第82話 UFOだ! アレ、UFOだ!!!

 ◇◇◇◇


「大統領! NASAから緊急連絡です!」

「何があった?」

「未確認飛行物体を確認したとの事です」

「まさか、異星人か?」

「分かりませんが、恐らくは……」

「すぐに各国へ通達しろ! 全く……やっと平和が訪れたというのに」


 二月が終わり、三月を迎えようとしていた時、全世界に衝撃のニュースが走る。

 未確認飛行物体の来襲。

 かつては目撃情報があったとされる未確認飛行物体が地球に向かって来ているとの事だった。


「急に世界会議って穏やかじゃいないですね」

「そうだな。異例の事だよ。何かあったのかもしれない」

「各国の首脳陣に異能者を集めて、何を話すんですかね?」

「緊急事態のようだから、恐らくはイヴェーラ教のような脅威についてだろう」

「まだあんなオカルト集団がいるんです?」

「規模は小さいが沢山いるんだよ」

「うへ~、マジっすか」


 世界会議の会場となったアメリカにやってきた一真と慧磨の二人。

 桃子と桜儚の二人も待機しているが出番があるかは分からない。

 今回の会議は内容が極秘とされており、慧磨でさえも何を話すのか知らされていないのだ。


「もっとも、今回は過激派テロ組織などではなく、もっと重大で深刻な問題ではなかろうかと推測しているがね」


 会場に案内されて、席に座った慧磨と一真。

 各国の首脳陣が一堂に会し、一礼すると会議が始まる。


「さて、本日はお忙しい中、集まっていただき、感謝する。早速だが本題に移らせてもらおう。まずはこちらをご覧いただけるだろうか」


 アメリカ大統領が示す方向を見ると、そこには真っ白なスクリーンがあった。

 次の瞬間、会場が真っ暗になり、真っ白なスクリーンに映像が映る。

 何やら映画のワンシーンのようで宇宙空間を進むピーナッツが画面に映っていた。


「なんすかね、アレ? ピーナッツみたいに見えますけど」

「……まさか」


 一真はよくわかっていないが慧磨は最悪の想像をしてしまう。

 間違いではなかろうかとアメリカ大統領に目を向けるが、彼は首を横に振って慧磨の想像が間違っていない事を示した。


「ああ……! そんな……!」

「どうしたんです? お腹でも痛くなりました?」

「心配してくれてありがとう。今は静かに話を聞いていてくれ」

「え~……。先に喚き始めたのはそっちなのに……」


 青い顔をしてふらついている慧磨を心配して声をかけたというのに、手で制されてしまい、遠ざけられた一真は不満そうに口を尖らせた。


「この映像はここで終わりだ」


 大統領の言葉通り、スクリーンに映し出されていた映像が止まり、会場に明るさが戻った。


「先程の映像を見て察していると思うが、改めて言わせてもらおう。未確認飛行物体が現在地球に向かって来ている。NASAが捉え、観測していたのだが、どうやら向こうに気づかれたのか、カメラから姿を消し、レーダーからも消失した。現在、あらゆる手を使って捜索しているが……今のところ成果無しだ」


 会場に動揺が走り、ざわめきが大きくなる。

 未確認飛行物体が地球に向かって来ているというだけでも衝撃的なのに、今は行方不明ときた。

 何故、地球に向かっているのか、目的は何なのか。

 そもそも、未確認飛行物体は本当に実在しているのかとどよめいていた。


「落ち着いてくれと言っても無理だろうが、まずは落ち着いて聞いてほしい。現状、我々に出来る事は守りを固め、警戒する事だけだ。何かあれば情報を共有し、対処したいと思う」


