穏やかな性格らしく、あまり争いを好みません。しかし、家族や仲間を傷つけれられば烈火の如く怒るそうで、そうなったら星の一つや二つは覚悟するようにと言われました」
「おお~、お友達になれそうや」
「そうですね。貴方なら可能かもしれませんね」
一真と近しい感性をしている宇宙人だ。
もしかしたら、意気投合するかもしれない。
出来れば、星一つを消し飛ばすような喧嘩だけは起こさない事だけを願おう。
もっとも、宇宙は広く、生きている内に会えるかどうかだが。
「嫌な予感しかしないんですよね~」
「奇遇ね。私もよ」
「多分、どこかしらで出会う事になるでしょう」
「多分じゃなく、確実に出会うわよ?」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「だって、今回の一件で確実に彼は宇宙中に知られたでしょうから」
「ああ、そうでした……」
近い将来、桜儚の言う通り、一真は出会うだろう。
まだ見ぬ強敵達と。
果たして、その時どうなる事だろうか。
それはまだ誰にも分からない。
「それはそれとして、アレはどうするの?」
「放っておきましょう。私達には手が負えません」
彼女達の視線の先には興奮冷めやらぬオタク達がいた。
桃子の話を聞いて創作意欲が湧いたようでオタク達は張り切っている。
鼻息を荒くし、目は真っ赤に充血し、一般人が見たら間違いなく警察を呼ぶような状態だ。
「漲ってきたー!」
「宇宙怪獣! 宇宙人! 未知の世界!」
「素晴らしい! この世界はまだまだ可能性に満ちている!」
「早く早く、武器を作らせろ!」
「ぶふ~! ぶふ~!」
「アイドルだけじゃ足りない! エースパイロット! 人類を超えた人類! ああ、探さなければいけない人物が多すぎて困る!」
「無限大の可能性。未知の脅威……。ああ、最高だ」
「ゲッペラー星人ってもしかして赤かったりします?」
「ディケオス星人って宇宙の治安を守ってたりしません?」
「ジンガット星人は概念か何かだったりするんじゃ?」
普通の人はちょっと近寄りにくそうな雰囲気になっている。
このまま放置しておくのが無難だろうと桃子は考えたが、暴走した倉茂工業はとんでもない事を仕出かす事は目に見えている。
ハワイを魔改造し、宇宙船を密造し、兵器を隠し持っているのだ。
念のために釘を差しておこうと桃子は興奮している従業員を注意した。
「一応、言っておきますが報告、連絡、相談は必ずするように。独断専行は許しませんからね」
きちんと返事をする従業員一同であったが独断専行の塊である一真がいるので期待は出来そうにない。
素直に言う事は聞いてくれるのだが暴走すれば誰よりも手が付けられない。
物理的に最強であり、精神が子供に近い為、ほぼ無敵なので問題が起こった後に叱る以外、打つ手がないのだ。度し難い存在である。
「どうしたの? 桃子ちゃん! そんなにこっち見て」
「いえ、なんでもありません……」
大型犬が首を傾げているように何もわかっていない一真は桃子が溜息を吐いているのをただ見ているだけ。
そんな一真の反応を見て桃子は言っても聞かなさそうだなと諦めたように、もう一度大きな溜息を吐くのであった。
「もうここにいても意味ないんじゃないかしら?」
「だな。皆、やる気になったみたいだ」
「では、私達は帰りましょうか」
「そうするか~」
桃子の話を聞いて創作意欲が湧いた従業員はそれぞれの作業場へと戻り、思い浮かんだアイデアを形にしようと頑張り始める。
これ以上、ここにいても作業の邪魔になるだろうからと一真達は倉茂工業を後にするのであった。
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