第99話 少年よ、熱く燃えろ

 一真がどこか遠くの宇宙に飛ばされていた頃、閣下は間一髪のところで生還し、艦長席に戻って来ていた。


「総員に通達せよ。巻き込まれないように撤退だ」

「はっ!」


 それから生き残っている宇宙人達は撤退を開始する。

 大艦隊がワープ装置で消えていくのを見て慧磨達は歓喜の声を上げる。


「撤退していくのか……?」

「反応が次々と消失ロストしていきます! 敵艦隊は撤退をしている模様です!」

「か、勝った……! 勝ったんだ! 俺達は勝ったんだ!!」

「やった! やったー!」

「万歳! 万歳!! バンザーイ!!!」

「うおおおおおお! 我々の勝利だ! 見たか、宇宙人共! これが人類の力だ!」


 クルー達は勝鬨を上げ、抱き合ったりしているが慧磨だけは鋭い目で宇宙人達が撤退していく様子を見ていた。

 一真の登場で相当焦っていた事は見ていたから分かる。

 そして、一真が敵船に潜り込み、大暴れしていたのも簡単に予想できる。


「(一真君が総指揮官を討ち、敵が撤退を開始という話なら納得出来るが……一真君から何の連絡もないのが気がかりだ。果たして、本当に宇宙人達は撤退したのだろうか?)」


 どうにも嫌な予感がして堪らない慧磨は素直に喜べなかった。

 何か重大なものを見逃しているのではないだろうかと不安が大きくなる。

 もしかすると、これは敵の戦略で何か大きな布石ではないかとざわついていた。


「諸君。喜ぶのはまだ早い。警戒態勢を維持しつつ、いつでも戦闘の用意を――」


 と、そこまで言っていた時、ビービーとけたたましい音がブリッジ内に響き渡り、慧磨達は大慌てただ。


「ど、どうした!? 何があった!?」

「た、大変です! 地球に向かってとんでもないエネルギーの塊が飛んできてます!」

「なんだって!? そ、それは具体的に言えばどのくらいのエネルギーなんだ!?」

「…………着弾すれば地球は消滅します」

「なにーーーーーッ!?」

「着弾まであと30秒!」

「バリアは!? バリアが張ってあるだろう! どうなんだ!」

「このエネルギーには耐えられません! もしかしたら、一真君の最大火力以上のエネルギーです!」

「くそ! そう言う事か! 敵艦隊が撤退したのはこれの為だったか!」


 気付くのが遅すぎた。

 すでに敵の砲撃は放たれており、手の打ちようがない。

 もはや、ここまでか。

 誰もがそう思っていた時、ハワイから緊急通信が入る。


『ふっふっふ。こういう事もあろうかと秘密兵器を用意していたのだ」

「……君達は報連相というものを一度勉強した方がいいだろう。しかし、それはそれとして秘密兵器とは?」

『宇宙怪獣の超高熱の火球を想定して作っていた最強の防衛装置! 日本三大神器からその名を拝借した八咫鏡です!』

「お~! 期待してもいいのかね?」

『……実はデータ上では問題ないとされているのですが実際に使ってみない限りには分かりません』

「そうか……。だが、時間はない。やってくれ」

『了解しました!』


 ハワイの基地に待機していた従業員は嬉々として八咫鏡を起動する。

 八角形の鏡に似たバリアが衛星軌道上に形成され、遠い宙から降り注ぐ光の柱を受け止めた。

 地球のすぐ傍でとんでもない光景が広がっており、ネットは大騒ぎだ。

 今日が地球最後の日なのかもしれないと。


「ところであの人は何をやっているんでしょうか?」

「こんな面白い事があったらいの一番に駆けつけてきそうなのね」

「一真のことだから、どこかで遊んでるんじゃないかしら?」

