第2話 お友達になりましょうね! ウフ!

 宇宙人襲来からしばらく経ち、地球は平穏を取り戻していた。

 いつもと変わらぬ日々を過ごしていた一真のもとに慧磨から連絡が届く。

 宇宙人達への賠償請求などの資料が完成したとの事で一真は慧磨のもとへ転移した。


「一真君。準備万端だ。いつでも行けるよ」

「うっす! さくっと終わらせましょうか!」


 一真は桃子と桜儚を引き連れ、慧磨と月海の四人で女王のもとへ転移する。

 丁度、休んでいたのか女王が寛いでいるところに一真達が現れた。

 突然の来訪に女王は目を丸くしたが、一真が転移出来る事は既に知っていたので、すぐに落ち着きを取り戻し、客人として五人を出迎える。


「ようこそ、おいでくださいました」

「よう。今日は本格的に話し合いに来たぞ。あ、俺は正直、よくわからんから、どっかで時間を潰したいんだけど」

「一真君……。ここは一応は敵地なんだから傍で護衛に専念して欲しいんだが」

「俺一人に負けた奴らが喧嘩を売ってくる事はないでしょ?」

「暗殺はあり得るからね?」

「あ~……。分かったっす。話には加わりませんが傍で待機してますわ」

「それで十分だ」

「お話はよろしいでしょうか?」

「申し訳ない。すぐにでも、と言いたい所だがそちらにも都合というものがあるだろう。準備が出来たら教えてもらえないだろうか」

「ご配慮痛み入ります」


 女王は慧磨に頭を下げると、すぐさま議長達へ連絡する。

 一真達がやってきたので話し合いの準備を行うようにと。

 戦争に負けたというショックを引きずっているかと思われていたが、議長達も紅蓮の騎士の出鱈目っぷりをモニターを通して見ている為、その矛先が自分達に向けられたくないからと、すぐさま話し合いの準備を整えた。


「では、ご案内しますのでついて来てください」


 一真達は女王の後をついていく。

 案内された場所は大きな長テーブルが中央に設置されている会議室であった。

 そこにはすでに議長と呼ばれている代表者達が一真達を出迎えるように立っている。

 全員が白いベールのようなもので顔を隠しているので表情は窺えないが、恐らく引き攣った笑みを浮かべているだろう。

 何せ、女王の後に入って来たのは宇宙人達を戦慄させた紅蓮の騎士なのだから。

 少しでも粗相をすれば首が物理的に飛ぶかもしれないと恐怖しながら議長達は一真達に頭を下げた。


「お席の方へどうぞ」


 すかさず、使用人と思わしき者達が一真達の椅子を引き、座るように促した。

 一真達が全員着席すると、議長達と女王も腰を下ろし、話し合いの準備が整う。

 まずは慧磨が軽く自己紹介を始めてから、賠償についてや今後についての資料を女王へ渡し、会議が進んでいく。

 一真は開始数分で夢の中へ旅立ち、どのような話が行われていたのかを全く知ろうともしなかった。


「起きてください」

「……む? 終わった?」

「はい。締結しましたのでもう終わりです」

「何か契約でも結んだの?」

「後で話しますから、今は退室する準備をしてください」

「ういうい」


 寝ていた一真は桃子に起こされ、部屋から出ていく。

 ちなみに一真が寝ていた間、議長達はずっと緊張していた。

 沈黙を貫いている紅蓮の騎士が恐ろしくて下手に口出し出来なかったのである。

 まるで紅蓮の騎士が睨みつけているかのように感じていたそうだ。


「一真君。女王陛下との話し合いは終わったから、もう日本に帰っても問題ないよ」

「そうっすか? 分かりました」


 用事も済ませたので一真は慧磨達と一緒に日本へ戻る。

 首相官邸に戻ってきた一真は慧磨にどのような契約を結んだのかと尋ねた。


「一真君に分かりやすく言えば日本とアメリカのような友好条約だね。仲良くしましょう、お互い困った時は助け合いましょうってところさ」

「宇宙人とそんな約束結んで大丈夫なんです?」

「君が作った契約書だから魔法で向こうも縛られている。悪さは出来ないさ」

「なるほど。でも、それだけじゃないですよね?」

「そうだね。いくつか要求をのんでもらったよ。まずは異能、向こうではスキルと呼んでいるがそれを封じる技術の提供。これは異能者の犯罪防止に繋がるからね。それから、戦闘力の計測器もね」

