第77話 仲直りとはいかずとも

 即興バンドが解散し、ライブ会場もホテルマンの手によって速やかに撤去される。

 そして、すぐにホテルマンの手によってBBQ会場が出来上がった。

 丁度いい感じに学生が集まっているので、そのままBBQが始まる。

 時刻は正午前だが、肉や野菜が焼き上がる頃には正午になるだろう。


「いや~、楽しかったっすね~」

「そうだな~。まさか、ああまで盛り上がるとは思ってなかった」

「一真君には毎回振り回されてばかりだけど、今回は楽しかったよ」

「今回初めて皐月の無茶ぶりに付き合わされましたけど割と楽しかったわ」

「それはよござんす!」


 用意されているチェアに腰を下ろし、ジュースで乾杯している四人。

 するとそこへいつものメンバーが集まってくる。

 詩織、火燐、雪姫、楓、弥生、蒼依といった女性陣だ。

 これでいつものメンバーが揃ったかと思えば、そこへ新たな顔ぶれが姿を見せた。


「えっと~……俺達もいいですか?」


 一星と可憐と麻里奈だ。

 その後ろに面白そうだからと神奈まで来ていた。


「お、お前……! 第二異能学園の現生徒会長まで落としたのか!?」

「え? 何言ってるんだ? 一真は」

「後ろにいるだろ! 出オチキャラが!」


 一星の後ろに立っていた神奈に一真が指を差した。

 神奈は一真の言いように腹を立て、一星を押し退けて前に出てくる。


「だから、誰が出オチキャラやねん!」

「神奈ちゃんだよ?」

「きっしょいわ! 急に下の名前で呼ぶなや!」

「ごめん。でも、石動いするぎ先輩って言うの面倒だし」

「ウチは先輩! 石動先輩! リピートアフタミー!」

「ウチは先輩!」

「そっちちゃうわ!!」

「そ、そろそろ俺も喋っていいか?」


 一真と神奈が漫才してると疎外感を感じていた一星が割り込んでくる。


「邪魔や、ボケ!」

「そうだそうだ! 急に割り込んでくるな!」

「ひ、酷い! そこまで言わなくても……」

「自分、空気読みや? ウチと第七がボケてる時に真面目な奴が入ってきたらしらけるやろ?」

「そうだそうだ!」

「壊れたラジオみたいやんけ!」


 同じ事しか言わない一真の頭を叩く神奈。

 鋭いツッコミに一真は楽しくなる。


「え、えっと、ごめん……」

「如月!」


 しょんぼりと肩を落としていた一星は突然、一真に呼ばれてパッと顔を上げる。


「もう帰れ」

「なんでそんな悲しい事言うんだよぉ!」

「うおっ!」


 椅子に座っている一真に飛びつく一星。

 浜辺でのBBQという事もあって二人とも海パン姿だ。

 上半身裸の男同士がくっつく最悪の絵面が出来あがる。


「気持ち悪いわ! はよ離せ!」

「嫌だ! 一真がいいって言うまで離さない!」

「ああもう! 分かった! いてもいいから早く離れろ!」

「分かった!」


 ゲシゲシと一星を蹴り飛ばして、ようやく解放された一真はドッと疲れたようで大きな溜息を吐いた。


「お前等いつの間に仲良くなったんだ?」


 宗次が知っている限りでは、一真と一星は顔を合わせてはいるがそこまで仲が良くないという認識であった。

 しかし、今さっき見た光景は宗次が思っている以上に仲がいいのだと認識を改める事となった。


「あ~、まあ、ちょっと稽古に付き合ってやったらこうなりました」

「はい! 俺と一真は友達なんです!」

「お、おう。そうか。まあ、生徒会長同士なんだから仲良くやれよ」

「はい!」

「うい~っす」


 元気よく返事をする一星とダルそうに返事をする一真。

 二人の温度差に宗次は苦笑いしている。

 きっと、この先も二人は変わらないだろう。


「あ~、えっと、赤城さんと如月さんに石動さん。よかったらこっちに座る?」


 男性陣の隣で女性陣が固まって座っていた。

 ずっと放置されていた可憐と麻里奈は詩織に誘われ、近くの空いている椅子に腰を下ろした。

 神奈は自身の先輩である弥生の近くに座り、ジュースを受け取ってぐびぐびと飲み始める。


「あ、あの~……」


 神奈と同じようにジュースを受け取ってちびちびと飲んでいた可憐は恐る恐るといった感じで手を挙げながら、詩織達に問いかけるような眼差しを向ける。


「えっと、その……さ、皐月さんはいっつもあんな感じなんですか?」

