第98話 面倒な敵はどっかに飛ばすに限る
第三ブロックで迷子になっている一真は適当に廊下を突き進んでいたが、あまりにも広すぎる為、どこへ向かって進めばいいのか分からなかった。
魔力探知でも出来たらよかったのだが、残念ながら宇宙人には魔力など宿っていない。
おかげで一真はだだっ広い船内を駆け回る羽目になった。
「くそ~……! いい加減、鬱陶しくなってきたぞ!」
迷路のように複雑に作りに一真は段々と腹を立て、最終手段に出る事にした。
「こうなったら壁をぶち抜いてやる!」
道順など知った事ではない、と一真は壁を破壊。
そして、次々と壁を破壊し、真っすぐに突き進んでいく。
その様子を見ていた宇宙人達は大慌てだ。
しかも、宇宙人達にとっては運が悪い事に一真が進んでいる方向がブリッジ方面なのだ。
このまま、真っすぐに突き進めば一真がブリッジ内部に到達してしまう。
毒ガスでも止められなかった化け物が襲撃してくるのだ。
宇宙人達が慌てふためいてしまうのは当然だろう。
「閣下! このままでは紅蓮の騎士がここに!」
「急いで戦闘員に紅蓮の騎士を止めるように通達しろ!」
閣下の命令のもと、多数の戦闘員が一真に向かっていく。
レーザー銃を携えた戦闘員が一真と衝突。
無数のレーザーが一真に向かって照射される。
普通の相手ならハチの巣になってお終いなのだが普通ではない一真が相手だ。
無数のレーザーを受けて無傷の一真は構わず、突進。
十数人いた戦闘員を一撃で蹴散らし、ブリッジに向かって一直進だ。
「閣下! もうすぐそこまで来てます!」
「致し方ない……。私が相手をする!」
「ぶ、無礼を承知で申し上げますが勝てるのですか?」
「……私の戦闘力は50万だが勝てるかどうかは分からんな」
「撤退した方がよろしいのでは? 本国にはすでに通達済みですので最早戦う意味はないかと」
「確かにそうだが…………武人としての血が騒ぐのだよ。愚かな私を許してくれ」
「…………いえ、閣下はこれまで多くの功績を残し、国に多大なる恩恵をもたらしました。それくらいの我が儘は許されるでしょう」
「そうか……。そう言ってくれるか」
「はい。閣下、ご武運を」
「私が敗北した場合、転移装置を起動し、本国へ帰還せよ」
「サーイエッサー!」
閣下はそう言うと長年の相棒である槍を携えて、一真の前に立ち塞がる。
本国へはすでに兵器の使用を要請してるので、もう間もなく地球は木っ端微塵に吹き飛ぶだろう。
いくら、バリアで地球を覆っていようが本国が開発した兵器ならバリアなど紙同然である。
だが、一つ懸念事項があるとすれば目の前の紅蓮の騎士だ。
戦闘力が8という赤子よりも低い数値だというのに、こちらの戦闘員を圧倒し、船内部を破壊する程の力を秘めている。
もしも、まだ隠されている力があるのなら、ここで足止めをしておく必要がある。
「お前がボスか?」
「如何にも。私がこの艦隊の総指揮官だ」
「態々、俺の前に現れるとはどういう了見だ?」
「何、簡単な話だ。武人の血が騒いだとだけ、と言っておこうか」
「……面白い。艦長席で踏ん反り返って喚き散らしている奴なら、その鼻っ柱をへし折ってやろうと考えていたが……特別に相手をしてやる」
「ほほう。随分と強気な発言だ。しかし、そう簡単にいくかな? 私はこれでも国で一番の実力者なのだよ」
「そうか。それは奇遇だな。俺は地球で一番強いんだ」
「知っているとも。だからこそ、手合わせしたかったんだ」
「そいつは光栄だね。じゃあ、これ以上の問答は無用だ。いざ尋常に!」
「「勝負っ!!!」」
槍を携えた閣下と両腕から光の刃を生やした一真がぶつかる。
「ぬぅ!」
「ほう! 地球に来ていた奴等よりは骨があるな!」
「先程、言ったはずだ。私は国一番とね!」
「そいつは悪かった! だが、この程度なら俺の敵じゃない!」
「ぐぅ!」
鍔迫り合いをしていた閣下は一真に腹部を蹴られ、後ろに飛んで衝撃を和らげる。
しかし、受けたダメージは計り知れず、閣下は思わず片膝を着いてしまう。
「く……! 年を取ったかな?」
「まだ強がりを言えるようなら、もう少しギアを上げても良さそうだな」
「何? まだ上があると言うのか!?」
