第81話 伝説を作るぞ~!
◇◇◇◇
バレンタインも終わり、卒業式までこれといったイベントもなく、普段通りの日常が過ぎていく。
『もしもし、一真君。今週の土日に撮影があるんだけど、どうする?』
「行きますッ!!!」
『分かった。監督に伝えておくね。あ、それから、他に人を呼ぶなら事前に僕に連絡してね』
「はいっ!!!」
聖一から特撮ドラマの撮影がある事を聞いた一真は早速、キング、覇王、太陽王、アーサー王といった名だたる世界的有名人に連絡する。
特撮ドラマの撮影があるから参加してほしいという旨のメールを送った。
紅蓮の騎士から突然のメールに驚いた各国の有名人は面白そうだからと二つ返事で了承し、急遽日本へ来日する事が決まる。
「もしもし、慧磨さん! 今週の土日にドラマの撮影があるんですけど、どうっすか!?」
『その件についてはこちらでスケジュール管理しているよ。残念だけど今回は参加出来そうにない』
「そうっすか……。キングや覇王も呼んだんですけど」
『ちょっと待て』
聞き間違いかな、と慧磨はぐりぐりとこめかみを揉んでから、もう一度一真に尋ねる。
『一真君。誰を呼んだって?』
「キング、覇王、太陽王、アーサーっす!」
『そ、そうか……。一旦、後で掛けなおす。それまで大人しくしててくれ』
「はい!」
慧磨は一真との電話を終えて、すぐにアメリカ、中華、エジプト、イギリスに電話を掛けて確認を取った。
その結果、一真が挙げた名前の人物は全員が了承しており、急遽来日が決まっていた事を知る。
泡を吹いて倒れそうになったが紅蓮の騎士から立っての願いだという事で今更断る事も出来ない。
発狂しそうになりながらも慧磨は一真が呼んだ彼等の来日を極秘扱いにして、情報規制をするのであった。
「もしもし、一真君」
『もしもし、それでどうなりました?』
「ああ。先方の確認は取れたよ……。すでに了承済みだという事もね」
『あ、すんません。先に相談するの忘れてました』
「……反省してくれているようで何よりだ。こちらの方でスケジュールの調整をするから君は大人しく待っていてくれ」
『分かりました! ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします!』
口元をひくひくさせながら慧磨は電話を切った。
傍にいた月海がお茶を差し出し、慧磨へ心配そうに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「……心身共に健康さ。医者からも健康の塊だとお墨付きをもらった」
「え? そうなのですか? 胃腸あたりが弱ってそうに見えましたけど」
「一真君のおかげで病気とは無縁でね……。定期的に魔法で治してもらってるんだ」
「あ~……」
人間ドッグがいらないのは大変素晴らしいのだが、ストレスの原因は一真なのでプラスマイナスゼロである。
とはいえ、不幸な事故さえなければ慧磨は長生きするだろう。
その分、一真に振り回され、苦労する羽目になるが自分が選んだ事なので文句は言えない。
「綾城君。悪いが日本の方は頼めるか?」
「畏まりました。根回ししておきますね」
「ありがとう。私は海外の方をなんとかしよう」
倉茂工業に務めている研究者が開発した合法ドラッグをキメて慧磨は海外への対応に勤しんだ。
土日の撮影会まで残り時間は少なく、慧磨は寿命を削る勢いで昼夜働き通したのであった。
「ドクターッ!」
「大丈夫っすか! 慧磨さん! 俺が来たからにはもう安心です!」
「う、うぅ……!」
当然だが無茶をし過ぎて倒れた時は月海がドクターこと一真を呼んで、死の淵から慧磨を蘇らせるという茶番があったとか。
◇◇◇◇
撮影会当日。冴木監督は紅蓮の騎士、キング、覇王、太陽王、アーサーといった名だたる能力者が勢揃いしているのを目の当たりにして、昇天しかけたが寸前のところで踏みとどまった。
「社長……。予算は足りるので?」
「先方から友情出演という事でギャラは一切いらないそうだ」
「……好きにやってもいいんですか?」
「常識の範囲内で頼むよ。もっとも、総理から聞く限り、君以上に暴走する者がいるそうだがね……」
「そ、そうですか……」
特撮オタクである自分以上に暴走する人間がこの現場にいるのだろうかと怪しむ冴木監督。
集まった人員を見ても、それらしき人はいないと思ったが、一人だけ心当たりのある人物がキラキラとした目を向けている事に気が付いた。
そう、一真である。
最強の一般人と称され、キングとも親交のある一真がソワソワしているのだ。
それを見た冴木監督はゴクリと喉を鳴らし、不安を抱いたが、もしかすると彼を上手く利用すれば歴史に残る名作を作る事が出来るのではないだろうかと期待するのであった。
「え、え~、では、本日の撮影スケジュールなのですがテレビスペシャル版と映画版を撮っていく形になってます。皆さん、大変お忙しい方々ですので土日で全てのシーンを撮影したいと思っておりますので、かなりスピーディなものになっております。よろしいでしょうか?」
念のために確認しているが既にその点については了承済みなので問題はない。
一真の時空魔法で撮影現場は覆われているので二日もあれば全てのシーンの撮影は可能だ。
しかも、本国で何か事件や災害が発生しても一真が転移で返してくれる手筈になっているので長居しても問題はない。
あまりにも一真が便利すぎて使い走りのようになっているが、そもそも最初に提案したのは彼なので何ら問題はなかった。