 結局、会議ではろくな案も出ず、解散となってしまった。

 それも仕方がない事だろう。

 いきなり宇宙人が攻めてきます。でも、いつどこでどのようかはわかりません。そのような事を言われれば警戒する以外に打つ手はないのだから。


 会議が終わって慧磨は一真達を引き連れ、日本へ戻ろうとしたのだがアメリカ大統領に呼ばれて、別室へと向かう。


「来てくれたか」

「何か御用でしょうか?」

「うむ。単刀直入に言おう。紅蓮の騎士の力を借りたい」


 予想は出来ていたが、まさかここまでストレートに言われるとは思っていなかった慧磨は目を丸くしている。


「どうやら、驚いてるようだね」

「ええ、まあ、予想はしてましたがまさかここまでストレートに言われるとは思ってもいなかったもので」

「ハハハ、なるほど。それは仕方ない。回りくどいやり方はミスター皐月の好みではないと思ってね」

「彼の人となりをよくご存じのようで……」

「随分と振り回されているが彼は善良な人間だ。地球が人類が危機に瀕していれば自ずと立ち上がってくれるだろう」

「いや~、随分と高評価してくれるじゃないですか。まあ、力を借すのはやぶさかではないんですが……」


 言い淀む一真に大統領と慧磨は首を傾げる。

 いつもの一真ならば俺に任せてくださいと自信満々に答えているはずなのに、今回はどうしたのだろうかと不安になってくる。


「実はさっきからあの未確認飛行物体を探してるんですが……見つからないっす」

Oh Jesus嘘だろ、なんてこった……!」


 大統領はオーバーリアクションのように頭を抱えて天井を仰ぎ見る。

 NASAが見失ってしまった未確認飛行物体を一真ならば必ず見つけ出してくれるだろうと思っていたのに、まさか見つけられないとは思わなかった。

 最大の切り札が機能しなくなった事を理解し、大統領と慧磨は頭を抱える羽目になった。


「一真君。冗談抜きで分からないのかい?」

「流石に今の状況で冗談は言いませんよ。多分ですけど生体反応、熱源、空気の流れなんかも隠せる超高性能なステルス機能でも搭載してるんじゃないですか? あの未確認飛行物体は」

「そこまで分かるのか!?」

「こちらとしても地球侵略とか嫌なんで全力で探すに決まってますよ。でも、見つけられないっす。もしかすると、まだ宇宙なのか。それともこっちの戦力を確認して逃げ出したかですね」

「そうだと嬉しいんだが……」

「とはいえ、油断はできませんね~。向こうの戦力や文明レベルが分からない以上、警戒するに越した事はありません。下手をしたら成す術もなくやられるかもしれませんし」

「恐ろしい事を言わないでくれ、と言いたいがあながち間違ってはいないんだよな……」


 何一つ情報がないというのはあまりにも恐ろしいものだ。

 対策の立てようもないし、どのように動けばいいかも分からない。

 今は大統領の言っていた通り、守りを固め、警戒を怠らないようにするしか方法はない。


「お友達になりに来たとかないっすかね?」

「だとすれば我々に観測されて姿をくらます必要はないと思うがね」

「ですよね~……」


 お友達になりに来たという万が一の可能性は潰えた。

 何の目的があって地球に来たのかは分からないが、少なくとも穏やかな話ではないだろう。


「まあ、でも、一つだけ言えるのは運がよかったですね」

「運がよかった? 君は本気でそう言ってるのか!? 地球が人類が未知との遭遇に恐怖するかもしれないというのに、そのような呑気な事を考えているのか!!」


 一真の発言に怒り心頭の大統領。

 敵か味方かも分からない未知の存在が地球に迫っており、自分達の文明を遥かに凌ぐ技術を持っているかもしれないのだ。

 だというのに、あまりにも呑気な発言をする一真に黙ってはいられなかった。


「……無礼を承知で言わせてもらうが、バカか、テメエは? 向こうはこっちが知覚しない場所からいつでも攻撃出来たんだぞ? 成す術もなくどころの話じゃねえ。気付かない内に殺されてたんだ」

「……ッ!?」


 言われてみるとそうだ。

 NASAが未確認飛行物体を捉えたが、そのすぐ後に姿を消し、未だに発見出来ていない。

 ありとあらゆる手を尽くし、一真という埒外の魔法まで使っても見つけられていない。

 つまり、向こうはその気になればいつでも地球を攻撃する事が出来た。

 そうしなかったのには何か理由があるのだろう。

 その理由が分からないが一真の言う通り、運よく首の皮が一枚繋がっているが今である。


「すまない。冷静さを欠いていたようだ」

「いや、分かってくれたならいい。とりあえず、俺も捜索は続ける。何か分かれば首相を通してそっちに情報を渡そう」

「助かる。こちらも出来る限りの対応は続けようと思う」


 日本とアメリカだけでなく各国と連携し、今回の未確認飛行物体への対応を強化するのが現状で唯一出来る事であった。

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