第83話 え? 手伝ってくれるんです!?

 大統領との会合を終えて一真達は日本へと戻る。

 首相官邸に戻ってきた一真達は先程、世界会議で話題に上がった未確認飛行物体について確認する事にした。


「しつこいようで申し訳ないが一真君。本当に君でも探し出せないのかね?」

「残念ながらそうみたいです。現在、鳥の使い魔を通して世界中を飛び回らせていますが、発見には至っていません。まだあの未確認飛行物体が地球に降り立っていないか、もしくは俺の目すら欺くステルス機能を搭載しているかの二択ですね」

「そうか……。非常に申し訳ないのだが今後とも探索の方を続けてもらえないだろうか?」

「さっきも言いましたけど、地球侵略とか冗談じゃないんで出来る限りの協力はしますよ」

「ありがとう。私はこれから国会を開く。この緊急事態に国一丸となって対処しなければならないだろうからな」

「健闘を祈ります。俺の方は探索を続けながら、防衛システムを強化する為に倉茂工業に行ってきます。今回の件については話しても問題ないですよね?」

「ああ。問題ない。むしろ、早急に取り掛かってくれる方が我々としても助かる」

「全力を尽くしますよ」


 お互いにやるべき事は決まり、一真は桃子と桜儚を引き連れて倉茂工業へ転移した。


「束の間の平和でしたね……」

「そうね~。いつかはこういう日が来るとは思ってたけど、まさか私達の時代だとは思わなかったわね」


 イビノムが宇宙から襲来した生物なので宇宙人の存在については色々と言われていた。

 いつかは宇宙人が地球を侵略しにやって来るのではないかという仮説も立てられており、ネットの掲示板では今でもノストラダムスの大予言のような話題で盛り上がっている。

 無論、大半の人間は面白可笑しく言っているだけで信じてはいないが。

 まさか、本当にその日がやって来る事になろうとは思いもしないだろう。


「ちょっとばかし今回は不味いかもね~。俺でも見つけられないんだ。索敵の異能を持っている人間を総動員しても難しいかもしれん。現代科学を用いても無理なんだから、多分どっかで被害が出ない限りは捕捉する事は不可能かもね」

「うぅ……。そう考えると恐ろしいですね」

「あら、そう? 少なくとも私達は平気じゃない? だって、彼がいるんだから」

「そうだよ、桃子ちゃん! 安心して! 必ず守るから!」

「…………い、今だけは頼りにしてます」


 本当に不安のようで桃子は一真の服の裾をギュッと摘まむ。

 その様子が面白くて桜儚はクスクスと笑っており、一真の傍から離れないように歩いていた。

 強かな女性である。一真の傍ならば絶対に安心であると分かっての行動であった。


「さて、昌三さんと話に行くか」


 今回の件は急を要する。

 NASAが確認した未確認飛行物体はすでに地球に着陸しているかもしれない。もしかしたら、宇宙人がこの街に潜んでいるかもしれないのだ。

 なら、すぐにでも宇宙人という脅威から防衛システムを構築しなければならないだろう。

 でなければ、どのような目に合うか分からないのだから。


「捕虜、奴隷ならマシだけど家畜とかだったら嫌だよな~」

「唐突に恐ろしい事を口にしないでください! 想像しちゃったじゃないですか!」

「相手が侵略者だったら間違いなく人間はそういう扱いよね~」

「ああああああ! やだやだ! 絶対やだ!」

「大丈夫、大丈夫だよ、桃子ちゃ~ん」

「子供じゃないんだから、それくらい分かる事でしょ」


 仮に宇宙人が本当にいたとして、地球にやってきた目的が侵略であったなら、一真の言った通り悲惨な結末を迎えるだろう。

 そうならない為にも各国は協力し、一致団結となって今回の件に対応しなければならないのだ。


「昌三さ~ん、昌三さ~ん!」

「はいはい! お呼びでしょうか?」

「流石、昌三さん。呼んだらすぐに来てくれるね」

「まあ、あれだけ大きい声で呼ばれれば誰でもすぐに出てきますよ。それで本日はどのようなご用件で?」

「ちょっと、緊急事態なんだ。まだ政府から正式な発表はないんだけど、未確認飛行物体が地球に向かって来てるらしい」

「え! UFOが地球に!? その、らしいというのは?」

「NASAが捕捉してたんだけど、見失っちゃったんだって。だから、もう地球に来てるかもしれないし、お家に帰ってるかもしれない」

「そ、そうなんですね……。それは大変だ」

「うん。だから、防衛システムの構築を急ごう。あと、UFOについては政府から正式な発表があるまで緘口令を敷くから、そのつもりで」

「分かりました。無用な混乱を避ける為ですね。従業員を集めてきます」

「理解が早くて助かるよ。ありがとね」


 それからすぐに倉茂工業の従業員全員が集められ、一真に契約魔法で未確認飛行物体が地球に向かって来ているという情報を、政府から正式な発表があるまで漏らさないように契約で縛られる。