「で、では、撮影を始めていきましょうか」
豪勢すぎる面子に気圧される冴木監督だが、ここで怯んでいては歴史に残るような特撮ドラマなど撮れない。
ならば、胸に秘めたるオタク魂を燃やし、己の全てを出し尽くし、史上最高の特撮ドラマを撮ってみせると覚悟する。
覚悟ガン決まりのオタクはもう止まらない。
たとえ、全てが終わった後、逆さ磔の刑に処されようとも決行する事を決めたのだ。
まずテレビスペシャル版だが、大まかなストーリーはヒーローが負け、戦国時代よりも前から政府に仕えている謎の暗殺者が助太刀し、敵をやっつけるという話だ。
この話には残念ながら海外勢の出演はなしで一真と日本政府のみとなっている。その為、一真、慧磨、月海、桃子、桜儚の四人がメインだ。
「総理。
「ふむ……。どうやら、彼等には此度の敵は荷が重いらしいな」
「我々も助太刀いたしますか?」
「致し方なし。日本を守る為だ。影を呼べ!」
「畏まりました。すぐに呼んで参ります」
と、ここでカット。
首相官邸で慧磨と月海が一真達の存在を示唆して終了。
後は、忍者装備の一真とパワードスーツの桃子と桜儚が登場し、ヒーロー達が手も足も出なかった敵を倒してお終い。
「スペシャル版てあっさりしてますね」
「まあね。一時間という尺にどれだけ詰め込めるかだから。本当はもっとしたいんだけどそれは映画版でのお楽しみという事で」
「なるほど! それにしても慧磨さん割とノリノリでしたね!」
「うおっほん! いつもと変わらないが?」
やや恥ずかしかった慧磨は誤魔化すように大きな咳払いをして一真を軽く睨みつけた。
「うっす! そうっすね!」
近くで二人のやり取りを見ていた冴木監督は普段から会っているのだろうかと当然の疑問を抱いたが、世の中には知らない方が幸せな事もあるだろうと見て見ぬふりをするのであった。
「それじゃ、大本命に移りましょうか」
というわけで海外勢も含めた豪華な映画版の撮影が始まっていく。
主演である俳優や女優も流石に今回の面子には酷く緊張しており、いつもより動きがぎこちなかった。
冴木監督も彼等の内心は理解しているが撮影スケジュールもあるので心を鬼にして叱りつける。
「何やってるんだ! 時間が限られてるって何度も説明しただろう!?」
「すいません、すいません!」
「君達が緊張しているのは分かる。でも、こういう時こそ平常心で普段通りの演技をするんだ! そうすれば君達はきっと輝ける。だってそうだろ? これから先、これ以上の人達と撮影する事なんてないんだから」
「はい、はい! 頑張ります!」
途中、そのようなやり取りがあったが撮影は進んでいき、一番肝心の戦闘シーンとなった。
「う~ん……」
「どうしたんすか? 冴木監督」
「いやね、キングや覇王といった豪華な俳優陣が揃っているのにCGで済ますのはな~って思って」
「なるほど。ちょっと、紅蓮の騎士さんに何か方法はないか聞いてきますね」
「は?」
自作自演の一真は紅蓮の騎士と相談するフリをして冴木監督のもとへ戻る。
「えっと、それで紅蓮の騎士はなんて言ってたんだい?」
「俺に任せろって言ってました!」
「そっか~」
もう考える事をやめた冴木監督は一真を中継役にして紅蓮の騎士へ指示を出し、怪獣を作ってもらった。
超ド迫力な怪獣が土から作られ、冴木監督はあんぐりと口を開けて、しばらくの間、呆けていたがこれなら最高のシーンが取れると大興奮。
しかも、紅蓮の騎士が操っているのでキングや覇王や太陽王とド派手なアクションもこなせるので最高の一言しかなかった。
「日ノ本を守る為、私も出撃する! 行くぞ、閻魔!」
無論、慧磨も登場し、超巨大イビノムと激闘を繰り広げた閻魔を使って一真が作った怪獣とバトルする。
最後は一真が作った怪獣が合体し、全員からの一斉攻撃で大爆発して、幕を下ろす。
「君達のおかげで日本は救われた。ありがとう」
「気にする事はないさ! いつでも俺を呼んでくれ!」
「友好国が危機に瀕しているのならば駆け付けないわけにもいかないだろう」
「この美しい国が蹂躙されるのを黙っては見てられなかった。力になれたのなら嬉しいよ」
「我々と同じ志を持った騎士がいる国を見捨てるわけにはいきませんからね」
キング、覇王、太陽王、アーサーといった四人とそれぞれ握手する慧磨。
最後に大団円を迎え、映画版の撮影は終わりを告げるのであった。
「この二日間、面白かったぜ、一真! また誘ってくれよ!」
「新鮮な気持ちになれたよ。一真君。誘ってくれてありがとう」
「面白い体験をさせてもらった。一真君。また会おう」
「ドラマの中の騎士に負けないよう僕達も頑張るよ。今回は誘ってくれて本当に感謝してる。ありがとう、一真君」
「来てくれてありがとうな! それじゃ、またな!」
こうして特撮ドラマの撮影が終了し、少しばかり日本を満喫した彼等は祖国へ帰っていく。
「さてと、それじゃ俺等もお家に帰りますかね」
ひと段落着いた一真はお腹が減ったと言いながら家に帰るのであった。
****
あとがき
ついに念願の100万文字を超えました。
そして、書きたかった日常回も終わり、最終回へ向けてラストスパートです。もしかしたら不定期更新になるかもしれませんが、応援していただけると有難いです。
今後ともよろしくお願いいたします。
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