第92話 宇宙人襲来!

 一真がバイザーを破壊した後、遠い宇宙の彼方で地球に偵察を送った者達がモニタールームで送られて来ていたデータを眺めていた。

 しかし、途中で一真に気づかれてしまい、全ての通信機器は破壊されてしまったが、すでに十分なデータが揃っているのでモニタールームの最奥に鎮座していた者が部下へ命令を下す。


「敵の戦力は知れた。紅蓮の騎士を脅威と認定。上方修正し、軍の編成を一個中隊から大艦隊へ変更する」

「大艦隊ですか? 星間戦争並みの戦力をあのような小惑星に?」

「偵察隊は我が軍のエリートで編成された部隊だ。それをああも簡単にあしらうのを見る限り、油断は出来まい」

「ですが、所詮は少人数です。大隊レベルで十分ではないかと」

「その意見は正しいのだが、送られてきた戦闘データに不可解な点がある。それは敵の戦闘力があまりにも低すぎるという事だ」

「た、確かに送られてきたデータは赤子よりも低い戦闘力でしたが……」

「そうだ。赤子よりも弱いのだ。だというのに、我が軍のエリート達で編成していた偵察隊をたったの一人で壊滅させたのだ。何かがあると思わないか?」

「言われてみればそうですね……。機械の故障とは思えないし……」

「そうであろう? であれば、こちらの出せる最大戦力をもって叩き潰す」

「しかし、燃料や物資などはどうするのですか?」

「議長達に先のデータを送っても信じはしないだろうからな……」

「どうします? 閣下」

「仕方がない……。データを改竄しろ。責任は私が取る」

「よろしいのですか? もしも、発覚した時は閣下が……」

「何、そうなったらそうなったで構わんさ。貯蓄は十分にある。田舎でまったりと隠居生活でも送らせてもらうとするよ」


 どこの国、どこの星もやはり政府が一枚岩とは限らないのだろう。

 現場を知らない者が荒唐無稽な指示を出し、現場を苦しめるのはどこも同じなのかもしれない。


「ですが、女王陛下にはどう説明するのですか?」

「勿論、全てを話す。陛下は聡明なお方だ。腐りきった議長達とは違う」

「分かりました。では、議長達へ渡すデータと陛下へお渡しするデータをご用意しますね」

「頼んだ」


 そうして、閣下と呼ばれた人物は議長達を上手い事、言いくるめて大艦隊を編成し、地球に侵略へ向かう事が決まった。

 勿論、女王には全てを明かし、切り札を用意する事が出来たので準備万端。

 星々を渡る船の点検を終え、部隊の配置が終わり、全ての準備を終えた閣下は地球に向けて出発するのであった。


 ◇◇◇◇


 空を埋め尽くすほどの大艦隊が地球に向かっている頃、一真は倉茂工業のもとにやって来ていた。

 緊急事態に加えて総理どころか各国の首脳陣から好きなだけやってくれと仰せつかっているので一真は倉茂工業に全力を要求する。


「お前等! 各国の首脳陣から好きにやってくれとお墨付きをもらった! 地球の存亡をかけた大作戦だ! 皆、その力を思う存分発揮してくれ!」

『イエアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 目覚めてはいけない獣達が目を覚ます。

 本来であれば眠っていたはずの本性が姿を現し、倉茂工業の従業員は地球の存亡とかどうでもよくなり、自分達の研究成果を発揮出来る瞬間に昂っていた。


「か、一真君! こ、これらの装備をだね!」

「おい、どけ! 一真君、こっちの兵器なんてどうかな!?」

「邪魔だ! 一真君! この兵装なんだが」

「バカヤロー! 敵が宇宙人ならロボットが必要だろうが!」

「アホか! 宇宙船に決まってんだろ!」

「機動要塞とかどうかな!?」

「ドリルはいりませんか? 天を貫くドリルはいかがです?」

「まだアイドルの確保が出来てません……!」

「鉢巻とブルマでいく?」

「合体は浪漫だから必須だよね!?」

「超重力発生装置を持って行きましょう!」

「光の巨人になれる装置はいりません? まだ試作段階ですけど」


 やんややんやと一真の周囲に集まり、自分の作ったモノを使ってもらいたいという子供のように押し付けてくる従業員。

 一真も全員の作ったモノを使ってやりたいのだが、残念な事に体が一つしかないので無理だ。

 とはいえ、自動で動くゴーレムがいるのでその点は問題ないはず。

