第97話 一真、無双する

 戦場に舞い降りた一真はすぐさま状況を把握する。

 天鳥船はすでに戦闘継続は不能でしばらく使いものにならない。

 そして、球体型の小型船では決定打に欠ける。

 つまり、自分以外に戦力はなし。

 だが、問題はない。

 自分とこのロボットがいれば戦況を覆す事など造作もない。

 それだけの確信が一真にはあった。


「ここからは俺が相手だ!」


 操縦桿を前に倒して一真は大艦隊へ突撃する。

 天鳥船のブリッジから慧磨達は一真の勇姿を見守っていた。


「右手にパイルバンカー! 左手にはドリル! 男の装備はこいつで十分よ!」


 大層な姿形をしているというのに兵装はたったの二つ。

 右手のパイルバンカーと左手のドリルのみ。

 馬鹿としか言いようのない装備だが無駄に武器を持っているよりはシンプルで一真向きであろう。

 それに一真の乗っているロボットは機動力を重視しているので接近戦向きである。


「ガハハハハハ! 俺が最強なんだ!」


 翼のようなブースターで加速し、一真は銀の流星になって宇宙を駆け回る。

 大艦隊から無数の砲撃が放たれるが一真のロボットが想像以上に素早くて当たられない。

 小型船が一真を追いかけるもその速度には付いて行けず、むしろ飛んで火にいる虫のように撃墜される。


「ハーッハッハッハッハ! 遅い遅い遅い! 遅すぎる!」


 戦場を縦横無尽に飛び回る一真は相手からしたらまさに悪魔だろう。

 圧倒的な機動力もそうだが、何よりも接近されれば命はないのだから。

 右手のパイルバンカーは装甲を容易く打ち抜き、左手のドリルは戦艦であろうと障子のように穴が空けられる。

 接近をさせないように弾幕を張り巡らせても一真のロボットは針の穴を通すかのように弾幕を潜り抜けるのだ。

 エースパイロットどころの話ではない。

 まさに敵からしたら悪魔としか言いようがない。


「なんなんだ!? アレは一体なんなんだ!?」

「わ、分りません! 二足歩行型の兵器に見えますが……」

「そんな事は見れば分かる! 私が聞いているのはあの出鱈目な機動力と戦闘能力だ!」

「こちらの理解を超えるものとしか……」

「このような辺境の惑星に……しかも、文明レベルは遥かに低いくせに我々を上回ると?」

「閣下……。現実を受け入れましょう」

「ぐぅ……! 少なくともエネルギーは無限じゃないはずだ! いずれは力尽きて的になり下がるに違いない。追尾弾を放ち、エネルギーの消費を促せ! 敵が動かなくなるまで耐え忍ぶのだ!」


 命令を下し、各艦は追尾弾を放ち、一真のエネルギー切れを促す方向へ切り替える。

 小型船も無理をせず、攪乱に徹し、一真のエネルギーが切れるまで嫌がらせを行う事にした。

 突然、動きを変えた敵艦隊に一真はエネルギー切れを待っているのだろうと、すぐに相手の意図を見抜く。


「フハハハハハ! 馬鹿め! こいつの動力源は核エンジンに加えて俺の魔力だ! エネルギー切れなど起こるものか! 絶望を見せてやるよ!」


 意気揚々と一真は操縦桿を握り締め、大艦隊を相手に大立ち回りを見せる。


「うわああああああ! 後ろに張り付かれた! 誰か助けてくれ!」

「逃げても無駄だ! 機動力はこちらの方が圧倒的に上! そして! このパイルバンカーは皆と作り上げた特別製! 杭は土魔法で無限に複製できるから玉切れの心配は無し! つまり、無敵だーっ!」


