第95話 出撃!
地球の危機一髪を救った一真はハワイへと移動する。
世界中を股にかけ大冒険してきた一真。
土産話を沢山持って帰ってきたのだが時と場合を選んだ方が身の為だろう。
「ねえ、聞いて聞いて!」
「ふんっ!」
「ぐはぁっ!」
ハワイの基地について早々、一真は桃子のフィニッシュブローを食らい、膝から崩れ落ちる。
「容赦ない一撃ね~」
「出だしから嫌な予感がしましたので問答無用で黙らせました」
「まあ、女子高校生みたいなテンションだったものね~」
地球の存亡がかかっている時だというのに緊張感の欠片もない一真。
普段通りである事に関しては心強く感じるが、時と場合は考えるべきであろう。
宇宙では慧磨達が命を賭けて戦っているのだ。
そのような時にふざけるのは流石に無しである。
「うぅ……。頑張って来たのに」
「頑張ってくれたのは分かってます。ですが、このような非常事態にふざけるのは許しません」
そう言って桃子がタブレットを渡し、世界中で中継されている宇宙の様子を一真に見せた。
衛星カメラに映し出されている光景を全国ネットで流しているのだろう。
衛星軌道上では大艦隊を相手に天鳥船が獅子奮迅の活躍を見せ、孤軍奮闘していた。
「……ダメだな」
「え? 善戦していますが?」
「善戦してるからこっちが優勢だとは思うが実際は違うな。物量が違いすぎる。このままだと、こっちのエネルギー切れで敗北だ」
「え!? それは本当ですか!?」
「残念だけど嘘じゃない。俺が協力して、ほぼ無尽蔵のエネルギーを生み出すエンジンを組み込んでるが……」
「ほぼって事は何か弱点でもあるの?」
「ほぼ無尽蔵だというのはエネルギーを消費すると、すぐに回復すようになってるんだ。だから、エネルギー消費量が大きければ大きいほど、回復に時間がかかる」
「つまり、それって今の状況だと……」
「恐らく、回復が間に合ってない。多分、ブリッジでは阿鼻叫喚してるだろう」
一真の予想通りで天鳥船のブリッジではクルー達がてんやわんやしていた。
エネルギーの残量がみるみる減っていき、ゲージはもう既にイエローラインにまで到達している。
レッドラインに到達すれば、エネルギー回復の為に緊急停止しなければならなくなる。
一応、リミッターを外してエネルギーが枯渇するまで活動は可能だが、そうなると集中砲火を浴びれば即お陀仏だ。
「活動限界まで後40秒!」
「何!? それは本当か!?」
「いえ、言いたかっただけです」
「こんな非常時にふざけてる場合か!」
「戦艦ドリフトぉぉおおおお!」
「ぬわあああああああああ!?」
少しでもエネルギーを温存する為にバリアを切って回避行動に出る。
180度船体を回転させて砲撃を避ける天鳥船。
反重力装置が搭載されているが自動車に乗っているのと変わらないので、凄まじい重力が体に圧し掛かり、慧磨は悲鳴を上げる。
「次はバレルロールだ!!!」
「大統領達も乗っているんだぞ! 少しは加減しろ!」
「悠長な事を言っている暇はありませんよ! 次が来るぞ!」
「任せろぉぉぉぉ!!!」
艦内にアナウンスが流れ、貴賓室に移動していた大統領達は近くの椅子や壁にしがみついてバレルロールを耐え抜いている。
面白そうだから乗ってみたが天鳥船のアクロバティックな動きに大統領達は乗った事を後悔するのであった。
「あの回避性能は凄まじいな……」
「操縦士もですね。アレだけのテクニックはそうお目にかかれないでしょう」
絨毯爆撃のように砲撃を撃ち続けている宇宙人達は僅かな隙間を狙って砲撃を避けてみせた天鳥船に称賛する。
だが、それと同時に確信していた。
攻撃を続けていれば、いずれ天鳥船を落とせるという確信を。
バリアを張り続けていれば天鳥船は撃墜されなかっただろうに、態々回避行動を取っているのはエネルギーの消費を恐れての事だろうと容易に分かる。
だからこそ、宇宙人達は物量で押す作戦に切り替えた。
「さて、後は時間の問題だな」
「ですね。最初こそ焦りましたが、やはりあれだけの性能であればエネルギー消費量も凄まじいのでしょう。このまま攻撃を続けていれば、間違いなく撃墜出来るでしょうね」
「出来れば鹵獲したかったが……。まあ、地球を支配した後にじっくりと調べればいいだけの話か」
天鳥船の性能は宇宙人から見ても凄まじいもので、出来る事ならば撃墜などせずに鹵獲したかったと口惜しそうにしている。
とはいえ、地球さえ手に入れれば、あの技術は自分達のものになると確信している為、撃墜する事は確定していた。
「ところで貴方は行かれないんですか?」
「……転移出来ないんだ。俺は一度行った事のある場所や目に見える範囲なら行けるんだが……流石にあの船の中には無理だね!」
