第91話 敵は宙の彼方に
まさか、キングや太陽王に覇王までもが対処不可能と来た。
一真は焦りを感じ、不審者を引き連れて慧磨のもとへ転移する
慧磨のもとには回復して起き上がっている真人と秘書の月海がいた。
不審者を片手で持っている一真がいきなり現れて、三人は目を丸くしたが無事に勝利した事を知って胸を撫で下ろす。
「どうやら、無事だったみたいだね……」
「まあね。とりあえず、捕まえて来たのはいいんですけど、どうやらこいつ一人じゃないみたいですわ」
「まさか、複数存在しているのか!?」
「さっき、各国の友人達に渡してたお守りが使われました。キング、覇王、太陽王、騎士王の四人が敗北。すでに四人は国へ報告していますから、また緊急世界会議でしょうね……」
「……冗談だったりしないか?」
「慧磨さん。残念ながら今回はやばいっす。対応出来るのは俺一人な上に加えて敵は神出鬼没。今のところ、後手に回るばかりでこちらから打って出る事は不可能っす。腹括るしかない」
「そうか……。そうか~~~」
一真の言葉を聞いてどうしようもない現実に打ちのめされた慧磨はどさっとソファに倒れるように腰を下ろす。
慧磨が頭を抱えているとアメリカから緊急通信が入り、一真の言っていた通り緊急世界会議が行われる事になった。
流石に一真も今回ばかりは渋っていられないので転移魔法で各国を回り、首脳陣と異能者を集める。
つい先日に世界会議を行ったばかりだと言うが、今回は人類、ひいては地球の存亡が掛かっているかもしれない。
不審者の襲撃がなかった国の首脳陣も事の重要性を理解していた。
「今回は紅蓮の騎士のおかげで襲撃犯を捕らえる事が出来た。すでに身柄は拘束しており、危険性はないが……実力は紅蓮の騎士以外では勝てないと言う事が判明している」
キング、覇王、太陽王、騎士王の四人が成す術もなく敗北したという衝撃的なニュースが各国の首脳陣をざわめかせる。
紅蓮の騎士の登場で前者の四人はその存在感が霞んでしまったが、実力は誰もが知っている通り、世界でもトップクラスだ。
そのような強者が成す術もなく不審者に負けたと聞いては冷静ではいられないだろう。
「紅蓮の騎士よ。件の不審者を連れて来てくれないか?」
そう言われて一真は捕まえていた不審者達を会議場のど真ん中に置いた。
全員が同じような白いローブで顔を隠しており、全貌が窺えないようになっている。
「我々を拷問するつもりだろうが決して口は割らんぞ!」
「あれ? 目が覚めてたのか」
「当たり前だ。拘束されてからどれだけ時間が経っていると思う!」
「え~……30分くらい?」
「それだけあれば目が覚めるわ! そんな事も分からないのか、原始人め」
「誰が原始人だ!」
「ぐあっ!」
いきなり原始人呼ばわりされて一真は怒って喚いている不審者に向かって拳骨を落とした。
「ぐぅ……! どうして、お前のようなゴミクズの攻撃がこんなにも痛いのだ……」
「原始人って言ったり、ゴミクズって言ったり、お前等はどれだけ俺を怒らせたいんだ!」
「うぎゃっ!」
馬鹿にされる事は別に構わないが明確に蔑まれている事に関しては許せないと一真は二度目の拳骨をお見舞いする。
各国の首脳陣の前で紅蓮の騎士が不審者を拳骨している姿はシュールだが、これでは話が進まないと慧磨が一真を止めた。
「一真君。話が進まないから落ち着いてくれ」
「……うっす」
不服ではあるが慧磨の言う事が正しいと一真は素直に引き下がった。
一真が下がり、慧磨が不審者達に歩み寄り、質問をする。
「さて、まずは相互理解の為に挨拶から始めようか。私の名前は斎藤慧磨。日本という島国で総理大臣という役職についている。君達の名前、目的、出身地など教えて頂けないだろうか?」
「ふん。誰が喋るものか!」
「それは困ったな。出来れば穏便に話を済ませたいのだが……」
「最初から拷問でもなんでもすればいい! だが、覚悟しておく事だな! お前達には一刻の猶予もないのだ!」
「それはどう意味だろうか?」
「ハッ! 教えるわけがないだろう!」
「……そうか。そちらがそういうのならこちらも好きやらせてもらおう」
という訳で慧磨は一真に再びバトンタッチ。
流石に首脳陣の前で拷問ショーなどは出来ないので一真は桃子と桜儚を召喚。
読心と洗脳の異能者が揃えば、拷問の必要など皆無であろう。
ただし、不審者に通用するかどうかは分からないが。
「いきなり新しい事をするのはやめてください! 心臓が止まるかと思いましたよ!」
一真と一緒に転移した事は多々あるが、いきなり足元に召喚用魔法陣が現れ、別の場所に飛ばされる経験がなかった桃子はパニックを起こす。