「それじゃあ、防衛システムの構築を進めるぞ! 宇宙人の技術は現代科学を遥かに凌駕している! だが、我々日本人の発想力は世界一、いいや! 宇宙一だ! 宇宙人が度肝を抜くような防衛システムを開発するぞ、お前等! 覚悟はいいな!」


 一真の演説に脳をやられ、テンションがおかしくなってしまった従業員達が拳を突き上げて「うおー!」と叫び声を上げている。

 暑苦しい光景に桃子や桜儚は肩を竦め、呆れているが防衛システムの開発はきっと想像もつかないものになるだろうと確信していた。

 こうなった時の一真と倉茂工業は色んな意味で期待できるのだ。


「よっしゃ~! やるぞ~!!!」


 一真を筆頭に倉茂工業の従業員達が嬉々として防衛システムの開発に尽力する。

 地球の危機かもしれないが男達は浪漫を求め、機能美を追求し、芸術を爆発させる事に拘った。

 下らない事をしていないでさっさと防衛システムを完成させろと怒鳴られる事になるだろうが、それでも男達は夢を追いかけない訳にはいかなかった。

 かつて抱いたあの日の少年心が忘れられないのである。


「やはり、宇宙人が敵ならロボットが必須ですね!」

「超巨大戦艦も必要ですよ! 勿論、ロボットに変形するやつです!」

「宇宙戦艦を作る日がやってきたのか……」

「搭乗員スキルを磨かないと……」

「総司令官になりてえ~」

「対艦ブレード作ろう!」

疑似的超重力波ブラックホールを作らねば……!」

「歌って踊れるアイドル探しましょうよ! 僕がライブ会場を積んだデッカイ宇宙船を作ります!」

「天を貫くドリルを作るのが俺の使命だったんだ……! 太陽系を超えて銀河すら貫くのを作るぞ~!」


 殺意マシマシである。

 宇宙人との戦闘を想定して従業員達はそれぞれ兵器の開発に着手する。

 防衛システムを構築する予定なのに、何故戦闘用の兵器開発になったのか。


「攻撃は最大の防御って言うじゃん」


 頭の悪い発言だがもしかすると真理なのかもしれない。

 そもそも、敵を打ち滅ぼせば守る必要など皆無だ。

 であれば、先手必勝の一手を打つのは案外悪い手ではない。

 しかし、今回は確実に向こう側が一枚も二枚も上手なので防衛システムは必ず作らなければならない。


「すでにアイデアは浮かんでいます! 我々にお任せください!」


 日本が生み出したサブカルチャーから数多くのアイデアを貰っているのだから、何も問題はない。

 強いて言えば完全に再現出来るかどうかだけだ。

 現代の技術で空想を実現出来るかどうかが最大の課題であった。


「俺もとことん協力しよう! 欲しいものがあったら何でも言ってくれ! ただし、俺が出来る範囲でだ!」


 当然、未知の魔法という技術を持つ一真が惜しみなく協力すると言えば、研究者を始めとした好奇心旺盛な者達が押し寄せ、人体実験にまで発展してしまった。

 よもや、異世界から帰還して恐れていた事を自分から進んでやる羽目になるとは一真も思いもしなかっただろう。


「もうお嫁にいけない!」

「裸にひん剥かれただけじゃないですか……」

「尻の穴から玉の皴まで見られたものね~」

「いや~、まさかあらゆるものを採取されるとは思わなかったぜ!」


 一真が提供していたのは血液だけだったのだが、今回は大盤振る舞いである。

 体液という体液を摂取され、体中の毛や皮膚を持って行かれたのだ。

 ちなみに体液の中に精液は含まれていない。

 流石に一真も恥ずかしかったので精液の摂取だけは断固拒否したのである。もっとも、女性職員が協力を申し出た時には心が揺れていたが。


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