 だが、一真は自分が使いたいのでゴーレムに任せるという事はしなかった。


「まあ、まだ宇宙人が侵略に来るか分かって――」


 従業員を宥めていた時、ウーウーという警報音が鳴り響き、一真は戦闘態勢を取る。


「なんだ!? 何があった!?」

「た、大変です! 衛星軌道上に未確認飛行物体が多数!」

「数は分からないのか!?」

「数えるのが馬鹿らしくなるほどの大艦隊です!!!」

「「「「「「なんだってー!?」」」」」」


 倉茂工業に設置されている巨大スクリーンで衛星軌道を確認すると、そこには夥しい数の未確認飛行物体が浮いていた。

 まさに未知との遭遇。未知の襲来。地球侵略という光景である。


「うわ~。すげ~」

「映画みたいですね」

「感心してる場合ではないだろう!」


 一真や従業員が呑気に宇宙船を眺めていると、いつの間にかやって来ていた慧磨が怒鳴り声をあげる。

 このような非常事態に何を遊んでいるのかと怒り心頭である。

 もしも、あの大艦隊から一斉砲撃されれば地球はひとたまりもないだろう。

 それを理解しているのかと小一時間くらい問い詰めたくなるが、今はそのような時間はない。

 慧磨は一真に防衛システムは完成しているのかを尋ねた。


「一真君。前にお願いしていた防衛システムは完成しているのかね?」

「え? もう出来てると思いますが……」


 防衛システムの事を聞かれて一真はちらりと昌三へ目を向ける。

 倉茂工業の最高責任者である昌三は慧磨に防衛システムが関せしている事を告げた。


「総理。防衛システムは完成しておりますが……」

「が? なんだね?」

「配置が完了していません。我々が開発した防衛システムは地球全体を包み込むバリアなのですが、起点となるバリア発生装置の配置が出来ていないのです」

「なんだと……! まさか、ずっと遊んでいたのか!」

「いえ、配置に関しては各国の協力が必要なので総理に許可を得て貰えるようにお願いしていたはずです」

「……ちょ、ちょっと待っててくれ」


 言われて慧磨は月海に連絡し、報告書を確認してもらうと、倉茂工業から防衛システムの件についての資料が届けられていた事を知った。


「すまない。私の失態だ……」

「まあ、仕方ないすよ。こんな急に来るだなんて分からなかったんですから」

「そうとはいえ、私がもっと早くに確認しておけば……」

「たら、れば、は後にしましょう。今はお空にいるアイツらをどうするかです」

「あの~……一応なんですがハワイに我々が作った宇宙船がありますので、そちらで迎撃してみますか?」

「……ハワイに? なんだって?」

「ハワイに宇宙船があります」

「ホワイ?」


 ハワイが一真と倉茂工業、そしてアメリカの職人達によって魔改造されている事は慧磨も知っている。

 しかし、宇宙船まで作っているとは聞いていなかった。

 勿論、報告しなければならなかったのだが宇宙船など使う日が来るとは思っていなかったので誰も報告しなかったのだ。


「……報告を怠っていた事は後で叱るとして、今はよくやったと褒めておこう!」


 報告しなかった事は懲罰ものだが今は有難く重宝させてもらうと慧磨は奥歯を噛み締める。

 そして、同時に少しだけワクワクしていた。

 このような緊急事態に不謹慎だが宇宙船に乗れると分かって慧磨は少年時代を思い出す。

 出来れば白いキャップを被って艦長キャプテンになりたいが、自分は恐らく交渉役か傍観者だろうと慧磨は現実に肩を落とす。


「一真君。出来るだけ、私達が話し合いなりなんなりして時間を稼ぐ。君はバリア発生装置を各国に届けてくれないか?」

「許可は取らなくてもいいんです?」

「このような緊急事態に渋るような国は見捨ててしまえ」

「それ言ったらダメなやつじゃないですか?」

「地球の存亡がかかってるんだ。国の一つや二つは気にするな」

「男前ですね! 分かりました! 昌三さん! バリア発生装置の保管場所へ案内してください!」

「こちらです!」


 一真はバリア発生装置を異空間へしまい、慧磨達をハワイへ転移させ、一人で世界中を飛び回るのであった。

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