「それ以外はなんかないんすか?」

「目ぼしいものは転移装置だね。それがあれば一真君に頼らずとも移動が楽になるから提供してもらう事にしたよ」

「イビノムについてはどうなったんです?」

「……君には正直に話しておこうと思う。イビノムについては現状維持のままにしてもらった」

「あ~……戦争の抑止力ですかね?」

「……一真君は本当に馬鹿なのかね? それとも、そう演じてるのかね?」

「いやいや、これくらいはちょっと考えれば分かりますって」

「そうか……。まあ、君の言う通りの理由だ。戦争の抑止力に繋がっているからイビノムの駆除は遠慮してもらったんだ」

「でも、いいんですか? 毎年、イビノムによる犠牲者は出てますが」

「大義の為に割り切るしかない、と言えば君は納得してくれるかね?」

「気分は最悪ですけど、言いたい事は分かりますよ。ちょっと想像すれば分かりますから。イビノムを地球上から駆除すれば人類の生存圏、及びに生活圏は広がるでしょう。最初は平和かもしれません。ですが、時が経てば、人口増加による食料不足や資源不足による困窮。やがては人間同士による戦争でしょう」

「そうだ。そうなる可能性が高い。だから、イビノムにはこれからも人類の敵でいてもらいたい」

「理由は分かりましたけど、日本だけで勝手に決めてよかったんです?」

「言わなければ誰にも分からないさ」


 人類全体、地球全体の問題であるが今回代表として宇宙人と交渉したのは日本だ。

 本来ならば情報を共有なければならないような問題だが、全ての人間が善良という訳ではない。


「大丈夫っすか? 慧磨さん。暗殺とかされません?」

「そこは問題ないさ。いくつかの情報は開示する予定だ。勿論、重要な部分は隠してだがね」

「そうっすか。慧磨さんがそう言うなら、いいです」

「すまないね。君のおかげだと言うのに私の勝手な判断で」

「いいですよ。別に。それが邪な理由じゃなければ気にしませんて」

「君にだけは嫌われたくないからね」

「まあ、俺最強っすからね!」


 鼻高々に胸を張る一真はまるで天狗のようだ。

 その鼻っ柱を折れるような存在がいないのは確かだ。

 しかし、慧磨は宇宙人から沢山の話を聞いているので一真に対抗できるかもしれない存在を口にした。


「もしかしたら、君は地球最強かもしれないが宇宙最強ではないかもしれないね」

「むむ!? その言い方は気になりますね。宇宙人から何か聞きましたね!」

「まあね。君が眠っている間、色々と話したからね」

「くっ! そこだけ起きとけばよかった!」


 つまらない話だろうと早々に見限り、眠りに就いてしまった事を後悔する一真は歯噛みしている。


「で、どんな話を聞いたんですか?」

「君が好きそうな話題だと、宇宙人の名称、言語、他の宇宙人の存在、宇宙怪獣の話とかかな」

「うおおおおおお! 面白そうですね! 倉茂工業で話しません? 皆、好きそうですから!」

「出来ればそうしてあげたい所なんだが、持ち帰ってきた資料や書類をまとめないといけないんだ。東雲君も一緒に訊いていたから、彼女達に訊くといい」

「桃子ちゃん!」


 後ろで待機していた桃子は子供のように目を輝かせて振り向いた一真を見て、盛大な溜息を吐きながら了承する。


「分かりました。私達も同席していたので詳しい事は聞いています。後でゆっくり話しましょう」

「好き! 桃子ちゃん! ありがとうね!」

「はいはい」


 という事で一真は桃子と桜儚を引き連れて倉茂工業に転移した。

 数多くのオタク達と一緒に宇宙について話し合う為に。


「先程、一真君は告白してなかったかね?」

「していましたが、恐らく相手にされていないでしょう」

「脈なしか……」

「いえ、恐らく東雲さんも憎からず一真君を想っているように見えます。ただ、一真君が変に鋭いんで勘違いをしているんだと思います」

「ん? どういうことかね?」

「一真君は東雲さんはビジネスライクで自分に付き合ってくれてると思ってるんですよ。多分、好意に気が付いてません」

「なるほど。その誤解というか勘違いが解ければ?」

「もしかしたら、お付き合いする可能性もあるでしょうね。お互いに本音で話せる仲ですから」


 月海からの考察を聞いて慧磨は出来れば二人が結ばれてほしいと願う。

 打算まみれだが桃子と一真が結婚すれば日本の将来は安泰だからだ。

 勿論、二人の幸せが一番である事が重要であるので、決して強制はしない事を慧磨は誓ったのである。

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