第90話 戦闘力8!?

 場面は切り替わり、イヴェーラ教のテロによって甚大な被害を被った被災地でイヴェーラ教の教祖である神藤真人が復興作業に勤しんでいた。

 強奪で奪った異能を用いて、今日も元気に復興作業している。

 逃げ出そうにも一真によって奴隷契約が結ばれているので逃げ出す事も出来ず、文句を言いながら作業していた。


「もう春が来るって言うのに、まだ肌寒いね~」

「俺に言われてもな……」


 真人の隣で一緒に瓦礫の撤去作業しているのは暁だ。

 彼はイヴェーラ教に唆され、テロに加担してしまった。

 幸いな事に死傷者が出なかった事と一真の友人であったので死刑まではいかず、真人と同じように政府の犬として過ごしている。

 今は浮遊の異能を使って真人と一緒に被災地の復興作業に勤しんでいた。


「そもそも俺達は文句を言える立場じゃないだろ」

「まあ、そうだけどさ~。僕らはある意味被害者じゃん?」

「被害者って紅蓮の騎士のか?」

「そうそう! あんな出鱈目な奴だって知ってたら絶対にちょっかいなんてかけなかったね!」

「いや、SNSとか配信サイトとかに紅蓮の騎士の実力はアップされてたんだからそれくらいは分かるだろ……」

「それはそう! でも、まさかあそこまでとは思わないじゃん?」

「知らねえよ。そんな事……」

「まあ、君に言っても仕方ないね~」


 真人は愚痴を零しながら瓦礫の撤去を続け、隣で暁も浮遊で瓦礫をどかせる。

 単純な作業ではあるが量が量なので一日では終わらないだろう。

 有難いのはブラック企業ではないので定時が来れば帰宅する事が出来る。

 勿論、帰る場所は政府が管理しているアパートだが、秩序や法律を守っていれば基本自由である。


「このような所に戦闘力6000を超える戦士がいようとはな……」


 二人が瓦礫の撤去を行っている時、背後から聞き覚えのない声が聞こえてくる。

 政府の監視はいるが現場で作業しているのは真人と暁の二人だけ。

 そして、ここは被災地であり、真人と暁が担当している政府の管轄地で入ってこれるのは関係者のみだ。


「誰だ!?」

「わは~。変てこりんな格好」

「ふむ。戦闘力は……350か。お前に用はない。失せろ」


 次の瞬間、二人の間に不審者が現れ、驚愕に目を見開くと暁は車に撥ねられたような衝撃を受ける。

 何が起こったのかも理解出来ずに暁は瓦礫の山に激突し、そのまま意識を失う。


「わお……。いきなりだね~」

「さて、戦闘力が6000もあるのだ。少しは遊べるな」

「戦闘力6000? それって僕の事?」

「そうとも。もっとも、お前では私には勝てんがな」

「へ~。じゃあ、君の方が強いんだ?」

「そうだ。私の戦闘力は17万。どうだ? 驚いたか?」

「う~ん……。そう言われてもピンとこないし……」


 戦闘力がどうのこうのと言われても真人からすれば意味不明である。

 確かに数値だけ聞けば向こうの方が上で自分は下だが、異能を使えば勝てない事もないだろう。そう判断して真人は臨戦態勢を取った。


「ふふ、少しは楽しませてくれよ?」

「出来る限り頑張ってみるよ~」


 そう言って真人は鑑定を発動し、不審者の異能を閲覧する。

 しかし、真人の目に映ったのはテレビの砂嵐のような光景だった。


「うわ……」

「私に鑑定を使ったのか。残念だったな。私には通じん」

「うそ~……」


 これは面倒だと理解した瞬間、真人は煙幕の異能を使って姿をくらまし、瓦礫の山に倒れていた暁を回収して、その場を離脱した。

 転移によって現場監督のもとへ逃げ込んだ真人は即座に状況を説明し、紅蓮の騎士へ要請を求める。


「変な奴に狙われてるから紅蓮の騎士を呼んで。僕じゃ勝てない」

「変な奴? ひょっとして……こんな奴か?」


 現場監督は上司から貰っていた不審者のイラストを真人に突きつける。

 それを見た真人はコクコクと首を縦に振り、不審者が襲撃に来た事を告げた。


「こいつだよ! さっき襲ってきたから鑑定してみたんだけど何も見えなかった! 多分、紅蓮の騎士と同等かも!」

