エピローグ 桜散る、新たなる門出
第1話 帰って来たよ!
女王にドヤ顔を披露して帰ってきた一真だがパワードスーツを展開して紅蓮の騎士モードだったので、渾身のドヤ顔が意味のなかった事を知り、肩を大きく落としていた。
「ちくしょう! 俺の馬鹿馬鹿! ドヤ顔の意味!」
「帰ってきて早々、何やってるんですか」
「桃子ちゃん! おかえりのチューは?」
「おかえりのグーならお見舞いしますよ?」
「遠慮しておきます」
ハワイの基地に帰ってきて早々、一真は桃子にうざ絡みする。
当然、冷たくあしらわれ、顔面に拳が飛んでくる前に一真は桃子から離れた。
「一真君。よく無事に帰ってきてくれた」
温かく出迎えてくれたのは慧磨だ。
地球を救ってくれた救世主である一真を称えるように両手を広げ、生還した事を喜んでいる。
「あ、慧磨さん。ちょっと、いいすか?」
「ん? 何かね?」
一真は周囲にいる他の者達に話が聞かれないように防音結界を張り、慧磨に宇宙人達とどのような事を話してきたのかを告げる。
「慧磨さん。宇宙人達についてなんですが、どういう風に処理します? 一応、向こうのトップと話してきてるんですけど」
「向こうは何て言っていたのかね?」
「全面降伏で、こちらの条件を全部飲むそうです」
「それはまた……破格だね」
とはいえ、一真が乗り込んできたのだから当然の反応だろう。
慧磨はこちらの出す要求を全て飲むという話を聞いて少し考える。
これは日本の問題だけではない。
世界、ひいては地球上全ての問題だ。
いくら何でも日本だけが独占するわけにはいかない。
かといって、各国の首脳陣に伝えるのは躊躇ってしまう。
何せ、一真がどのような反応をするか分からないからだ。
今回の戦争で慧磨達は宇宙人達の技術を知った。
そして、戦争に勝利し、賠償請求として宇宙人達の財産、技術、領土といったものを奪う事が出来る。
大変魅力的な話だが人間の欲望は天井知らず。
各国の首脳陣がそれを知ればどう思うか。
最悪、今度は宇宙人ではなく同じ地球人が敵になってしまうだろう。
「(本来であれば各国の首脳陣と会議を行い、宇宙人達にどのような責任を取ってもらうかを話し合うべきだが、そうなると面倒だ。一真君のおかげで向こうは全面降伏してこちらの要求を全て飲むと言っている。当然、全てを奪うだろう。技術の発展や将来への投資なら問題ないのだが、きっとそうはならないだろうな……)」
今後の危険性を考慮し、慧磨は今回の件については墓場まで持って行く事を決めた。
「一真君。悪いが少しだけ時間をくれないか? 資料を制作し、宇宙人達と話し合いたい」
「オッケーっす!」
防音結界を解除し、一真は各国の首脳陣及びに異能者達と少しだけ話して、感謝の言葉を貰うと解散となった。
たった一日というほんの短い間であったが、各国の首脳陣が手を取り合い、奇跡のドリームチームはなくなる。
もしかしたら、もう二度と見れなくなるだろうが、いつかまた手を取り合う日が来るかもしれない。
「それじゃ、俺等も帰りましょうか」
そう言って一真は慧磨達を引き連れて日本に転移しようとする。
日本に戻る前、アリシアやシャルロットが付いてくるとごねていたが、流石に自国が不安なのでアメリカとフランスの大統領が引っ張って帰っていった。
「まあ、また遊びに来ればいいから」
「絶対行く! 絶対だからね!」
「一真さん! 待っててくださいね! 近い内に必ずお伺いしますから!」
「ああ。いつでも待ってる」
そう言い渡して日本に戻ってきた一真。
首相官邸に転移した一真は慧磨と別れ、桃子と桜儚の三人で家に帰る。
宇宙からの脅威がひとまず去ったという事で桃子は一真の部屋から出ていく準備を始めた。
「嫌だ―っ! 桃子ちゃん、出て行かないで~!」
「放してください。私には帰る家があるんです」
「ここでもいいじゃんか~。一緒に住もうよ。ね?」
