第94話 スターウォー〇やん!

 大艦隊に対して一隻の宇宙船が立ち向かう。

 絶望的な状況ではあるが、クルー達の瞳には希望の光が満ちていた。

 負けるはずがない、と。

 自分達が作り上げた宇宙船は決して敵の宇宙船に劣ってはいないという確かな自信があった。


「たった一隻でどうするつもりだと言うのか」

「どうされますか? 閣下」

「…………」


 集中砲火で撃墜すればいいと思ったのだが、咄嗟に思い留まる。

 敵は一隻だけ。笑いものであり、脅威にすらならない。

 しかし、地球から送られてきたデータの中にいた紅蓮の騎士が気になる。

 たった一人で偵察部隊を叩き潰した実力者が沈黙しているのが妙に恐ろしい。


 あの宇宙船に搭乗しているのだろうか。

 それとも虎視眈々とこちらを狙っているのだろうか。

 長年の経験が不安を感じ、閣下は命令を出せないでいた。


「……紅蓮の騎士がどう動くか」

「データにあった要注意人物ですね」

「先程の強気な発言は紅蓮の騎士がいての事だろうが……」

「この大艦隊を相手に委縮しているのではないでしょうか?」

「だといいが……」


 データでは紅蓮の騎士の異能は置換という非戦闘要員でしかなく、戦闘力も5と8しかない。

 だが、偵察隊を圧倒したのは紛れもない事実だ。

 それに紅蓮の騎士は計測器でも計れない力を秘めている。

 であれば、警戒するに越した事はないだろう。


「広範囲にスキャンをかけろ。不審なものを発見次第、即報告せよ」

「はっ!」

「紅蓮の騎士に警戒しつつ、目の前の敵を撃ち落とす。各員砲撃準備! ド田舎の猿共に格の違いを思い知らせてやれ!」


 大艦隊の砲台が慧磨達が載っている宇宙船に向けられる。

 集中砲火で撃ち落とすつもりだ。

 砲台を向けられ、明確な殺意を浴びる慧磨達はゴクリと喉を鳴らす。


「大丈夫なのかね?」

「大丈夫です! 多分……」

「多分じゃないよ! 多分じゃ! あんな啖呵を切った手前、一瞬で宇宙の塵になったなんて末代までの恥ではないか!」

「いや、一応一真君の協力のもと耐久テストはしてるんで、大丈夫だとは思うんですが……」

「その耐久テストはどういうものなんだね?」

「一真君の割とシャレにならない攻撃ですね。とんでもないですよ、彼。どこぞの怪獣みたいな熱線を手から出せますし」

「で、結果は?」

「千発受けてもビクともしませんでした!」

「それは素晴らしいが……」

「敵の砲撃がどれほどの威力かですね……。流石に一真君以上だと自信がありません」

「う~む……。まあ、どのみち、後には引けん。ここは一真君を信じてみようじゃないか。それに、もしも私達が死んでもまだ地球には一真君がいる。何とかなるさ」

「そうですね。不思議と彼がいるなら大丈夫だと思えてきました!」

「よし! では、腹を括るとしよう!」


 クルー達が機器を操作してバリアを展開。

 そして、船をコーティング。耐熱、耐寒、耐電と様々な耐性を上げる。

 ガッチガチに守りを固めた慧磨は最後に気になっていた事をクルーに尋ねた。


「ところで、この船の名前は何と言うのかね? 名前がないと、こう、なんというかもどかしくて仕方がないんだ」

「この船の名前はアニメや漫画、小説から映画まで参考にして考えたのですが、最終的に日本神話にあやかり、天鳥船あめのとりふねと名付けました」

「お~。私好みだ。いい名前じゃないか。確か、イザナミとイザナギが生んだ神であり、神が乗る船の名前だったかな」

「はい。流石に本名は長いからと別名にしましたが」

「長すぎても呼びにくいだけだからいいのではないかね?」

「一真君と同じことを言ってますね」

「ぐ、む……」


 抱いた感想が一真と同じと聞いて慧磨は少しだけ恥ずかしそうに顔を背けた。一真と同じという事は少なくとも子供のような発想レベルだ。

 それが五十歳にもなる自分が言ったのだと思うと慧磨は赤面せずにはいられなかった。


「んんっ! 気を取り直して、天鳥船の初陣と行こうじゃないか!」

「ヨーソロー!」


 敵艦隊に向かって真っすぐ突き進む天鳥船。

 バリアを展開し、船体にコーティングが施された天鳥船。

 迎え撃つは大艦隊。地球の存亡をかけた決戦が幕を開けた。


「撃てぇッ!!!」


 閣下の号令のもと、真っすぐに向かってくる天鳥船に大艦隊の集中砲火。

 数えるのも馬鹿らしくなるくらいの熱線に砲弾が天鳥船に直撃する。

 爆炎が宇宙を照らし、まるで花火でも上がったかのように煌めいていた。


「敵機確認! そんな……アレだけの砲撃を受けて傷一つないのか!?」


 爆炎の中からゆっくりとした速度で姿を現したのは無傷の天鳥船。

 あれほどの集中砲火を浴びて、一切損傷をしていない天鳥船を見て宇宙人達は驚愕に目を見開く。

 今まで見た事のない光景に宇宙人達は動揺を隠せないでいた。


「……もう一度、撃て」


 しかし、その中で閣下だけは動揺せずにもう一度砲撃を行うように命じた。

 紅蓮の騎士というイレギュラーが存在するのだから、他にも何かあるのだろうと最初から予想していたのだ。

 これくらいでは動揺などしていられない。


「はっ!」


 動揺して騒がしかったブリッジは閣下の一言で落ち着きを取り戻し、他の船に砲撃準備の合図を送る。

 そして、再び天鳥船に向かって大艦隊の集中砲火が直撃した。


「敵機残存……。こちらの砲撃が効いていません」

「よもや、こちらの想定を上回る技術を隠していたか……!」

「いかがいたしましょう?」

「後退しつつ、砲撃を続けろ。バリアを展開しているようだが、エネルギーが枯渇すれば撃墜は可能だろう。だが、どれほどのエネルギー量を保有しているか分からない以上、他の方法も試しておくべきだ。小型船を出し、兵を直接送り込むのだ」

