第96話 波〇砲! 撃て―っ!!!
地球圏から一真が飛び立った頃、慧磨達は窮地に立たされていた。
「エネルギー残量、レッドライン間近です!」
「ど、どうにかならないのかね!?」
「あの一番奥にいる旗艦っぽいのに神風特攻しますか?」
「馬鹿言うんじゃない! この船には他国の首脳陣も乗ってるんだぞ!」
「乗ってる方が悪いと思います」
「それはそうだが……。だからと言って神風特攻はなしだ。他に何か案はないのか?」
「残りのエネルギーを全部使って秘密兵器で一網打尽とかですかね」
「そんなものがあるなら最初からそうしてくれ!」
「いえ、真面目にふざけて作った秘密兵器なんで使うと、この船はしばらく使い物にならなくなります。一応、航行は可能ですがそれだけですのでハチの巣にされちゃいますね」
お茶目に笑うクルーに対して慧磨は艦長席のひじ掛けをダンと叩いて頭をかきむしる。
「くそ! 地球の危機だって言うのに、どうしてこう馬鹿しかいないんだ!」
「宇宙人が襲来する事は想定していましたけど、まさかここまでの規模だとは思ってもいなかったので……」
「ちなみにその秘密兵器とやらは本当に敵艦隊を一網打尽に出来るのかね?」
「当たればですが……」
「当たらなければ無意味という事か……」
どっちも死ぬという究極の二択だ。
地球からの救援、具体的に言えば一真が駆けつけてくれるまでどのようにして時間を稼ぐべきかと慧磨は考える。
現在も集中砲火を浴びており、バリアを張らずに回避行動を優先し、エネルギーの消費を抑えてはいるが、すでにエネルギーの残量はレッドライン手前。
クルー達が言うにはレッドラインに到達すれば最低限の機能だけを残し、バリアやコーティングは全て解除されるとの事。
であれば、一か八かの大博打で秘密兵器を使い、敵の旗艦を撃ち落とすか。
そうすれば、相手は引き下がってくれるかもしれない。
だが、厄介なのは敵の数だ。
旗艦を撃墜したとしてもすぐに代わりの者が出てくるかもしれない。
そうなれば戦闘は続行し、こちらは全エネルギーを消費してしまっているので蜂の巣は確定だ。
「ハワイから緊急通信! 現在、一真君がこちらに向かって来ているそうです!」
「エネルギー残量、レッドラインに到達しました! これ以上の戦闘は危険です!」
「希望と絶望が同時にやってくるか……! 一真君がここまで到達するまでの時間は!?」
「凡そ五分です!」
「それまでエネルギーは持つか?」
「不必要な消費を削ればギリギリいける計算です!」
「であれば、やるしかないだろう! 総員、覚悟を決めろ!」
「イエッサー!!!」
一真が来るまでの五分間、瀬戸際の攻防が始まる。
クルー達はエネルギーの消費を抑え、回避行動に専念し、必死に時間を稼ぐ。
コーティングを解除し、多少の被弾はお構いなしとばかりに弾幕を潜り抜けていく。
「敵艦を落として、少しでも時間を稼ぐぞ!」
「ダメだ! さっきから試してるけど、装甲が固すぎる。俺達の火力じゃ敵艦は落とせない!」
「だったら、砲台とか脆そうな部分を破壊するんだよ!」
「だから、それも全部試した! こっちの火力じゃ無理なんだよ!」
「くそ~! このままじゃ一真君が来るまで天鳥船が耐えられない!」
球体型の小型船に乗っているクルー達が天鳥船をフォローしようと頑張っているが、火力不足でどうにも出来ない。
精々、クルー達が出来るのは近づいてくる敵の小型船を撃墜する事だけだ。
しかし、それでも数が多く、撃ち漏らしが出てしまい、天鳥船に取りつかれてしまう。
「うわああああああああああっ!」
「敵機、突っ込んでくるぞ!?」
天鳥船に張り付いた敵の小型船に特攻を仕掛ける。
小型船の特攻により敵の小型船は大破する。
その代償として小型船は航行不能となり、宇宙を漂うスクラップと化した。
「馬鹿!? 何やってるんだ!」
「へ、へへ……。流石、俺達が作った宇宙船だ」
「死んだらどうするつもりなんだ!」
「その時はその時さ……」
「馬鹿野郎が……!」
宇宙のスクラップと化しているがパイロットは無事であり、味方に回収されて事なきを得る。
しかし、もう戦う事は出来ないので天鳥船の中で自分が出来る事を見つけ、最後まで抗う事を決めたのだった。
「不味いですね……。敵も慣れてきたのか味方機が苦戦しはじめてます」
「ここに来てさらなるピンチか……」
「一真君の到着まで残り二分を切りました。ついでに言うと活動限界まで残り二分です」
「今度は冗談じゃないんだな?」
「はい。エネルギーの残量はこのままいけば残り二分で枯渇します」
「……いざとなれば秘密兵器を使う」
「よろしいのですか?」
「日本男児たるもの覚悟を見せねばなるまいて」