「わ、分かった! すぐに本部へ連絡する!」

「なるべく急いでね~。逃げてきたけど、ここもすぐに見つかっちゃうかも」

「そうだな。お前の予想通りだ」


 背後から聞こえてくる声に真人は勢いよく振り返ると、そこには先程の不審者が立っていた。どうやら、撒けなかったらしい。

 もしかすると、何か探知機のようなものを持っている可能性が高い。

 ともかく、真人は自分が標的だと分かっている為、暁を現場監督に押し付けると急いで逃げ出す。


「逃げるばかりか……」


 現場監督の存在など知った事ではなく、不審者は真人が逃げて行った方角を睨みつける。


「まあ、狩りも悪くはないか」


 逃げ去っていく真人を追いかけるように不審者は姿を消した。

 あまりの出来事に困惑していた現場監督であったが、真人に言われた通り、すぐに本部へ連絡。

 それから、数分後に一真のもとへ慧磨から電話が来る。


「はい、もしもし~」

『一真君! 緊急事態だ! 神藤真人のもとにれいの不審者が襲撃に来たそうだ!』

「マジっすか!? 今すぐ向かいます!」

『携帯に場所を送ろう!』

「大丈夫っす! 奴隷契約を結んでるんで居場所は把握してます! それじゃ、ちょっと不審者を捕まえれるかどうかは分かりませんが出来るだけやってみます!」

『頼んだ!』


 慧磨からの連絡を受けて一真は真人のもとへ瞬間移動する。

 すると、一真の目に飛び込んできた光景は真人が不審者に首を掴ま、ぐったりしている所だった。


「む? こいつの仲間か?」


 一真の登場に気が付き、首を傾ける不審者。

 すかさず、一真は不審者に向かって跳躍し、不審者の顎に膝蹴り叩き込む。


「ご主人様だ!」

「ぐおっ!?」


 突然の襲撃に不審者は真人から手を離してしまう。

 ドサリと崩れ落ちた真人を一真は拾い上げると心音を確認する。

 生存確認を行い、無事である事を確かめた一真は真人に回復魔法をかけて慧磨のもとへ転移させた。


「ようし! 奴隷は大切に! いいご主人様だな、俺って!」

「く……。お前は一体……?」


 突然、姿を現した一真が何者なのかと不審者は計測器で戦闘力を計る。

 そして、計測器に表示された戦闘力は8。異能は置換。


「戦闘力8!? そのようなゴミクズに私は蹴られたというのか!?」

「誰がゴミクズじゃい!!!」

「ぐわっ!」


 大きな声でゴミクズと呼ばれて腹を立てた一真は不審者に急接近し、拳骨をお見舞いする。


「ば、バカな!? 戦闘力8のゴミクズの攻撃にダメージを受けるなんて!」


 脳天に拳骨を落とされた不審者は地面に倒れながら暴言を吐く。

 一真は馬鹿にされているのがはっきりとわかったので容赦なく殴り続けた。


「さっきから不愉快な事ばっかり言ってんじゃねえ!」

「うぎゃ! うぎ! ぐえ!?」

「何がゴミクズだ! 戦闘力8だ! ゴミクズに負けてるお前は何だって言うんですかー!」


 不審者の胸倉を掴み、往復ビンタを食らわして、耳元で叫び声を上げる一真。やっている事が完全に子供である。


「こ、これはきっと何かの間違いだ……」

「夢でも幻覚でもねえよ! 紛れもない現実だ! しっかり受け止めろ!」


 リズムゲーの如くビンタをする一真。

 ギャグ漫画のように何度も往復ビンタを受けて首が取れそうになる不審者はうわ言を口にしながら意識を失った。


「他愛なし! てか、戦闘力8ってなんだよ……」


 一体どういう基準なのかと疑問に思うも宗次を襲撃したであろう不審者を捕まえる事が出来たので今は良しとした。

 ひとまず、不審者を連れて慧磨のもとへ戻ろうかとした時、一真の作ったゴーレムから情報が一斉に送られてくる。

 突然、大量の情報が頭の中に流れ込んできて一真は眩暈を覚えるも、全ての状況を察して悪態を吐く。


「くそったれめ……」


 今回の敵は自分以外に対処出来ない事を知り、一真は頭を抱えるのであった。

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