転移魔法は便利ではあるが使用するにはいくつかの条件があるのだ。
一真は行った事のない場所には転移できないようになっている。
だから、その場所に足を運ばなければならないのだ。
「でも、あの船は貴方が作ったんでしょ?」
「作ったが乗ってないんだよね……」
「いつもならいの一番に艦長席に座ってるのに、どうして今回は乗らなかったんですか?」
「他にも色々と作ってたから。そっちが楽しくて……」
「目移りしちゃったわけね」
ハワイを魔改造していた時に乗船していれば、すぐにでも駆け付けれたのにと一真は悔しそうに奥歯を噛み締める。
「どうするの? パワードスーツを着て大気圏を突破でもするの?」
「まあ、それしかないだろうな。早く行かないと慧磨さん達がやばそうだし」
桜儚の問いかけに一真は答える。
現在、一真が装着しているパワードスーツは宇宙空間でも活動出来るように改造されており、大気圏の突破も可能である。
パワードスーツを身に纏い、一真は基地から飛び立とうとした時、アリシアとシャルロットがやってきた。
「一真~!」
「一真さ~ん!」
「お? アリシアとシャルじゃないか。どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもないわよ。国で留守番してるように頼まれたけど、ネットの中継で宇宙人と戦争してるって知ったら居ても立っても居られないわ」
「同じくです。まさか、映画のような展開になるとは思いませんでした! 一真さん! 私、いつでも宇宙に行けます!」
「あ~、うん。二人も知っての通り、宇宙人はキング達よりも強いんだ。流石に連れて行けない」
「でも、一真がいれば平気でしょ?」
「一真さんは最強ですからね!」
「ごめんな。今回は数が多すぎるのと不確定要素がありすぎる。だから、今回ばかりは二人ともお留守番だ」
「ここでもお留守番なの……?」
「残念です。でも、一真さんがそう言うのなら従います」
折角、遠路はるばるハワイにまでやって来たというのにお留守番だと聞いてアリシアとシャルロットはガックリと肩を落とす。
出来る事なら一真も一緒に連れて行ってあげたかったが、今回ばかりは不安要素が多いので一人で向かう事にしていた。
自分が負けたら人類も滅亡するかもしれないが、もしかしたら労働力として生かしてくれるかもしれない。
ただ、あくまでもかもしれないので最悪は想定しておかなければならない。
最悪の未来を回避する為にも一真は本気を出そうと決めたのだった。
「うっし! いっちょ、やるか!」
「あ、待ってください!」
一真がパワードスーツを展開して、宇宙に飛び立とうと気合を入れていたら、倉茂工業の従業員が駆け寄ってくる。
「どうした? 何かあるのか?」
「実は一真君専用のロボットが出来てるんですよ! 勿論、水陸両用で宇宙空間でも使えます!」
「マジ!? うっひょー! 早く案内して!」
「はい! ついて来てください!」
子供のようにぴょんと跳ね上がり、一真は嬉しそうに従業員のあとをついていく。
案内された場所は、これまたどこぞのアニメ作品を真似たような格納庫で、そこには二足歩行型のロボットが立っていた。
「うわ~、うわ~……うわ~」
語彙力を失ってしまった一真は自分専用のロボットを見上げている。
隣で従業員がロボットについて説明をしているのだが一真は完全に惚けており、説明が全く耳に入っていない。
恐らく、このままでは派手にやらかしてしまうだろう。
「それではこちらでサポートしますので。どうぞ宇宙まで行って地球を救ってください!」
「任せとけ!!!」
最高にテンションが上がっている一真は従業員からパイロットスーツを受け取り、速攻で着替えてコックピットに搭乗する。
大人が本気で遊び心満載で作ったコックピットはまさにオタクの理想を再現していた。
操縦桿を握り、複雑な電子機器の数を見て一真は目を輝かせる。
「では、ご武運を」
最終点検を終えた従業員達は一真に敬礼をして見送る。
一真は教えてもらった通りにロボットを動かし、格納庫からカタパルトへ向かって歩き、射出機に足を固定してもらう。
大気圏を突破出来るように補助のブースターを取り付けてもらい、出撃準備が整った。
「カウントダウン入ります! 3、2、1!」
「一真! 行きまーすッ!!!」
一真の乗ったロボットがカタパルトで射出され、宇宙へと飛び立っていく。
その様子を見ていた従業員は抱き合って喜び、桃子達女性陣は呆れた様子で眺めていた。
「今、行きます!」
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