「あ、あ~……まあ、そうね。大体いっつもあんな感じ」


 詩織達の傍で男性陣と盛り上がり、馬鹿笑いしている一真。

 そんな一真を横目に女性陣は可憐に顔を向けた。


「一真君の事、嫌い?」


 火燐の直球な質問に可憐は虚を突かれたが正直に答える。


「はい……。だって、皐月さんは初対面の一星に失礼な態度ばかりだったんですよ? 普通はちゃんと挨拶したり、自己紹介したりするじゃないですか? それなのに一星の事を無下にしてばかりで……」


 可憐の話を聞いて女性陣は確かにと頷く。

 良くも悪くも一真のノリは時に悪作用を及ぼす。

 可憐には一真のノリが受け入れられなかったようで印象は最悪のまま。


「う、う~ん……。確かに一真君は如月君の事をぞんざいに扱ってるもんね~。しかも、初対面でやらかしてるし……」

「本人に悪気は……多分あるんでしょうけど……」

「悪意があるのなら尚更悪くないですか? 一星は何もしてないんですよ? ただ挨拶しに行っただけなのに……」


 そう、その通りだ。

 一星は一真に挨拶に行っただけなのに無下にされ、ぞんざいに扱われたのだ。

 気の知れた友人ならば百歩譲って良しとするが、初対面の人間にする事ではないだろう。

 一真が可憐と麻里奈から嫌われるのは当然の結果である。


「可憐ちゃん、麻里奈ちゃん。皐月君って誰にでも同じだと思うよ? 宗次と初めて会った時も呼び捨てにしてたし」


 蒼依がかつて学園対抗戦で一真が宗次を呼び捨てにした事を教え、可憐と麻里奈は驚きのあまり立ち上がってしまう。


「え!? 剣崎先輩を呼び捨てにしたんですか!?」

「うん。まあ、その後、すぐに意気投合しちゃって。今では魂の友とか生き別れた兄弟とか言ってるわ。だから、何て言うんだろう……。皐月君は悪い子ではないんだけど、失礼な事をしちゃうから大目に見てあげてって事かな。でも、今回悪いのは皐月君だから許さなくていいと思うわ」


 一真のコミュニケーションは時として人を傷つける。

 一星本人は一真と友達になれた事で特に気にしてはいないが、可憐や麻里奈といった周囲の人物はどうしても気に食わない。

 好きな人が馬鹿にされていい気分でいられるほど出来た人間ではないのだ。


「はい。という事で全ての元凶である一真君を連れてきました」


 火燐によって氷像と化した一真が運ばれてくる。

 とんでもない事になっている一真を見て、彼を嫌っている可憐と麻里奈も流石に心配そうな顔をした。


「大丈夫ですよ。すぐに溶かしますから」


 二人に心配しなくても大丈夫だと言い聞かせながら雪姫が氷像になった一真を溶かしていく。


「あつっ! あつっ! あっつい!!!」


 上半身部分が解放された一真だったが下半身は凍ったままだ。

 逃げないように固定されており、どうにもならず、一真は可憐と麻里奈と向き合う。


「あ~、ひとまず事情は聞かせてもらった。今回の件に関しては俺が悪かった、です。如月の扱いに関してはまあ、悪ノリみたいな部分があったのは認める。ただ今後態度を改めるような事はしない。俺の中でアイツは気持ち悪い奴だという認識になってる。だから、その点は大目に見てもらえると有難い」

「……思うところはあるけど、反省してくれてるなら今回の件については、これ以上蒸し返さないようにする。それから、今後については……まあ、見てたから分かってる。一星も多分同性の友達が出来て舞い上がってるんでしょうね」

「そう言ってくれると助かるよ~。ちなみにどうにか出来ない?」

「ごめんなさい。まさか、あそこまで拗れてるとは思ってなかったから」

「兄さんは子供の頃から私達とずっと一緒だったから同性のお友達がいなくて寂しそうにしてましたから。きっと、今すごい楽しいんだと思います。ですから、仲良くしていただけるとこちらも助かります。後、出来れば適切な距離感なども教えて頂けると幸いです……」

「もう友達やめようかな……」


 どうやら、幼少期の頃から一星には同性の友達がいなかったらしい。

 それを聞いた一真はだから距離感がバグっているのかと理解し、友達でいる事を本気でやめようかと悩むほどであった。

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