「ストレスが半端ないので帰ります。それでは」
「桃子ちゃ~ん!」
キャリーバッグを持って玄関から出ていく桃子を倒れながら片手を伸ばし、名残惜しそうな表情で泣き叫ぶ一真。
バタンと玄関が閉まり、妻が出て行ってしまった夫のように落ち込む一真はしばらく廊下で泣いていた。
「そんなに寂しがることないじゃない。どうせ、明日も会うんだから」
「うるせえ。俺は毎朝、桃子ちゃんに会いたいんだ!」
「そんなに好きなの~?」
「割と好き。だって、お互い本音で語り合える仲だし」
「あの子は確かに心を読めるけど、貴方は心を隠せるじゃない」
「あ~、そうか。お前は知らなかったな。俺は最近、桃子ちゃんと話す時はフィルターかけてないから全部本心で喋ってるんだ」
「え!? じゃあ、本当に好きなの?」
「面白いし、可愛いし、傍にいてくれるし、頼りになるし、良くない?」
「後半は仕事だからじゃないかしら?」
「夢を壊すような発言はやめてくれ!」
桃子が自分に付き合ってくれているのは仕事だからという理由なのは分かっている。
だが、それはそれとして他人から指摘されたくないと一真は、その事実から目を背けていたのだ。
ただ、面白い事に一真も仕事だからという先入観を抱いているせいで桃子が薄っすらとだが好意を抱いている事は見抜けていない。
「まあ、いいわ。私もアイビーに戻るわね~」
「ん。母さんによろしく言っといてくれ」
「はいはい。それじゃあ、またね~」
桜儚もアイビーへと帰っていき、一人になった一真はベッドに戻り、寝てから考える事にする。
起きたら、何をしようかと考えながら一真は夢の中へ旅立つのであった。
◇◇◇◇
一真が眠りに就いている頃、遠い星では閣下が女王に進言している真っ最中だった。
「陛下。地球人達は今頃、勝利の余韻に浸り、油断しているはずです。もう一度、惑星破壊砲を撃てば必ずや勝てますぞ!」
「……なりません。地球までの着弾時間を考えれば、前回同様に消し飛ばされるでしょう。そして、今度こそ我々は破滅します」
「ですが、このままでは……何もかもが奪われてしまいます!」
「彼を信じるしかないでしょう。紅蓮の騎士を」
「確かに紅蓮の騎士は信用に値するかもしれません。ですが、他の者はそうとは限りません! 欲に目が眩んで我々を――」
「我々も同じ事をしてきたではありませんか……」
「そ、それはそうですが……だからと言ってこのまま黙って見ていられる事など出来ようはずがない!」
「貴方の気持ちは分かっています。ですが、逆らう事は無理なのです。紅蓮の騎士の力は我々の想像以上なのですから」
「くっ……! では、他の星に協力要請を!」
「そこまでです。これ以上は見苦しいだけですよ」
「……私が不甲斐ないばかりに!」
「いいえ。貴方は十分やってくれました。後は地球人の恩情を信じましょう」
閣下は悔しそうに奥歯を噛み締めているが紅蓮の騎士と実際に戦ったからこそ女王の言葉を痛いほど理解している。
紅蓮の騎士は埒外の存在だ。
対抗出来るのは同じく埒外の存在しかいない。
「ゲッペラー星人……。あの者達が味方だったならば……」
女王の間から去っていく閣下は不穏な言葉を零す。
良からぬ企みを思いつくが女王を裏切る事は出来ない。
忠義に厚い閣下は女王の命令に従い、時が来るまで自宅で待機するのであった。
「紅蓮の騎士が地球人を上手く説得してくれれば私達の未来も……」
女王の間にて彼女は星の未来を憂う。
紅蓮の騎士と地球人全員が同じような考えならば、自分達は救われるだろう。
だが、紅蓮の騎士は言っていた。
個人的な意見だと。だから、他の者達に相談してから、また来ると。
叶う事ならば、穏やかな心の持ち主である事を女王は願うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます