第78話 益荒男なり

 BBQも終わり、一真はホテルマンと一緒に後片付けを始める。

 しかし、ゲストだという事でホテルマンから手伝わなくても大丈夫だと言われ、宗次達のもとへ戻った。


「お前、意外と働くよな……」

「ついつい動いちゃうんですよ。まあ、癖みたいなもんす。それよりこれからどうします?」

「そうだな。夕食まで時間はたっぷりあるからゆっくり観光でもするか?」

「ハワイは思ったより広いからね。全部は見て回れるか分からないけど観光名所巡りはしてみたいね」

「俺は水着コンテストがしたいっす!」

「一真……。唐突に頭のおかしな事を言うんじゃない」

「観光名所なんて初日に回ってるでしょ! だったら、水着コンテストとかの方が有意義のはずっす!」

「理屈は分かるけど、そうじゃないんだよ……」


 駄々をこねる一真に困り果てる宗次と隼人。

 どうしたものかと困っていたら女性陣が一真を咎める。


「どうせ、一真君が女の子の水着姿を見たいからでしょ」

「水着コンテストという名目であれば皆着てくれると思ってるんでしょうね」

「一真のスケベ」

「人様に見せても恥ずかしくない体はしとるけど赤の他人に評価されるのは気に食わへんね。あ、でも、一真さんと二人きりでならええよ?」

「弥生さん。ホテルへ戻りましょうか。エスコートしますよ」


 目にも止まらぬ速さで弥生の手を取り、紳士面をする一真の心はピンク色に染まっていた。

 これには流石の弥生も呆れてしまい、苦笑いを浮かべてしまう。

 当然、他の女性陣はその事を快く思っておらず、一真をギタギタのボコボコにした。


「はへふほ……」

「学習能力がないのか、お前は……」


 袋叩きにされて地面に倒れ伏している一真を見て、頭が痛そうにこめかみを抑える宗次達。

 どうして学習しないのかと呆れてしまうが、それもまた一真の魅力なのであろうと笑うのであった。


「仕方ないな! それじゃあ、押忍! 真の益荒男は誰だ!? というタイトルで男の水着コンテストをしましょう! そうすれば女の子達も男がやったんだから自分達もしてやるかってなる流れっす!」

「どんだけ水着コンテストやりたいんだ。あと、男の水着姿なんてどれも一緒だろ……」


 すぐに復活を果たした一真は欲望丸出しの願望を口にする。

 呆れ果ててしまう宗次達であったが驚く事に女性陣が乗り気であった。


「いいわよ。それならやってあげても」

「そうですね。女性ばかり苦労するのではなく男性も同じ目に合うのなら妥協しましょう」

「審査してあげるね、一真」

「ふむ。そう言う事なら私も反対はしません」

「よっしゃ~! 許可を得たぞ~!!!」


 足場が砂で不安定なのに垂直3メートルも飛び上がる一真に全員が目を見開いた。

 そして、同時になんだかアホらしくなってケラケラと笑い始める。


「まあ、ちょっとした余興もいいか」

「う~ん。一応鍛えてはいるけど優勝は難しそうかな」

「マジでやるんすか……」

「お~! 楽しみだ!」


 宗次と隼人はすでにやる気で大我は戸惑っていた。

 一星だけは皆と盛り上がれる事に喜んでおり、やる気に満ち溢れている。

 そして勿論、女性陣の言質を取った一真もやる気に溢れており、その瞳に希望が映っていた。


「よし! やるぞ~!」

「おー!」


 一真が拳を突き上げ、一星がそれに続く。

 宗次、隼人、大我の三人はやれやれと肩を竦めるも最後は一真と同じように拳を突き上げたのである。


「はい! というわけでホテルの人達と一緒にコンテスト会場を作りました! 男子生徒は全員エントリー済みです! 逃げ出さないよう紅蓮の騎士に会場の出入り口を塞いでもらいました!」