 敵の小型船の後ろに張り付いた一真はパイルバンカーを炸裂させる。

 悲鳴を上げて逃げていた宇宙人は背後からの衝撃を最後に宇宙の藻屑となった。


「一機残らず、撃ち落としてやる……!」


 親の仇と言わんばかりに一真はコックピットのモニターに映っている敵艦隊を睨みつけているが、特に恨みはない。

 だが、恨みはないが禍根を残さないように根絶やしにする気でいる。

 温情を見せて見逃してしまえば、更なる戦力を率いて地球侵略に来られても困るからだ。

 その頃にはこちらも戦力を整えればいいのだが、向こうの方が戦力も技術も上なのだから時間を与えるわけにはいかない。


「地球に来たことを後悔させてやるっ!」


 それから一真は小型船を追い回し、次々と小型船を撃墜し、やがて全ての小型船を撃ち落とした。

 全ての小型船を撃ち落とした一真は敵艦隊に向かって突進。

 ドリルで艦隊を貫き、次々と撃墜していくが、快進撃は長くは続かなかった。


「アンカー射出! 敵機拘束!」

「ぬぅ!? まさか、チェーンで巻かれるとは!」


 敵艦隊の中央付近で一真は敵艦隊から無数のアンカーで雁字搦めにされてしまう。

 これでは自慢の機動力も活かせず、格好の的に成り果ててしまった。


「よし! 一斉射撃で宇宙の塵にしてやれ!」

「バリア展開!」


 敵艦隊の一斉射撃を一真はバリアを展開して防ぐ。

 これで撃ち落とされる事はなくなったが現状はよろしくない。

 ロボットに巻き付いているチェーンを外そうと試みるも、かなり頑丈に巻き付いてるので外れそうにない。

 ブースターを最大出力で噴射し、強引に引き千切ろうとしたが、それも上手くいかず、八方ふさがりであった。


「くそ……! こうなったら最終手段だ!!!」


 コックピットにある虎柄テープで囲まれた赤いボタンを一真は見詰める。

 本来ならば使う予定はなかったボタンだ。

 決して押してはいけないと念押されている。

 しかし、この状況を打破するには押すしかない。


「すまない……。相棒!!!」


 ドンと叩くように赤いボタンを押す一真。

 次の瞬間、警告音アラームがコックピット内部に響き渡り、赤く点滅し始めた。

 そして、自爆まで残り30秒という機械音声が鳴り、一真はパワードスーツを装着し、コックピットから脱出する。


「う、うぅ! 相棒! 相棒!! 相棒!!!」


 嘆いているが、そもそも一真が慢心した結果である。

 ロボットもとい相棒は敵艦隊を複数巻き込んで大爆発を起こし、宇宙の塵と化したのだった。


「な……!」


 閣下はロボットが大爆発を起こし、複数の味方艦を巻き込んで宇宙の塵と化す光景を見て大口を開けていた。

 厄介な敵が爆発したかと思えば味方諸共吹っ飛んだのだ。

 閣下が言葉を失ってしまうのも無理はないだろう。


「ふ、ふざけるな! ふざけるな! ちくしょうめ! 一体どういう神経をしているんだ、地球人は!」


 二足歩行ロボットという非合理的な兵器を持ち出してきたかと思えば、とんでもない爆発を起こすのだ。

 頭がおかしいとしか思えない。

 しかし、周囲をスキャンしたところ、これ以上の救援は無しと見た。

 地球圏からこちらに向かって来ている増援はない。

 そして、面倒であった天鳥船もこちらに向かって攻撃を仕掛けてくる素振りもない。

 恐らくはエネルギーが十分に回復していないのだろう。


「ふう……。あの船を撃ち落とした後、地球をしん――」


 ビービーという警告音がブリッジ内部に響き渡り、閣下は慌てた様子で部下に尋ねる。


「今度は一体なんだ!?」

「侵入者です! この船に何者かが侵入してきました!」

「馬鹿な!? バリアフィールドを張っているはずだろう! どうやって侵入してきたんだ!」

「侵入経路を確認しています! 少々をお待ちを!」


 クルー達が大急ぎで侵入者の位置を特定する。

 そして、モニターに映し出されたのは紅蓮の騎士だった。


「侵入箇所は第三ブロックです」

「すぐさま、第三ブロックの通路を塞げ。戦闘員は侵入者の排除だ! 急げ!」

「侵入者はれいの紅蓮の騎士です! いかがいたしますか?」

「第三ブロックに毒ガスを散布しろ。手段は選ぶな!」

「まだクルーが残されていますが、よろしいのですか?」

「背に腹は代えられん……」

「分かりました……」


 紅蓮の騎士の戦闘力は計測器には低く映っているが実際は想定を上回る強さだ。

 エリートで構成されていた偵察部隊をたった一人で圧倒している事から、戦闘員でもないクルーが相対すれば勝ち目はないだろう。

 であれば、手段は選んでいられない。

 紅蓮の騎士がいる第三ブロックを閉鎖し、毒ガスで殺すのがもっとも合理的だろう。

 取り残されたクルーには申し訳ないが、大義の為に必要な犠牲だった。


「毒ガス散布完了しました……」

「経過を報告しろ」


 毒ガスで充満された第三ブロックを平然と歩いている紅蓮の騎士。

 モニターで監視しているクルー達は数秒、数十秒と紅蓮の騎士の様子を眺めている。

 しかし、一向に変化はなく、紅蓮の騎士は平然と第三ブロックを歩き回っていた。


「へ、変化ありません……」

「まさか、毒が効かないのか……?」

「そ、そんなはずは……」

「あの鎧が毒ガスを中和しているのか?」

「分かりません。スキャンしても生体反応のみで特に何かがあるわけでもなく……」

「…………本国へ緊急通達。地球侵略は不可能と断定。よって……これより地球を破壊する」

「よろしいのですか?」

「いい売り物になると思っていたが仕方がないだろう。あのような規格外がいるのだ。私ですら勝てるか分からん……」

「分かりました。本国へ緊急通達—―」


 第三ブロックを走り回り、一真が迷子になっている時、閣下は一つの大きな決断をした。

 地球侵略を諦め、地球を破棄する事を決めたのである。

 そして、母星に緊急通達を行い、最終兵器の使用を要請したのだった。


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