一真の仕業だという事は分かっているのだが、今までにない体験だったので桃子は心臓が止まりそうなほどに驚いていた。
「私もびっくりしたわ~。いきなり足元が光ったと思ったら、幾何学模様が浮かび上がってきて目を閉じて開けたら、知らない場所だもの~」
「ごめんね。桃子ちゃん。ちょっと、緊急事態だから転移して用件を話している時間が無かったんだ」
「……周囲を見れば事情は理解できます。ただ、次からは一言お願いします。トイレやお風呂の際に呼ばれたら大惨事ですからね」
「ういうい」
それから一真は桃子と桜儚の二人に状況を説明する。
不審者に聞きたい事があるので読心と洗脳を使って尋問を行う。
その為に協力して欲しいと一真はお願いした。
「分かりました。やってみましょう」
「面白そうね~」
不審者達は拘束しているが念の為に一真は二人の護衛として傍につく。
桃子と桜儚は異能を発動させ、不審者達に質問をする。
「では、貴方の名前を教えて頂けないでしょうか?」
「人を変えた所で意味はない! 喋るわけがないだろう!」
「…………」
目の前の不審者の心が読めたのか、桃子は怪訝そうな顔つきで一真の方へ顔を向ける。
「どうしたの? 桃子ちゃん。もしかして、心が読めなかった?」
「はい。心を読んだのですが何も聞こえません」
「こういう事は他にもあった?」
「いえ、貴方や桜儚のように出鱈目な事はありましたけど、全くの無音は一度もありませんでした」
力及ばず申し訳ないと桃子は頭を下げる。
元々、他の異能者からも不審者には異能が通じない事を聞いていた一真は桃子を責める事なく、義務を果たしてくれた事に感謝する。
そして、同じく洗脳を試みていた桜儚も収穫無しと肩を竦めているのを見て、一真は不審者達が何らかの能力、もしくは装置などを使って異能を無効化している事を確信した。
「はあ……。面倒だな~」
読心、洗脳どころか異能が効かないとなれば、やる事は一つ。
一真は魔法を使って不審者達から情報を引き出す事に決めた。
「さっさと終わらせるか~」
「ねえ、さっきから気になったんだけど」
「なんだよ? どうでもいい事なら後にしてほしいんだが」
「あの不審者達って捕まってるのに、ずっと喧嘩腰の態度なのが不思議だわ~。言葉を聞いていれば自分達の置かれてる立場が理解出来てるはずなのに~」
「そんなもんじゃないのか?」
「確かにフィクションだとそうね~。でも、同じくフィクションと同じとは考えられない? 捕まったが自分達は圧倒的に有利な立場である事に変わりはないって……」
「ッ!!!」
桜儚の言葉を聞いて一真は何故その可能性を考慮しなかったのかと焦燥感に駆られる。
あの不審者達は拘束されており、自分達がどういう立ち位置なのかを理解しているはずなのに、あの言いぐさは勝利を確信しているに違いない。
そもそも、不審者達は圧倒的な実力を有しており、地球の文明より遥かな高度の文明を築いているのだ。
「くそったれが! 本国に通信済みか!」
一真は最悪の展開を予測して不審者達のフードをめくる。
そこには真っ白なサングラス状のバイザーでこちらを覗き込んでいる不審者達の顔があった。
恐らくは、あのバイザーでこちらの戦闘力を計り、言語などを学習し、翻訳して喋っていたのだろう。
そして、同時に映像、音声などといったデータをリアルタイムで本国へ送信しているに違いない。
「気が付いたか……。だが、もう遅いわ!」
「やかましい!」
「ぐあっ!」
勝ち誇った笑みを浮かべている不審者から一真はバイザーを奪って破壊しようとしたが、敵の技術を盗めるチャンスであると思い留まり、異空間へとしまう。
「慧磨さん! 話は聞いていましたね!」
「ああ! 聞いていた。思っている以上に最悪の事態だという事がはっきりと分かった。一真君。全責任は私が取る。好きなようにやってくれたまえ!」
「太っ腹ですね! 損害額に泡吹いて倒れないようにしてくださいよ!」
「それなら心配はないさ。ここにいる一同が保証する」
「大統領! それは本当なんです!?」
「地球の危機なんだ。日本だけにいい格好はさせられないだろう? もっとも、戦闘に関しては力になれそうにないがね……」
「十分です! 後方支援が万全なら俺も遠慮なく戦えます!」
一真は他の不審者達が身に着けていたバイザーを破壊して、情報の送信を止めたがもう間に合わないだろう。
それでも戦わなければならぬと一真は遥か空の彼方にいるであろう敵を見つめるように天井を睨みつけるのであった。
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