「横暴だ!」

「職権乱用するな!」

「非人道的だぞ!」

「紅蓮の騎士の友人だからって反則だ!」

「卑怯者! 正々堂々と手続きしやがれ!」

「うるさい! 敗北者ども! そんなに嫌なら俺を倒してから言え!」


 と、一真の無茶ぶりに腹を立てた生徒達を煽ると一致団結され、本当に襲い掛かってくる。


「うわあああああ! やめろーっ!」


 もみくちゃにされていた一真であったが最終的には全員やっつけ、山のように積みあがった屍の上に君臨する。


「これで全員の承諾を得た! それじゃあ、第一回! 押忍、真の益荒男は誰だ!? 決定戦を開催する!」


 ハワイの暑さにやられたのか、一真に負けたからなのか、倒れていた男子生徒達は起き上がって「まあ、仕方ないか」と水着コンテストを始めるのであった。


「エントリーナンバー1! 優勝候補にして史上最高の問題児! 言い出しっぺだから俺が一番にやると宣言した皐月一真君! どうぞ、ご入場ください!」


 審査員は女子生徒。

 司会役はノリノリのホテルマン。

 そして、コンテスト会場の右端から姿を見せたのは日焼けサロンにでも行ったのかと言うくらい真っ黒なブーメランパンツを吐いた一真が現れた。


「ムキッ!」


 コンテスト会場にいた女性陣が悲鳴を上げ、黄色い歓声を上げる中、自分で効果音を口にしながら一真はマッスルポーズを披露した。

 水着コンテストの趣旨を無視した究極のアホである。

 ここはボディビルコンテストの会場ではないのに一真は惜しみなく鍛えあげた体を見せつけたのだった。


「う~ん! 見事な筋肉! しかし、これは水着コンテストだったのでは?」

「自己アピールっす!」

「なるほど! 私には全く理解出来ませんが一部の女性陣からは熱烈なコールがあるので、とりあえずは成功という事でしょう!」

「パワーッ!」

「はい。それじゃ、次がありますんでご退場ください」

「ヤーッ!」


 退場する際にもアピールは忘れず、一真は会場にとんでもないインパクトを残したのであった。


「え~、では、気を取り直してエントリーナンバー2! 同じく優勝候補にして元学生最強! 一真が一番なら俺が二番だ! 剣崎宗次君! ご入場ください!」

「あ~、どうもどうも。一真に負けないよう頑張ります!」

「では、アピールタイムです!」

「ゴリラのモノマネします! ウホ! ウッホ、ウッホ! ウホホ!」


 審査員席に座っていた蒼依が頭を抱える。

 馬鹿は一真一人だけでいいというのに、どうして宗次までと蒼依は嘆いていた。


「そうだった……。皐月君が飛びぬけて馬鹿だったから忘れてたけど宗次も馬鹿だった!」


 そもそも初対面で一真と仲良くなり、親友にまでなっているのだ。

 類は友を呼ぶ。まさにその言葉通りである。

 一真と宗次の出会いはきっと必然だったのだ。


「はい。まさか、二回連続でとんでもないのが出てきましたが次からはまともになると思います。エントリーナンバー3。第七異能学園の元生徒会長にして不屈の男と称される桐生院隼人君! ご入場お願いします!」

「アハハハ~。前の二人がインパクト強すぎて霞んじゃいそうだけど一生懸命頑張ります」

「では、アピールタイム! どうぞ!」

「えっと、それじゃあ、あやとりしま~す」


 それから隼人を皮切りに男子生徒の水着コンテストは無難なものへシフトチェンジしていく。

 手品、一発芸、ダンス、アカペラ、といった各々得意なもので自己アピールしていき、水着コンテストは幕を下ろした。


「さて、それでは第一回、押忍、真の益荒男は誰だ!? コンテストの優勝を発表します!」


 会場には出場した男子生徒全員が揃っている。

 聞き覚えのあるBGMが鳴り響き、スポットライトが上下左右に揺れ動く。


「優勝は桐生院隼人君でーす!」

「あ、え~っと、ありがとうございます。嬉しいです」

「優勝の決め手は何だったんでしょうか?」


 司会が審査員に尋ねると、


「一番無難なのと身内贔屓です」

「らしいです!」

「まあ、予想出来たかな~っと」

「ちなみに最下位もいます!」


 審査員から突然の発表に司会は目を丸くする。


「え? 確か、一位だけの発表だけだったのでは……?」

「満場一致で皐月一真君が最下位です! 一人だけ趣旨を履き違えてたからです!」

「そんな横暴だ! 自己アピールしただけじゃないですか!」

「最下位は罰ゲーム! ビリビリ電気椅子よ!」


 突然、一真は両腕を掴まれ、混乱している内にいつの間にか用意されていた椅子に座らせられる。


「スイッチ、オン!」

「あばばばばばばばば~っ!」


 布面積が少ないせいで余計に電流が体を流れ、一真はしばらく痛みに悶絶するのであった。

 しかし、一真には希望が残されていた。

 そう、女子生徒達の水着コンテストだ。

 言質を取り、約束していた一真は立ち上がり、審査員席に座っている楓達に向かって大声を上げる。


「それじゃあ、約束通り、そっちにも水着コンテストをしてもらいましょうか!」

「何言ってるの? もうやったじゃない?」

「……? 何を言ってるんです? やってないじゃないですか!」

「一真君。私達は審査員をやったじゃありませんか」

「審査員? それはまあコンテストですからね」

「一真。私達は水着コンテストをするとは明言してない」

「…………!?」


 思い返せば彼女達は一言も口にはしていないのだ。

 やるとは言っていたが何をとは明確にしていない。

 つまり、ちゃんと聞いていなかった一真の早とちりである。


「そ、そんなの詐欺だ! 許されていいはずがない!」

「許すも何もちゃんと聞いていない一真さんがいけないんですよ?」

「ぐぬぬ……」


 もう何も言い返す事の出来ない一真はぶつけどころを失った怒りを抱いて海へ飛び込んだ。


「こんなのあんまりだ~! うわああああああああああんっ!」


 バッシャバッシャとトビウオのように沖の方へ泳いでいく一真。

 海水がやけに染みたのか、一真の瞳からは涙が零れていた。


「ちょっと可哀想だったかしら……」

「あれくらいはいい薬よ」


 一真が沖へ姿を消している間、慧磨が言っていたようにテレビ局の人間がビーチに現れ、学生達にインタビューを始める。

 無難な回答を述べていく学生達。

 今後の抱負や将来の夢などを語り、インタビューはつつがなく終わった。

 その後、テレビ局の人達はハワイの観光スポットを撮影し、何事もトラブルなく取材を終えたのである。


「どうして、僕がいない間に!?」

「それは一番自分が理解してるでしょ?」

「酷い! 酷すぎる!」


 沖から帰ってきた一真は自分がいない間にテレビ局のインタビューがあった事を知り、嘆き悲しんだ。

 自分もインタビューされたかったとビーチに崩れ落ちるのであった。


 実のところ、テレビ局も一真には困っていたのだ。

 話題の学生ではあるが破天荒すぎてどう扱えばいいのか分からず、近づくのを躊躇っていた。

 テレビ映りとしてはバッチリなのだが暴走されて映像がお蔵入りしても困る。


 しかし、弁える時はきちんと弁えているので分別はしっかりしている。

 だから、大丈夫なのではなかろうかという声もあったが最終的にはしゃいでいる姿だけをカメラに収めて、インタビューは見送ったのである。

 もしかしたら、失敗だったかもしれないが大失敗よりはマシであろう。

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