「当たり前だろう。お互い、まずは小手調べってところだろうが」
「私は結構本気立ったのだが……」
「じゃあ、歳だな。ボケたんだろ」
「年長者を敬うと言う気はないのか、君は?」
「敵に情けをかける馬鹿がいるか?」
「ふ、そうだな。その通りだ!」
油断を誘っていたように閣下は鋭い突きを放つ。
ボッという音が鳴ったかと思うと、一真の頬を槍がすり抜けていく。
「見え見えなんだよ」
「だろうとも!」
閣下は手首を捻り、槍の軌道を変え、穂先に螺旋状の光が帯びる。
光輪が穂先に出現すると閣下は手首を返し、一真に向かって槍を振りぬいた。
「面白い機能だな。多分、触っただけで相手を切り裂くんだろうが……俺には通じん」
「化け物め!」
「お互い様だろうに!」
槍の柄を掴んだ一真は閣下ごと持ち上げて壁に投げる。
空中で身を翻し、壁を蹴って閣下は一真に向かって突きを放つ。
「千塵!」
「大層な名前だな! 当たらなければどうという事はないがな!」
目のも止まらぬ速さで突きを繰り出す閣下。
名前の通り、千の突きを放ち、相手を粉微塵に変えてしまう恐ろしい技なのだが一真には当たらない。
ヒラリヒラリと蝶のように舞い、閣下の突きを避ける一真。
「まだまだ!」
「すでに見切った!」
「ぬぅ!?」
パシっと槍を掴む音が響く。
驚愕に目を見開く閣下は即座に槍を引き抜こうとしたが、一真の尋常ではない握力に力負けしてしまい、ビクともしなかった。
「う、動かん!」
「状況判断が遅い! 敵に獲物を奪われたら、即座に捨てろ!」
「ぐわっ!?」
槍を手放さず、一真の力に驚いていた閣下は横っ面を思いっ切り殴られ、壁に激突する。
「ぬぐぅ……!」
「自慢の槍なんだろうが通じないと分かれば切り替えろ。その程度じゃ俺に傷一つ付けられんぞ!」
「手厳しいな……。この歳になってまで敵から説教を貰う羽目になろうとは。しかし、先程は敵に情けをかけないと言っていた割には随分と優しいではないか」
「……一人の武人として立ち向かってくる相手は嫌いじゃないからな」
「なるほど。少しだけ君の性格が分かった気がする」
片膝を着きながら一真を見上げる閣下は少しだけ微笑んでいた。
得体の知れない化け物ではあるがどこか親し気のある敵だと閣下は少しだけ分かり合えそうな気がしたが、敵は敵だ。
自分達は地球を侵略しに来た侵略者で向こうは地球を守る為の守護者だ。
決して相容れない存在である。
だからと言って戦わないと言う選択肢はない。
お互いに退けない所まで来ているのだ。
一真にとっては遠い過去からの因縁、閣下にとっては自分を信じてついてきた部下達の仇。もはや、許しておく事は出来ない。
「そうだ。一つ聞いておきたい事がある」
「なんだね?」
「お前を殺せば、退いてくれるのか?」
「残念ながら、それは無理だ。私は確かに総指揮官ではあるが、代わりはいくらでもいる」
「そうか。なら、徹底的にやるまでだ!」
踏み込み、閣下の懐に潜り込んだ一真は容赦なく拳を叩きつける。
腹部に強烈な衝撃と痛みを感じ、閣下は宙を舞う。
背中から地面に落ちて、口から大量の血反吐を撒き散らし、悶え苦しむ。
「ぐぅぅ……!」
「この船を沈める! お前諸共な!!!」
掌に魔力を集中させ、一真は極大の魔力砲を閣下に向けて放とうとした時、閣下の無線に朗報が届く。
『閣下! 本国から発射の用意が整ったとの連絡がありました! ただちに戦線を離脱せよ、との事です!』
負け戦になり、結果的には大損ではあるが、最終的に敵を殲滅する事が確定した。
これで少しは溜飲が下がる事だろう。
閣下は血で汚れた口元を拭い、一真に向かって小さな玉を投げた。
「遅い!」
魔力砲を放とうとした瞬間、一真は眩い光に包まれ、宇宙空間に放り出された。
「何ッ!?」
突然、視界が切り替わり、宇宙空間を漂っている一真は周囲を見渡す。
見渡す限りの暗黒空間で先程までいた戦場ではなかった。
「……マジか~」
どうやら、先程の小さな玉は強制転移装置だったらしい。
見知らぬ宇宙に飛ばされた一真はフヨフヨと漂いながら、自身の詰めの甘さを反省するのであった。
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