第85話 頼れる相棒!
パチリと一真は目を覚ます。
椅子で横になって寝ていた一真はムクリと体を起こすと、毛布が掛けられていた事に気が付いた。
どうやら、眠っている間に誰かが掛けてくれたようだ。
一真は誰かは分からないが毛布を掛けてくれた事に感謝し、ゆっくりと椅子から起き上がる。
「うう~ん……。どれくらい寝てたんだ?」
スマホで時計を確認すると三十分ほど経過していた。
思っていた以上に眠っていたらしく、一真はやってしまったと頭を抱える。だが、すぐにまあいいかと切り替えて顔を上げる。
「さて、宗次先輩達は、と」
寝ている間に移動したであろう宗次達を探す一真。
キョロキョロと首を動かしていると廊下の曲がり角から看護師がやってきた。
ナイスタイミングであると一真は喜んで看護師のほうへ近寄る。
「あ、お目覚めになられたのですね」
「あ、はい。聞きたい事があるんですけど」
「剣崎宗次さんについてですね?」
「え、あ、はい」
あまりの察しの良さに一真は訝しげに看護師を見る。
「あ、すいません。説明不足でしたね。皐月さんが眠りに就いてから十分ごとに起きてないか確認に来てたんですよ。目が覚めていたら剣崎宗次さんが別室に移られたという伝言を預かってます」
「あ~、そう言う事ですか」
「はい、では、ご案内します」
そう言われて一真は看護師の後ろをついて行き、宗次達がいる病室へ向かう。
案内された病室は別棟にある所謂VIPが使うような個室に宗次は移動していた。
はて、宗次は何故このような待遇を受けているのだろうか。
確かに宗次は学生最強と呼ばれ、一真が現れるまではその名を馳せていたが一般人に違いはない。
将来はVIPになるかもしれないが、今はまだただの学生に過ぎないのだ。
だというのに、どうしてこのような特別扱いを受けているのだろうかと一真が首を捻っていると看護師が教えてくれる。
「翡翠の騎士と懇意にしている方を一般病棟には置いておけませんよ」
「そうなんですね。なるほど~」
看護師の言葉を聞いて納得する一真は手をポンと叩いた。
その様子を見て看護師は愉快な子だなと笑い、部屋の扉をノックする。
「失礼します。皐月君を連れてまいりました」
看護師が扉に向かって、そう言うと中から「入ってくれ」と返事がきた。
許可がもらえたので看護師は扉を開けて一真と一緒に部屋の中へ入る。
一真が部屋の中に入ると一緒に入ってきた看護師は頭を下げて一礼すると部屋から出て行った。
「よっす、一真!」
「宗次先輩っ!!」
大きなベッドの上で横になっている宗次は入ってきた一真に手を上げる。
無事に意識が回復し、元気そうな姿を見せる宗次に一真は喜んだ。
「目が覚めたんですね。よかったっす!」
「お前のおかげでな。一星から聞いたぞ? お前が翡翠の騎士を呼んできてくれて、皐月流で助けてくれたって」
「皐月流は万能にして無敵の流派ですから!」
「いや、ホントありがとうな。マジで死んだかと思ったから」
一真のおかげで完全に回復しているのだが念のためにベッドで寝かされている宗次は上体を起こして頭を下げる。
友人とはいえ真面目な態度で頭を下げている宗次を見て一真はそれ相応の対応を取る。
「頭を上げてください。ダチを助けるのに理由なんてないっすから」
「それでもだ。ありがとう、一真」
「うっす!」
と、宗次がお礼を言い終えると、すかさず彼の家族が一真に駆け寄り、「息子を救ってくれてありがとう」と涙を流しながらお礼を述べる。
それに続くように蒼依も一真のもとへ歩み寄り、深々と頭を下げ、感謝の気持ちと一緒に謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい。皐月君。貴方を利用するような真似をして……」
宗次が病院に緊急搬送され、医者から覚悟するように言われた時、蒼依はすぐさま一星に連絡を取ったのだ。
一星の特殊な異能も必要であったが、それ以上に一真の存在が必要不可欠であった。
紅蓮の騎士と関わりを持っている一真ならば過去に多くの者を救った翡翠の騎士と繋がりがあるだろうから、と。
宗次の危機と聞けば一真なら絶対に連れて来てくれるという確信があって、蒼依は一星から一真に連絡をするように誘導したのである。
「立花先輩の意図には気が付いてましたよ。あんまり俺を舐めないでほしいっすね!」
「怒ってないの? 私は……貴方を利用したのよ?」
「さっきも言ったっすけどダチを助けるのに理由なんていりませんて。利用されたなんて思っちゃいませんよ。だから、あんまり自分を責めなくていいんです。立花先輩の行いが宗次先輩を救うために繋がったんですから誇ってください。まあ、一番の功労者は俺なんですけどね!」