慧磨はそう言うと各国の首脳陣が待機している貴賓室へアナウンスを掛ける。
『各国の首脳陣へお詫び申し上げます。本艦は最後まで抵抗し、命尽きるその時まで戦う事を決めました』
「……そうか。こちらのモニターで外の状況を見ていた。かなり苦戦を強いられているのだろう。思うところはあるが……我々の命、預けようじゃないか」
『大変申し訳……いえ、ありがとうございます。貴方方のご覚悟、しかと受け取りました』
首脳陣は貴賓室に備え付けられていたモニターで戦況を確認しており、大分苦戦している事を知っていた。
もしかしたら、こういう時が来るかもしれないと覚悟はしていたのだ。
慧磨は彼等の覚悟に敬意を表し、お礼を述べるとアナウンスを切った。
もっとも勝手に乗り込んできた方が悪いと言えば、それまでの話だが。
「ふう~……」
「首脳陣の反応はどうでしたか?」
「全員、覚悟を決めていた様子だ。これで心置きなく秘密兵器を使える」
「おお~。それは僥倖ですね」
「ところで秘密兵器はエネルギー量に比例して威力を増すのかね?」
「そうですね。威力というよりは照射時間が伸びる感じですね」
「では、残りのエネルギーだと数秒程度か?」
「はい。三秒程くらいでしょう」
「期待してもいいのか?」
「期待してください。一真君と私達が考案したというよりも人類の夢を再現したものですので」
「もしや……秘密兵器というのはアレの事かね?」
「艦長が何を想像しているかは分かりませんが、私達と同じ思考ならアレで間違いありません」
「お、おおお~……! それならば期待出来るな!」
慧磨の想像するアレであるのならば、確かに敵艦を一網打尽に出来るだろう。こちらの想像を上回っていなければの話だが。
それでも、一真が来るまでの時間を稼ぐには最適かもしれない。
回避行動にも限界があり、バリアもエネルギー残量が心許ないものとなっている。
ならば、その秘密兵器とやらで敵の度肝を抜き、少しでも動きを止める事が出来れば儲けものだ。
「……艦長命令だ。やってくれ」
「アイアイサー!!!」
秘密兵器の使用許可がおりてクルー達はウキウキと機器を操作していく。
もしかしたら、数秒後には死ぬかもしれないが夢が叶うのであれば本望だ。
それにここで自分達が死んでも、きっと一真なら地球を救ってくれる。
そう信じているからこそ、クルー達は情熱の炎を燃やし、秘密兵器の発射準備を整えた。
「総員! 衝撃に備え、閃光に注意しろ! 艦長! あとは貴方が発射ボタンを押すだけです!!!」
「うむ!!!」
艦長席の足元から現れた発射スイッチ。
それを見て慧磨はゴクリと喉を鳴らす。
これを押せば逆転するかもしれないし、敗北するかもしれない。
だが、迷っている暇はもう残されていない。
一真が来るまで残り一分を切った。
そして、エネルギー量はもうほぼ残っていない。
これが全てを賭けた最後の一撃となるだろう。
「これが人類の、日本の底力だっ!!!」
慧磨が腹の底から力いっぱい声を出してボタンを押すと、天鳥船の船首から極太の青白い閃光が放たれる。
まるで箒星のように大艦隊をすり抜けていき、やがて細くなり、その軌跡だけを残して消えた。
そして次の瞬間、箒星が過ぎ去った箇所に配置されていた艦隊は大爆発を起こして宇宙の塵となったのである。
「な、なんだ今のは!? 何が起こった!?」
「敵艦からの砲撃です……。信じられない威力の光線でした」
「損害はどれだけだ!?」
「今、確認中です!」
とんでもない事態に閣下も流石に動揺してしまっている。
先程の一撃でどれだけの被害が出てしまったのかと計算が出た。
「……四割。こちらの船が四割沈められました」
「…………たった一隻の船に我々の大艦隊が四割も沈められた、と? 笑い話では済まされんぞ。これは懲罰ものだ」
「ど、どうします? 閣下」
「何としてでもあの船は落とせ。この落とし前をきっちりつけてやる!」
先程の攻撃に警戒しつつ、宇宙人達は編成を組み直した。
再配置が完了して閣下は命令を出し、天鳥船を落とそうと躍起になる。
しかし、その僅かな時間が命取りとなってしまった。
戦場に一真が現れたのだ。
紅蓮の騎士をモチーフにした真っ赤な機体に乗って、背中につけられている天使のような羽を広げ、どこぞの有名ロボットアニメのように威風堂々とした佇まいで派手に登場したのである。
コックピット内部では重低音のあるBGMが流れて、一真は最高にテンションが上がっていた。
「この戦争を終わらせに来た!」
某有名漫画のセリフをパクッて一真は渾身のドヤ顔を決めるのであった。
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