「畏まりました! 戦闘員は配置につけ! 直接、乗り込んで制圧するぞ!」


 そうと決まれば戦闘員はすぐさま小型船に乗り込み、意気揚々と出撃する。

 天鳥船に向かって、数多くの小型船が向かい、じわりじわりと逃げ道を塞いでいく。


「このままでは囲まれてしまうぞ!」

「ご安心を! こちらにも策はあります! 目には目を歯には歯を! そして、小型船には小型船をぶつけるんだよぉ!」


 敵艦隊から小型船が出撃した時、天鳥船のクルー達も迎撃する為に小型船に乗り込んでいた。

 合図と共に天鳥船のハッチから球体型の小型船が何十機と飛び出ていき、敵機を迎え撃つ。


「ついにこの日がやって来た!」

「FPSで練習した成果を見せてやる!」

「ゲーセンで鍛えた俺のテクニックをお披露目してやるぜ!」

「インベーダーゲーム県大会三位の実力を見せてやろう!」

「ロックオンして引き金を引く、ロックオンして引き金を引く」

「俺ならできる、俺ならできる、俺ならできる」

「I can do it!  can I do it!?」

「うおおおおお! やってやるぜ!」


 それぞれのコックピットは様々な形状をしている。

 アケコン、パッド、ピアノ盤、普通の操縦桿とバラエティ豊かだ。

 理由は使いやすい、かっこいいからと下らないものばかりだが、クルー達は真剣そのものだ。


「そのような小さな鉄くずで何ができる!」


 天鳥船から飛び出してきた小型船を見て宇宙人達は馬鹿にするように笑う。

 確かに天鳥船は脅威だが球体型の小さな宇宙船は玩具にしか見えない。

 それでどうやって戦うのかと笑っていたら、味方の船が撃墜され、顔を真っ青にする。


「舐めるなよ! こいつはな、俺達のご先祖様が空想の中で作り出した素晴らしいものなんだ! その性能は決して低くない!」

「ば、バカな!? あの球体にあれほどの性能があるなんて信じられない!」

「人類を舐めた報いを受けやがれーっ!」


 クルー達は縦横無尽に宇宙を飛び回り、敵機を撃墜していく。

 宇宙人側も黙ってやられるわけにもいかず、球体を追い回すが旋回性能が段違いすぎて追い付かない。


「くたばれーっ!!!」

「うわああああああああああっ!」


 一つ、また一つ撃墜されていく。

 宇宙人達は悪夢でも見ているかのような気分であった。

 簡単な仕事だったはずだ。

 大艦隊で押し寄せれば、いかに強者であろうとも戦う気力が失せる。

 そう思っていたのに、蓋を開けてみれば悪夢のような光景だ。

 宇宙人達が茫然自失になってしまうのも無理はないだろう。


「か、閣下! こ、このままでは!」

「狼狽えるな。少々、卑劣ではあるが地球を狙え。そうすれば余裕はなくなるだろう」

「よろしいのですか? 地球は売りに出すのですよね?」

「後で直せばいい。今は、あの目の前の者達を片付けるのが最優先だ」

「わ、分かりました! 各員に告ぐ! 標的を地球へ変更! 合図があるまで待機せよ!」


 格下相手に苦汁を飲まされるとは思わなかった。

 しかし、向こうは地球を背に戦っており、防衛戦をしているのだ。

 被害はこちらの方が上だが、手段を選ばなければ、いつでも形勢逆転は可能であった。


「敵艦隊の様子がおかしいな……」


 砲撃が少なくなり、諦めたのかと思ったが敵艦隊の砲台が地球に向けられているのを確認した慧磨は大声を出す。


「しまった! 奴ら、地球を狙うつもりだ!」

「成る程。天鳥船が落とせないなら地球をというわけですか……」

「呑気な事を言っている場合か! すぐに止めないと!」

「無理です! 今からでは間に合いません!」

「では、盾にでもなれないか!?」

「バリアを広げても地球全体をカバーするには足りません!」

「くぅ……! 何か、他に打つ手はないのか!?」

「フルスロットルで大艦隊に突っ込めばワンチャンいけるのでは?」

「いや、無理だ。エンジンがもたん。バリアの常時展開でかなりのエネルギーを消費しているのに、ここにきてフルスロットルで突撃なんてすれば動けなくなるぞ」

「地球オワタ」

「オワタではないわ! 何か、何かないのか~……」


 と、そこへ一真から通信が入る。


『バリア発生装置の配置が完了しました。いつでも起動出来ますよ~』

「最高のタイミングだ! すぐにバリアを起動せよ!」

「ラジャ―!」


 地球に向かって砲撃が放たれ、悲惨な未来が訪れようとしていたが寸前の所でバリアが展開され、見事に砲撃を防ぎ切る。

 間一髪のところで地球は守られ、慧磨達は安堵に胸を撫でおろすのであった。

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