「そうでしょうか? 流石に一真さんでも地球の危機となれば遊んではいられないと思いますが……」


 桃子、桜儚、アリシア、シャルロットの四人は大気圏で八咫鏡とぶつかっている光の柱を目にしながら、ここにはいない一真を思う。

 あのノリとテンションだけで生きている男が、このような場面に現れないのが不思議で堪らない。一体どこで油を売っているのだろうか。


「通信は応答なし。こりゃ、相当遠くまで飛ばされたな~」


 一真はずっと慧磨達と連絡を試みていたのが、一向に通信が繋がらず、宇宙空間を漂っていた。


「……てか、やばいな。俺がいない間に皆やられてたらシャレにならんわ。転移で戻るか」


 強制的に転移させられて一真も混乱していたようで今の状況がどれだけ不味いのかをようやく理解した。

 宇宙人達は圧倒的な戦力で、地球の戦力では太刀打ち出来ない。

 その事を思い出して一真は慧磨のもとに転移する。


「うわっ!?」

「おっと、すんません。驚かせたみたいで」

「そんな事はいい! それよりも地球が大変なんだ!」

「何があったんです?」

「外を見てくれ!」


 言われて一真はブリッジの外から地球を見てみると、そこには光の柱が地球に突き刺さっている光景が広がっていた。

 まさか、敵の兵器かと一真が目を凝らしてみると、地球には刺さっていなかった。

 刺さる寸前と言えばいいのか、光の柱は八角形の鏡のようなものに刺さっている。


「アレなんすか?」

「それについては後で話す! 地球に行ってくれ!」

「うっす!」


 今は緊急事態である事は間違いなく、焦燥感たっぷりの慧磨に言われて一真は地球に転移する。


「こちら一真! あの光の着弾地点を教えてくれ!」

『日本の富士山です!』

「狙ってやってんのか? まあいい。すぐに向かう!」


 一真はハワイの基地に連絡を行い、光の柱の着弾地点を教えてもらう。

 富士山には転移した事がない一真は日本に転移して、すぐに飛んで向かった。

 富士山の山頂に着いた一真は上空を見上げ、八咫鏡が残り一枚である事を知り、急いで迎撃の準備を始める。


「魔法陣展開、術式展開、回路接続! 見せてやるぜ! 俺の全力全開のフルパワーをな!!!」


 空に手を掲げ、魔力を収束させる。

 一真の頭上には幾何学模様の魔法陣が何重にも浮かび上がり、幻想的な光景が広がっている。

 魔力が迸り、青白い光が走り、一真の立っている周囲がオーロラのように輝き始めた。


「ご照覧あれ!!!」


 八枚重ねで展開されていた八咫鏡の最後の一枚が砕かれ、富士山に光の柱が降り注がれる。

 着弾すれば間違いなく地球は木っ端微塵に吹き飛んでしまうだろう。

 光の柱を迎撃するように一真の掌からドウッとかつてない程の太さで魔力砲が放たれた。

 こちらの世界で初めて見せる最大の一撃。

 出来る事ならば格好よく決めたかったが、予想以上に光の柱の威力は凄まじく、一真は悔しそうに奥歯を噛み締めた。


「アカン。これ不味いやつだ……」


 体内の魔力、そして風や太陽光といった自然由来のエネルギーを魔力に変換し、ほぼ無限の魔力を有している一真であったが、光の柱のエネルギーには勝てず、徐々に押し負けている。

 最大火力で出力しているが、このままでは光の柱が地球に着弾し、一真諸共吹き飛ぶだろう。

 これは流石に不味いと一真は冷や汗を垂らし、苦笑いを浮かべながら、どうにか出来ないかと記憶を呼び起こしているが、現在進行形で最大火力を放出している以上の策は思い浮かばなかった。