天狗のように鼻を伸ばして高笑いする一真。
蒼依は一真を利用するような事をして罪悪感を抱いていたが、ほんの少しだけ心が軽くなるのを感じた。
きっと、高笑いしているのも自分を慰めるためなのだろうと蒼依は感謝の気持ちで一杯になる。
蒼依は分かっていないが一真が笑っているのは特に理由はない。
「さて、宗次先輩も助かった事でめでたしめでたし、という訳にはいきませんね」
笑っていた一真は急に真面目なトーンで喋り始めるので室内にいた人間は、急激な変化に頭がついていかない。
だが、一真の言う通り、これで話が終わったわけではない。
大事な事を聞かなければならないのだ。
どうして、宗次が病院に運ばれる事になったのかを。
「そうだな。皆には話しておかないとな……」
宗次は自身の身に何があったのかを語り始める。
◆◆◆◆
一真が倉茂工業で遊んでいる頃、宗次は鍛錬に明け暮れていた。
いつものように第一異能学園の訓練所で鍛錬を行い、汗を流してから服を着替えて、自宅に戻っていると怪しげな格好をした不審者に遭遇する。
「戦闘力は1020か……。このような島国にもまともな戦士はいるのだな」
何やら、ボソボソと喋っているようだが上手く聞き取れず、宗次は下手に刺激しないようゆっくりと不審者から離れる。
「とはいえ、所詮は雑魚に過ぎんか」
「あ……?」
一瞬の出来事だった。
不審者と十数メートルほど離れていた宗次の胸から腕が生えている。
自分の胸から腕が生えているのを見た宗次は呆然とし、理解するまでに数秒かかった。
そして、理解した瞬間、口から血を吐き、後ろに立っている不審者へと顔を向ける。
「念のために
「な、なにを……言ってるんだ……?」
「よく聞こえないが、まあいいか。さらばだ、名も知らない地球人」
宗次の胸を貫いていた腕を引き抜いて不審者は陽炎のように姿を消す。
不審者が消えていく光景を最後に宗次の意識は途絶えた。
それから、しばらくして通行人が血だまりに倒れている宗次を発見し、警察と救急に連絡をした。
その後は知っての通り、宗次の家族のもとへ連絡が行き、家族から蒼依に伝わり、最終的に一真へ伝わったのだ。
◆◆◆◆
「というわけだ」
「……その不審者が何を言っていたかは、よく聞こえなかったんですね」
「ああ。最後の方は意識が朦朧としてたからな」
「そうっすか……」
宗次の話を聞いて一真は推理する。
先日、アメリカから教えてもらった未確認飛行物体の襲来。
そして、今回の一件。
一見すれば関係ないように思えるが一真はどうにも怪しいと首を捻る。
当時の状況はよく分からないが一真は使えるものを使い、今回の事件を追ってみる事にした。
「宗次先輩。ちょっと、電話してきます」
「おう。何かあったら力になる。いつでも言ってくれ」
「了解っす!」
病室で電話をするのは迷惑だからと一真は部屋を出ていく。
病院内にある電話スペースに向かい、一真は桃子へ電話を掛けた。
「もしもし、桃子ちゃん!」
『その声を聴く限り、無事だったようですね』
「うん! それでやってもらいたい事があるんだけど」
『みなまで言わなくても分かっています。剣崎宗次の一件についてですね? もうすでに調べは終わっています』
「流石、頼りになる桃子ちゃん! 愛してるぜ!」
一真のラブコールを無視して桃子は話を続ける。
『結論から言いますよ。人間の犯行ではありません』
ラブコールを無視されたが、それ以上に重大な情報を聞いて一真は気を引き締める。
「……やっぱり?」
『私も剣崎宗次の件が気になって調べたのですが、どうやら犯人の痕跡は一切残っていなかったそうです。監視カメラ、足跡、付着物などあらゆる機関を使って調べたそうですが……』
桃子の話を聞いて一真の考えは二つに絞られた。
「桃子ちゃん。犯人は予想なんだけど」
『宇宙人、もしくは貴方と同じく異世界の技術を持つ者か異世界人でしょうね』
「うん……。ちょっとばかし、今回は余裕ぶっこいてられないわ」
『そういえば剣崎宗次からは詳しい話は聞けましたか?』
「ダメ。不審者に突然襲われて、何か喋ってたらしいんだけど上手く聞き取れなかったそうだ」
『不審者? 背格好は覚えているのですか?』
「あ、それについてはまだ聞いてなかったわ……」
『では、また後で教えてください。こちらの方でも捜索してみますから』
「ういうい!」
という訳で一真は一旦宗次がいる病室に戻り、不審者の詳しい情報を聞いて桃子と共有するのであった。
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