「ふんぎぎぎぎぎ!」


 踏ん張ってはいるが力負けしており、一真はついに片膝をついてしまう。

 本当にこのまま地球は終わってしまうのかと思われた時、ハワイの基地から通信が届く。


『一真君! こちらに一度戻ってこれないか!?』

「無茶言わんでください! 俺が離れた瞬間、地球は終わりですよ!」

『くっ……! だったら、こちらから転移出来ないかね!?』

「それなら可能です!」

『よし来た! 兵器の転移は可能かね?』

「すんません。それは無理です! でも、桃子ちゃんなら転移出来ます!」

『了解した! もうしばらくだけ耐えてくれ!』

「本当にマジで急いでくださいね!!!」


 割と切実な叫びだった。

 光の柱がゆっくりではあるが着実に地球との距離を縮めている間、ハワイでは倉茂工業の従業員が桃子に勾玉と剣を持って詰め寄っている。


「これを一真君に大至急届けてほしい!」

「いや、いきなりそんな事を言われても!」

「大丈夫です! 先程、一真君から聞きました! 貴女なら転移が出来ると!」

「いえ、出来ませんが?」

「え!? でも、先程、一真君が桃子ちゃんなら出来ると言っていましたが?」


 そこまで聞いて桃子は察した。

 きっとろくでもない事だと。

 出来る事ならば断わりたい。

 いっその事、地球が滅んでくれればいいのにとすら思う。

 そうすればこの苦しみからは解放されるだろうが、その為に大勢の人間を巻き込むのは心苦しい。

 非情に、非情に不愉快だが桃子は一真に召喚され、長距離を瞬時に移動出来る事を告げた。


「では、こちらの剣と勾玉を一真君に渡してください。それから――」


 ゴニョゴニョと桃子に耳打ちする。

 従業員から全ての説明を聞いた桃子は盛大な溜息を吐きながらも、地球の命運をかけて頑張っている一真のもとへ向かう事を決めた。


「一真さんに連絡してください」

「分かりました!」


 従業員は大急ぎで一真に無線を繋ぐ。


「一真君! 東雲さんの準備が出来たよ!」

召喚サモン! 桃子ちゃーんっ!』


 無線越しにふざけた事を口走っているが呪文なのは間違いなかったようで、桃子の足元に魔法陣が浮かび上がり、彼女は一真のもとへ召喚される。その手には従業員から託された剣と勾玉を携えていた。


「桃子ちゃん、それ何!?」

「全く、貴方という人は……」


 世界の危機だと言うのに、普段と変わらない様子の一真に桃子は呆れてしまう。

 しかし、だからこそ信じれるというものだ。

 きっと、彼ならば笑って世界を救えるのだと。

 桃子はそう確信して一真のもとへ駆け寄り、剣と勾玉を託す。


「いいですか! 一度しか言いませんから、よく聞いてください!」

「うん!」

「この勾玉は地球上のありとあらゆるエネルギーを供給減としているもので貴方専用の装備です!」

「おお!」

「そして、そちらの剣は……まだ試作品で!」

「おおおお!」

「不完全で!」

「おおおおおお!」

「一度使えば壊れてしまう欠陥品ですが!」

「うおおおおおおお!」

「性能はピカイチ! 貴方の為の、貴方だけの武器です! その名も……天叢雲剣あまのむらくものつるぎ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 日本三大神器が揃った瞬間である。

 勿論、本物ではないがその性能は桃子の言っている通りのものだ。

 しかも、倉茂工業が制作しているので一真の魔法の知識も入っており、ある意味で言えば魔剣とも呼べる。

 神器を魔剣呼ばわりするのは不敬かもしれないが、魔法の力が加わっているので魔剣呼びは正しい。


「クックック! ハーッハッハッハッハ! 最高だぜ! 少年心をよく理解してらっしゃる!」

「このような時に貴方という人は……」


 今も上空から降り注いでいる光の柱は地球に近づいてきている。

 一真が魔力砲で押し止めているが、あまり猶予はない。

 地球の命運が掛かっていると言うのに子供のようにはしゃいでいる一真に桃子は肩を竦めるも、それでこそと笑みを零す。


「……使い方は簡単です。ただ握るだけ。それだけです」

「そうか! シンプルで有難い!」

「……地球を、いえ、私達を守ってください。勇者様」

「ッ!? フ、フフフ! ああ、そうだな! 桃子ちゃん! 俺は君を、君達を守るよ! 全身全霊、全力全開で!」


 そう言って一真は桃子から受け取った天叢雲剣を抜刀。

 その瞬間、勾玉と天叢雲剣がリンクし、莫大なエネルギーが刀身に宿る。

 さらに一真の体内に勾玉から今まで感じた事のない量の魔力が注がれる。

 心技一体。まさにその通りとなり、一真は天叢雲剣を上段に構え、光の柱に向かって渾身の一振り。


「これが世界の! 日本の! オタクの力じゃああああああっ!!!」


 光の柱を飲み込むほどの眩い光が放たれ、地球の危機は去ったのだった。




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